
2025年4月28日から30日、韓国の釜山で第10回Our Ocean Conferenceが開催され、「Our Ocean, Our Action」をテーマに、海洋環境の保全と持続可能な利用に向けた多様な取り組みが世界各国から共有されました。
最終日である4月30日には公式サイドイベントとして「水産物トレーサビリティの確保とIUU(違法・無報告・無規制)漁業対策におけるテクノロジーの役割と国際協調(The Role of Technology and Harmonisation in Ensuring Seafood Traceability and Fighting Against IUU Fishing)」が開催されました(主催:Korean Federation for Environmental Movement、Friends of the Earth Korea、EU IUU Fishing Coalition、IUU Forum Japan、US IUU Fishing & Labor Rights Coalition、Coalition for Fisheries Transparency)。
IUU漁業を撲滅していくために、テクノロジーをいかに活用し、水産物流通の透明性向上をはかっていくか、さらにはその効果を加速させるための国際協調の重要性について、韓国、欧州連合(EU)、マーシャル諸島、そして日本の行政担当者や専門家が一堂に会し、議論しました。
<登壇者紹介>
マーシャル諸島
海洋資源局長 グレン・ジョセフ
EU
欧州委員会 海事・漁業総局長 チャルリナ・ヴィチェバ
韓国
国立水産物品質管理院長 ヤン・ヤンジン
日本
水産庁漁政部加工流通課 課長補佐 大竹悠
モデレーター
Oceana 米国事業統括責任者 ベス・ローウェル
(敬称略)
最初に登壇したのは、マーシャル諸島海洋資源局長のグレン・ジョセフ氏。世界で消費されるマグロの半分以上を供給している中西部太平洋諸国9か国からなるナウル協定加盟国(PNA)で行われているカツオの資源管理を例に出しつつ、資金や技術が不足しがちな島嶼国において、AI活用を含めた電子モニタリング導入の重要性を指摘しました。
また、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)が抱える管理上の問題点についても指摘。沿岸水域ではオブザーバー(監視員)配置が全漁船に義務付けられるのに対し、公海では同様の措置がなく、延縄漁業にいたってはオブザーバー配置率が5%未満しかないなど透明性が著しく欠如していると述べた上で、解決に向けた国際協力の必要性に言及しました。
続いて、欧州委員会海事・漁業総局長のチャルリナ・ヴィチェバ氏は、まず、EUはIUU漁業に対し、断固たる不寛容の姿勢を貫いていることを強調。2008年にIUU漁業規則を採択して以降、2023年には包括的な管理システムの見直しを行い、昨年1月から改正内容の施行が段階的に始まったことを共有しました。
改正後には、これまで紙ベースであった漁獲証明制度(CDS)を完全に電子化するため、IUU漁業由来の水産物がEU市場に流入するリスクを大幅に削減することが期待されると述べました。また、国際協力も重視しており、EU市場へ輸出を行う国々への支援策として「警告カード制度」を運用。規則を順守していない国に対する警告となる「イエローカード」とEU市場からの排除を意味する「レッドカード」がありますが、制度としてはいきなり「レッドカード」を出すのではなく、対話と協力を促す「イエローカード」を設けることで、適切な法整備と施行の支援や能力開発など、包括的な支援を提供していると述べました。
