
2022年、日本で水産流通適正化法が施行されました。これは、IUU(違法・無報告・無規制)漁業由来の水産物の市場流入阻止を目的とするアジア圏で初めての法律です。施行から2年が経ち、日本をはじめとするアジア圏ではルールを適切に遵守している水産従事者を不当な価格競争から守ることができているでしょうか。また2024年9月、シーフードレガシーを含むIUUフォーラムジャパンは、IUU漁業によって調達された水産物の国内市場への流入防止強化や人権侵害への対策を求める共同宣言書を、国内主要企業13社とと共に提出しました。日本国内だけでは解決し得ないIUU漁業問題や人権侵害問題を防ぐために、それぞれの国で何をすべきでしょうか。
「東京サステナブルシーフード・サミット 2024」で行われたパネルディスカッション「【生産】日本・アジア圏の漁業・養殖業で、ネイチャーポジティブの実現と国際食料安全保障に貢献する: IUU漁業と労働者人権侵害の撲滅」では、セイラーズフォーザシー 日本支局理事長の井植美奈子さんがモデレータを務め、その他6名の方々が世界のIUU漁業対策・人権侵害対策の現状と行方について議論しました。
・スティムソン・センター 環境安全保障プログラム サリー・ヨーゼルさん
・韓国海洋水産省 遠洋漁業部 イ・ジュヨンさん
・水産庁 漁政部加工流通課 中平英典さん
・台湾農業部 漁業署 チャン・ウェイシャンさん
・ILO(国際労働機関) デイビッド・ウイリアムズさん
・イオントップバリュ株式会社 商品開発本部 松谷神也さん
アメリカでは2018年にSIMP(米国水産物輸入監視制度)が設立され、13の魚種、米国水産物輸入の約40%を対象にしています。しかし、2019年には24億ドル相当ものIUU漁業由来生産物が米国市場に流入していました。そこで2022年、2023年にはSIMPの改正が行われ、2024年にはステークホルダーとのワークショップを実施。
強制労働について政府、業界、利害関係者の役割と責任を明確にすることや、情報収集の効率化、他国との連携が重要であることを確認しました。
韓国では、IUU漁業がもたらす食料安全保障への脅威に対処するため、国際協定である違法漁業防止寄港措置協定(PSMA)を国内法に組み込みました。さらに漁獲証明書制度(CDS)※など、トレーサビリティを向上するための制度も活用し、輸入規制を強化しています。
また、NGO と協力し、移民・出稼ぎ漁業者の労働条件を改善すべく対策を実施しています。そして、これらの対策を実施するための国際的な能力開発・人材開発も推進しています。
日本では2020年、IUU漁業対策としてまだ対象魚種は少ないながらも、初めて流通段階の規制として水産流通適正化法を2022年に施行しました。2024年には漁業法と合わせて水産流通適正化法の一部を改正し規制を強化しています。強制労働に関する人権問題については、企業任せにするのではなく企業が取り組みやすいように環境を整えるのが政府の役割であると考え、業界全体にわたる人権関連のデューデリジェンスに関するガイドライン「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を経済産業省から発信し、推進しています。
台湾では国内のトレーサビリティを取るための第一歩として、2015年に陸揚げ申告規制管理を国として確立し、2017年には2度目の申告漏れから罰則を与えるとするなど現状に即した改訂を行いました。陸揚げの申告は専用のアプリを通じて簡単に行うことができ、申告を行うほかにも全国での総漁獲量や残り漁獲枠などの確認もすることができます。特にシラスウナギについては稚魚を漁獲し、養殖場で成魚になったものを輸出していて、その漁獲量などをアプリで記録する計画も進めています。
私が推進しているRISSC(強靭で包括的かつ持続可能なサプライチェーン)プロジェクトは水産養殖も対象になっていて、特にフィリピンのエビ養殖について取り組みを行なっています。これまで水産業の労働問題については漁業に焦点が当てられてきましたが、養殖の現場でも低賃金や児童労働、時間外労働、社会的保障の不足などの問題があり、事業者の理解も不十分です。バイヤーと生産者との信頼関係を高め、対策を進めていく必要があります。
IUU漁業撲滅への取り組みとしては、水産流通適正化法が発令され施行されるまでの間に、法律遵守徹底のため関係事業者へ説明・確認を実施してきました。また、主に取り扱う「特定第二種水産動植物(4魚種)」について適正採捕証明書の入手・確認などを進めてきました。そして、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた対応として、独自のイオンサプライヤーCoCを制定し、開発商品サプライヤーへの研修を実施しています。
また、2025年から水産流通適正化法が適用されるシラスウナギについて、輸出側にあたる台湾のウェイシャンさんは、まだ国内では漁業法で管理されておらず、日本の水産庁と協力して透明性のある管理システムや法律の整備を進めていると報告しました。
輸入側にあたる日本の中谷さんは、シラスウナギは高い商材であると同時に関わる事業者も多く規制が難しいと感じており、国際的に漁獲量が不明な部分もあり、台湾と主な輸入国である日本・中国・韓国の4国で話し合いながら調査・対策を進めることが大切だと話しました。また、人権問題に対する規制が被害者の真の救済につながるものかどうか、流通との両立も踏まえて考えていく必要があると指摘しました。
これに対して松谷さんは小売業者として、うなぎの資源管理は難しいものの、これがひとつのきっかけとなってサプライチェーンのあらゆる関係者が意識を持って取り組めば、必ず良い方向に向かっていくと思っている、と期待を示しました。
このように、世界各国でIUU漁業と労働者人権侵害の撲滅に向けた活動が行われています。今後も各国・各機関で連携し、漁業・養殖を問わず幅広い魚種を対象に活動が広がっていくことが望まれます。
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