海と共に生きるノルウェーが目指す高収益なサステナブル・シーフード(前編)

海と共に生きるノルウェーが目指す高収益なサステナブル・シーフード(前編)

極寒の海に無数の島々、岩礁、湾、フィヨルドが織りなす長大な海岸線が続く北欧の国ノルウェー。海岸線に沿ってメキシコ湾流の暖水が北極圏の冷たい水域に流れ込むという自然環境に恵まれ、漁業や養殖業が盛んな国です。

かつて、ノルウェーでも乱獲のため水産資源が枯渇寸前に陥りました。しかし、1970年代に漁業政策の転換をはかり、資源の回復に成功。今では資源の持続性を最優先にしつつ、高収益な漁業を実現しています。サクセスストーリーの背景にあるものとは何か。現在も厳しい資源管理を続けるノルウェーのサステナブルな水産業について、ノルウェー水産物審議会(NSC)の日本・韓国担当ディレクターを務めるヨハン・クアルハイムさんにお話を伺いました。

ノルウェーの漁業者も資源管理に反対だった

―― そもそも、ノルウェーではなぜ、資源管理を進めることになったのでしょうか。

ノルウェー近海には昔からさまざまな人たちが漁に来たので、利害を調整する規制は19世紀からありましたが、第二次世界大戦中は海に出られず、1945年に漁を再開したノルウェー人は、それこそ狂ったように魚を獲ったのです。

当時の海は魚に満ちあふれ、それを獲り尽くすとは誰も想像していませんでした。ところが、1950年代に漁船用ウィンチ(網を巻き上げる装置)などの漁具が進歩して漁獲量が莫大に増え、1960年代には海からニシンが消えてしまいました。

その時、人々は気づいたのです。獲りたいだけ獲るのではなく、生態系のバランスを守るために規制が必要だと。そこで、ノルウェー政府は1970年代にニシンの漁獲規制をはじめとする漁業への規制を始めました。また、1977年に200海里の排他的経済水域(EEZ)を設定した多くの沿岸国は資源管理に大きな責任を負うようになりました。

さらに追い打ちをかけるように、ニシン資源枯渇の後、1970年代に漁獲が急増したカラフトシシャモや1980年代にはタイセイヨウダラが枯渇に向かいました。人間による過剰漁獲に加え、カラフトシシャモが減ってエサに困ったアザラシがタラを食べるようになるといった食物連鎖の影響もあります。そこで、政府は包括的な厳しい漁獲規制を導入しました。

1980年代に政権を担ったノルウェー初の女性首相グロ・ハーレム・ブルントラントは、『地球の未来を守るために』(“Our Common Future”)という国連のレポートを取りまとめた人でもあります。レポートが打ち出した「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」という持続可能な開発の概念には、当時のノルウェー漁業の危機的な状況も反映されていたわけです。

将来世代の水産資源を確保するために厳しい漁獲規制を実施した政府は、さらに、持続可能な漁業を管理する方法として、各漁船に漁獲枠を配分する個別割当方式を推進しました。

―― 政府が次々に規制を打ち出して混乱はなかったのでしょうか。

もちろん、漁業者たちは大反対でした。規制など要らない、自由な海の男でありたいと。甲板に立ってタバコをくわえ、「こりゃひどい。よくもこんな目に遭わせるもんだ」と不満をぶちまける。十代の頃にテレビで見た漁師の姿を今でも覚えていますよ。

 

規制のおかげで高収益な漁業に転換

―― そういう漁業者の反対をどう乗り越えたのでしょうか。

政府が漁獲規制、漁獲割当、漁具の規制などの漁業管理制度を導入してから、しばらくして、漁師たちが再び漁に出てみると、なんと、海に魚が戻っていたのです。規制のおかげです。

規制で短期的な利益は失われても、我々は海の魚を回復しつつある、長期的な視点で考えよう、そうすれば将来の世代のために獲り続けられるだけの魚で我々も収益が得られる……そう考えるようになった漁師たちは政府の施策を受け入れました。

山あり谷ありの改革だったと思います。1986年頃、ノルウェー政府は漁業へのあらゆる補助金を廃止する方針を打ち出しました。この時も漁業者は猛反対しました。我々に死ねと言うのかと。

しかし、90年代の初め、政府は補助金を廃止しました。

ーー なぜ、補助金の廃止に踏み切ったのでしょうか。

漁業者の自立を促すためです。1960年代に海底油田が発見され財政が潤ったことを背景に、ノルウェー政府は漁業者に多額の補助金を与えてきました。しかし、補助金による漁獲能力の向上が乱獲につながり、結果として資源の枯渇を招いたのです。そのことを指摘した研究者の声が政府の方針転換につながりました。

また、水産物生産量の90%を輸出するノルウェー漁業にとって、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)、欧州経済漁域(ETT)協定などが求める補助金廃止に対応するという面もあります。漁業改革にも多額の補助金が投入されましたが、構造改革が完了し、政府は「これからは自分で収益を上げるように」と言ったわけです。

そして今、ノルウェーの漁業は高収益なのです。国からの助けを借りることなく、漁業者は船のサイズや船団の数を減らして漁業をよく管理してきました。船ごとの漁獲割当があるからできることです。

ーー どういうことでしょうか。

まず、漁船ごとに漁獲枠が割り当てられているからこそ、漁業者には自分が得られる収益を計算するインセンティブがあり、漁業を続けるかどうか、自分で決めることができるわけです。

