日本の水産物業界は急速に変化しています。例えば、2020年に漁業法は、漁業管理に関する指針を大幅に変更しました。一方、日本の生産者や漁業者は、持続可能な水産物への関心が高まっている国内市場と、国内消費の減少とは対照的に成長し続けている輸出市場の両方に向けて、責任ある供給を保証するようになってきています。
本インタビューは、日本の水産物生産における持続可能な慣行と責任ある管理による影響の拡大に焦点を当てた、欧米の水産メディアSeafood Sourceの4回にわたるインタビューシリーズで、最終回はシーフードレガシーのCEOであり、創設者の花岡和佳男のインタビューをお届けします。
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第1回 世界初 マダイのBAP認証取得 その背景にあるものとは
第2回 水産資源の持続的利用、プラ削減、健康領域商品の拡充。ニッスイが進める多角的なサステナビリティ
第3回 世界30か国のサプライヤーと共に挑む、水産サステナビリティ戦略(前編)
世界30か国のサプライヤーと共に挑む、水産サステナビリティ戦略(後編)
Seafood Source:シーフードレガシーは、日本における水産物の持続可能性の向上に10年近く取り組んできました。日本におけるムーブメントを牽引しているものは何ですか。また、それらはどのように発展していますか。
花岡:2015年当時、日本では漁業や水産業に持続可能性という概念はなく、ほとんどの企業がサステナビリティに懐疑的でした。しかし、2015年は、国連の「持続可能な開発目標」の導入と、2020年の夏に東京オリンピックが開催される決定という2つの外的要因があったため、責任ある水産物の扱いに取り組む組織を始めるには良いタイミングでした。この2つの要因によって、持続可能性が日本の政策立案者と企業の両方にポジティブな形で注目されるようになりました。また、企業はサステナビリティを押し付けられてはいないと感じたのです。
私はシーフードレガシーを設立する前に国際的なNGOで働いていたのですが、私の経験では、日本のNGOはそれぞれが独立して活動しており、欧米のソーシャルセクターのような協力や連携がありませんでした。欧米のソーシャルセクターは、はるかに成熟しているように思えました。この経験から、シーフードレガシーは設立当初から、日本において水産物問題に関する国内外のNGOの取り組みをまとめる役割を担いました。この活動は、日本のNGO界全体をより強固なものにしています。現在では、目標の共有がさらに進んでおり、それぞれのNGOが果たすことのできるさまざまな役割を特定し、どのように協力していくかを決定しています。
現在、特にパンデミック以降、新たな外部要因が日本の水産業界に影響を与えています。ニッスイやマルハニチロなど、大手水産会社の多くは、持続可能で責任ある慣行のための新しい動向に前向きに反応しています。
私たちは、日本社会はイワシの群れに似ていると考えています。強力なリーダーや明確な目的地はありませんが、誰もが他の人と一緒にいたいと思っています。孤立したくないのです。企業は、孤立することにリスクがあると感じているため、将来が明るくないときは団結したいと考えます。私たちシーフードレガシーのアプローチは、市場のリーダーになる1つの大企業を特定することではなく、企業グループ、あるいはより広い水産物業界を前進させるというものです。業界をまとめて動かすにはさらに時間がかかりますが、これが日本で変化を推進する最善の方法です。
Seafood Source:水産物の持続可能性の分野において、日本で懸念が高まっている問題にはどのようなものがありますか。
花岡:日本は、EUと米国に次いで3番目に大きな輸入水産物市場です。日本の消費量の半分は輸入品に頼っています。輸入品は主にスーパーマーケットや大手レストランで消費されますが、国産品は地元の魚屋や伝統的な海鮮料理店で消費されることが多いです。
シーフードレガシーは、市場変革を推進し、世界の水産物業界における大きな難題のいくつかに取り組むために、日本市場に製品を輸入している影響力のある大企業のグループと協力することが変革の最大のチャンスであると考えています。日本の輸入量で1位はサーモン、2位はマグロとカツオ、3位はエビ、4位はイカです。これらの魚種とIUU(違法・無報告・無規制)漁業に焦点を当てることで、私たちは日本市場がIUUと強制労働をなくすための世界的な取り組みにさらに貢献できるようにしていきます。
日本政府が約1年半前から厳格な輸入規制を始めたのは素晴らしいことですが、輸入規制の対象種は4つしかなく、まだとても基本的なものです。これは、EUや米国の当局と連携してIUUやその他の問題に対処するために、私たちが達成したいことからはほど遠いものです。