韓国国立水産物品質管理院長のヤン・ヤンジン氏は、自国の漁獲証明制度について詳しく紹介しました。主に西アフリカで漁獲され韓国では重要な食用魚であるニベ科の2魚種(bobo croakerやlongneck croaker)、あるいはサンマを漁獲した漁船が韓国の港に入る場合は、入港する少なくとも24時間前に漁獲証明書と事前申請書の提出が求められます。漁獲証明書は同国の港湾物流情報システム(PORT-MIS)と統合され、電子的な提出もできますが、証明書の提出がない場合や不備がある場合には入港を保留するなど、厳しい措置を取っていると話しました。また、今後、持続可能な沿岸漁業開発法(Sustainable Coastal Fisheries Development Act)を制定することにより、沿岸漁業者にも報告を義務付けるなどさらなる違法行為の防止策について展望を語りました。
日本の水産庁の大竹 悠氏は、日本は海洋国家として、また世界第3位の水産物輸入国として、IUU漁業を持続可能な漁業と文化への深刻な脅威と認識し、その対策に積極的に取り組んでいると述べました。国連のSDGsやG7、APECなどの国際的な枠組みと連携し、地域漁業管理機関(RFMOs)やFAO、WTOが求めるIUU対策を実施するとともに、2022年には「特定水産動植物等流通適正化法」を施行。
この法律ではアワビやナマコなどの国内流通管理に加え、国外からのIUU漁業由来の水産物の流入を防ぐため、EUの漁獲証明書制度を参考に開発された漁獲証明制度を導入し、IUU漁業のリスクが高いサバやサンマなどを対象に、輸出国政府による証明書の提出を義務付けています。外為法による輸入管理の対象であるマグロなどと合わせると、日本の輸入水産物の約3割が輸入管理の対象になっていると報告しました。これらの制度の対象は段階的に拡大されており、太平洋クロマグロの国内取引における記録の義務付けは2026年4月から開始される予定です。
大竹氏は、制度の実施にあたっては、NGOや業界団体など多様なステークホルダーとの連携を重視しながら、輸入主要魚種のIUUリスク分析を行っており、リスクの高いサメやエビなどを追加対象魚種として検討していると話しました。また、約50の国・地域との対話を通じて、同法の効果的な実施に向けた国際的な連携を強化していく意向を示し、IUU漁業の排除と持続可能な漁業の実現に向けた日本の貢献を強調しました。
質疑応答セッションでは、各国の今後の取り組みと課題が議論されました。韓国のヤン氏は、現在検討中の持続可能な沿岸漁業開発法の施行によって、国内だけではなく輸入水産物、さらには養殖水産物も漁獲証明書の対象にしていくことをめざす、と話しました。日本の大竹氏は、導入から2年強となる輸入管理システムにおいて、漁獲情報のデジタル化や事業者・旗国との連携強化の必要性を指摘し、段階的な解決を目指すとしました。
マーシャル諸島のジョセフ氏は、公海と排他的経済水域(EEZ)では、RFMOによる現行の管理方法にギャップがあることや、オブザーバー乗船率の低さについて問題提起し、旗国による真剣な対応を求めました。EUのヴィチェバ氏は、グローバルなIUU漁業対策の重要性を強調し、主要市場国による影響力の活用と、非協力的な国への厳格な対応を訴え、EUの警告カード制度を例に、水産物の輸入管理規則導入の推奨と、電子的な漁獲報告による透明性向上の有効性を指摘しました。
全体として、透明性の向上、データに基づいた管理、国際協力の重要性が確認され、各国の状況に応じた制度設計と、課題解決に向けた連携の必要性が強調されました。
クロージングでは、韓国環境運動連合(KFEM)のキム・ソル氏が登壇し、魚が獲られてから食卓にのぼるまでを追跡できるようにすること(トレーサビリティ)の重要性を力説。韓国では国内水産物の6%しかトレーサビリティの対象となっていないことや漁業従事者の高齢化、漁獲量の減少などの問題にふれつつ、韓国政府に対し、透明性確保のための明確なロードマップを作成するよう求めました。
最後に、モデレーターのベス・ローウェル氏は、セミナー全体を通じて共有された知見と実践例を総括し、政治的な意志と国際的な協力の重要性を指摘しつつ、Our Ocean Conferenceのテーマである「私たちの海、私たちの行動(Our Ocean, Our Action)」にならい、今後もIUU漁業撲滅のための国際協調と水産物の輸入管理をすすめることで業界全体の透明性を高めていく必要性を強調し、締めくくりました。