ーー 船の数を減らすのはなぜですか。

適正規模まで漁獲能力を減らすためです。ノルウェーでは漁獲枠と漁船がセットになっていて、船をスクラップにする場合に限り、その船の漁獲枠を他の漁師に売ることができます。船が1隻減り、買った漁師は自分の船で2隻分の漁獲枠を獲って効率を上げることができるわけです。公的資金で買い上げることなく、漁船を減らしていける仕組みです。

―― 収益の上がる漁業者しか業界に残らない仕組みですね。

そうです。今では漁業者は漁業管理制度を支持し、個別割当方式を守っています。規則を守っていれば利益を十分確保できますから。

 

漁師はノルウェーの若い世代に人気の職業(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

―― 今では漁師は若い世代に人気の職業と聞きましたが本当ですか。

ええ。問題は、高齢の漁師がなかなか引退しないことです。すごく稼げますから。国は新規参入のための漁獲割当も確保しています。ノルウェーの漁業新聞には、自分の船を買って漁に出た若者の記事が毎週のように出ていますよ。

科学的アプローチとタイセイヨウサバ問題

―― 日本では改正漁業法が施行され、改革が始まったばかりです。漁業の改革を成功させるためには何が必要でしょうか。

ノルウェーと日本には文化的な違いがあることは理解しています。それに、社会的な文脈も歴史的な背景もあります。
ノルウェーの経験から言えば、科学者たちと緊密に連携して、漁獲可能量(Total Allowable Catch;以下TAC)を確立して漁獲量の上限を決めることです。

TACによって、ノルウェーの漁業者は計画的な漁をするようになりました。科学的な調査に基づいて沿岸国のTACを設定して、それに基づいて国ごとの漁獲割当量を決めれば、ノルウェーの漁業者は自分の船の取り分がわかる。漁獲割当量に基づいて、自分の船を担保に銀行の融資を受けることもできます。

 

ノルウェーでは漁船ごとに漁獲可能量が割り当てられている(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

―― 科学的なアプローチが重要なのですね。

日本でも現在進行中ですね。日本と違う点は、ノルウェーでは漁業の90%は他の沿岸国と協調しながら操業していることです。タラ、サバ、ニシンなど、魚はノルウェーだけのものではなく、アイスランドやEUの沿岸国と分け合っています。だからこそ、特定の国の利益から独立した組織、たとえば、ICES(国際海洋探査協議会)の科学者たちによる資源評価が重要なのです。

―― タイセイヨウサバは沿岸各国の漁獲割当がまだ合意に至っていません。今後の交渉の行方についてどのように見ておられますか。

昨年はどの国も同意できず、難しい状況になりました。ICESの科学者たちは、大西洋サバは持続可能だと言っており、大西洋サバ全体のTACはありますので、ノルウェーの取り分を漁業者に説明する必要がありました。TACの35%ではノルウェーが獲り過ぎだと他の国々は言うかもしれません。これまでにも議論が過熱することはありました。

しかし、交渉の席に着く必要があります。歴史的に私たちは常に合意を見出してきましたから、サバをめぐる状況も長くは続かないでしょう。同じTACの範囲内で、沿岸各国の利益のために再び合意できると思います。

サステナブル・シーフードを届ける流通業者の責任

―― 日本とノルウェーのサステナブル・シーフードのマーケットはどう違いますか。

消費者にとって、サステナブルかどうか見分けるのは難しいことです。30分程度の買い物の間に何百もの意思決定をして選ぶわけですから、消費者としては店側にあらかじめサステナブルな商品を並べてもらいたいですよね。そして、魚を仕入れるバイヤーも、そういう期待にプレッシャーを感じて責任を果たすべきなのです。

イギリスで仕事をしていた時、ある店に明らかにサステナブルでない魚がありました。私はその小売業者に尋ねました。「なぜ、サステナブルでないと自分でも言っている魚を並べているのですか」と。

魚を海に戻すわけにはいかないので、売るしかありません。しかし、彼はサステナブルな商品を仕入れるか否かを自分で決められるのです。責任を持って行動すべきです。お客様は見分けられないのですから。

―― ノルウェーでは小売店で販売されているのであれば、サステナブルな水産物であると考えてよいということですか。

 

ノルウェー西海岸に面した都市ベルゲンの風景(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

消費者はそう期待しています。さもなければ小売業者は自分のブランドイメージを損ないます。あるいは、NGOがやって来て、「何をやってるんだ!」と騒ぐでしょう。

 

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ヨハン・クアルハイム
1971年ノルウェー・モロイ生まれ。ノルウェーのThe Norwegian College of Fishery Scienceで水産学の修士号、パリのENPCで国際ビジネスのMBAを取得。ノルウェー大手水産会社での勤務のほか、2007-2013年にはノルウェー水産物審議会パリ事務所にてイギリス・フランス市場担当、2019-2020年には世界最大級のシーフードビジネス会議「北大西洋シーフードフォーラム」のマネージングディレクターなど、ノルウェーおよび世界の水産業界にて様々な役職を歴任。2020年12月より現職。

 

取材・執筆:井内千穂
中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2016年〜2019年、法政大学「英字新聞制作企画」講師。主に文化と技術に関する記事を英語と日本語で執筆。

 

 

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