日本の大手小売業者数社からは、自社の店舗で販売している人気商品をすべて輸入規制の対象としてほしいという意見が寄せられました。水産物業界の日本企業が自社の社名を使って政府に公的な要請をすることは異例です。これらの企業による取り組みは、私たちが推進する日本での強力なムーブメントの一部です。
IUUに加え、労働者の権利問題への関心も急速に高まっています。今は、おそらく、環境問題よりも労働者の権利に関する問い合わせが大手小売企業から多く寄せられています。企業は、労働者の権利について、何が問題か、企業が何をすべきかなど、基本的なことを理解したいと考えています。シーフードレガシーはNGO、フィッシュワイズ(FishWise)やその他の団体と提携し、日本企業の人権デューデリジェンスの取り組みや水産物生産の社会的リスクの理解を支援するプログラムを構築しました。
もちろん、気候変動や小規模漁業者も重要な問題ですが、現在、シーフードレガシーが戦略的に優先して取り組んでいるのは、海洋資源の繁栄、IUUとトレーサビリティ、労働と人権の問題の3つです。
Seafood Source:多くのNGOは企業のエンゲージメントだけに焦点を当てていますが、シーフードレガシーは、市場変革、金融業界の変革、政策改革という三本柱に焦点を当てています。シーフードレガシーは金融業界の変革と政策改革にどのように取り組んでいますか。
花岡:金融業界の変革とは、国内の大手金融機関に水産物関連企業のESGへの取り組みを啓蒙し、関与してもらうことです。私たちが望んでいるのは、システムを変えることです。シーフードレガシーでは、市場変革、金融業界の変革、政策改革が、日本や世界の水産物システムという三輪車の3つの車輪だと考えています。
企業が単独で先導するのは難しいため、金融と規制上の圧力が市場の変革を促し、セクター全体を前進させることになるのです。この三本柱によって、業界は日本社会に合った形で前進できるのだと思います。出る杭は打たれるということわざがあります。日本のこのような状況下で持続可能性を前進させるためには、杭が飛び出しすぎないように進めることが不可欠です。
Seafood Source:シーフードレガシーは他の国にも活動を広げているようですね。それは、このモデルが世界的に有効だとお考えだからでしょうか。それとも、日本で取り組んでいる問題が他国の漁業管理に関連しているからでしょうか。
花岡:答えは両方だと思います。シーフードレガシーは、日本のためだけでなく、世界の持続可能性と責任に貢献する方法として、日本の市場変革を推進したいと考えています。ですから、日本の購買力を最大限に活用するために、生産側に経済的なインセンティブを与えることは理にかなっていると思います。これは変化を推進する1つの方法です。
しかし同時に、私たちは9年間、日本の市場変革に取り組んできました。たとえ日本が100%サステナブルになり、EUやアメリカも同じようにサステナブルになっても、他の市場がそれに続かなければ、グローバルに展開できる解決策はないと私たちは考えています。この市場変革を他の成長中の水産物市場に拡大することが重要であり、その多くは東アジアや東南アジアにあります。
私たちは現在、何がうまくいき、何がうまくいかないかを学んだ多くの経験を持っており、それを他の市場と共有し、彼らの活動を加速させることができます。シーフードレガシーは、日本の購買力を活用して、世界の慣行に影響を与えることができます。アジアの市場や企業文化に合ったシーフードレガシーモデルを使用して、日本国外に変化をもたらすことができるのです。
Seafood Source:日本の持続可能性の向上に実際に貢献しているプログラムや企業にはどのようなものがありますか。
花岡:日本の食品大手3社、マルハニチロ、ニッスイ、極洋は、以前は持続可能性についての自社の取り組みについて話すと批判されることを心配していましたが、現在では、協力して取り組んでいることを発信し、サステナビリティへの取り組みを積極的に共有しています。これらの企業は今や業界全体に良い影響を与えています。
また、三菱、ニチレイ、丸紅といった巨大で影響力のある企業も、自社の製品やプログラムで何ができるかを示しています。イオン、セブン&アイ・ホールディングス、日本生活協同組合連合会は、この動きをリードする小売業者の代表です。他の小売業者だけでなく、レストラン、加工業者、輸入業者、流通業者、それらのグローバルサプライチェーンの他の企業も、この持続可能性のトレンドを追っています。
シーフードレガシーで過去10年間に行われたすべての仕事と、どれだけ多くの企業が責任ある慣行の推進を受け入れてきたかを振り返ると、信じられない思いです。この10年間のソリューションの素晴らしい協働解決策について、また、2030年へのロードマップの協働デザインのために私たちにできることに焦点を当てていきます。
*最後に、連載企画にご協力いただいた、Seafood SourceのContributing Editor、Ned Dalyさんに心より感謝申し上げます。