マグロの一大消費国、日本として違法フカヒレ漁防止のためにできること

マグロの一大消費国、日本として違法フカヒレ漁防止のためにできること

「フカヒレスープ」で知られるフカヒレはサメのヒレを使用しており、高級食材として世界的に珍重されてきました。しかし、漁獲の際、ヒレだけを獲って、魚体だけを生きたまま海に捨てる(シャークフィニング)はその残忍性や絶滅が危惧されているサメを保全する観点から多くの国や地域で禁止されており、IUU(違法・無報告・無規制)漁業として指摘されることもあります。

たとえば「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」やEUなどではシャークフィニングが禁止されています。また、日本でも、「サメ類の保護・管理のための 日本の国内行動計画*1」が設けられており、省令 によって採捕したサメのすべての部分を陸揚げまでの間、船上において所持することを義務付けています。

今回取り上げる、台湾もシャークフィニングを禁止しています。しかし、2024年6月、台湾の漁船がシャークフィニングを行っていたことが発覚しました。しかも漁業活動が、日本の排他的経済水域(EEZ)内、もしくはWCPFCの管轄下にある公海で行われた可能性が指摘されています。

過去にも同様の事件が発覚した台湾。背景にある問題とは何でしょうか。
私たち日本とこの問題のつながり、マグロの一大消費国だからこそ、シャークフィニング問題解決のためにできることは何か、国際動物福祉基金(以下、EAST)の協力でお伝えします。

*1 https://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/bunyabetsu/pdf/samerui_keikaku160315_a.pdf

 

2千から3千匹分のシャークフィニングが発覚

2024年6月19日、台湾の漁業省(Fisheries Agency)と海洋委員会(the Ocean Affairs Council)は台湾の南方澳漁港で金滿發(読み:ジン・マン・ファ)66号の漁船を共同検査し、船内から約2,000~3,000匹分に相当する、6.5トンのヨシキリザメのヒレを発見しました*2。船内のスペース確保のため、ヒレ以外の魚体は生きたまま海に廃棄されたとみられています。

台湾は2011年にサメのヒレは切り離さず魚体に付いたままで港に降ろすことを義務付けています。違反した場合は、罰金や漁業免許の取り消し処分が科されますが、今回の事件によって依然として抜け道が残っていることが露呈しました。

写真:台湾農業部漁業署

 

*2 https://www.fa.gov.tw/view.php?theme=Press_release&subtheme=&id=2027

繰り返される違法行為 原因は罰則のゆるさ

金滿發66号は過去にも違反行為を行っており、2021年には13トンのサメからヒレを切り取り、魚体を違法に廃棄していたことが通報されました。船の運航会社(vessel operator)には500万台湾ドルの罰金、16か月の漁業免許停止処分が科されましたが、3年後に再び違法行為が行われたのです。

違法行為が繰り返される背景には法の抜け穴があります。台湾の現行法で漁業免許の永久取り消し処分を下せるのは、1年に2回または合計で3回違反行為を行った場合のみだからです。つまり、一定回数の違反を行わない限り、漁業免許の永久取り消しは難しく、再び違法行為を行う可能性が残ります。

この事件を通じて、フカヒレ目的のIUU漁業が依然として行われていること、規制の抜け道が明らかになりました。台湾当局は、サメの保護に向けた規制を強化し、いかなるシャークフィニングも認めない「シャークフィニングゼロ」政策を発表していますが、金滿發66号のような再犯が防げていないことが問題視されています。

日本市場にシャークフィニングにかかわったマグロが出回る可能性

EASTの調査によると、世界中のフカヒレ取引のほぼ半分が、台湾、香港、シンガポールといった市場で行われています*3。つまり、この問題を根本的に解決するためには、これらの関係各国が協力して対策を強化する必要があります。

日本はフカヒレ取引の主要国ではありませんが、台湾との水産物取引の重要なパートナーであり、シャークフィニング撲滅に向けて果たす役割は決して小さくはありません。

その理由はマグロにあります。日本で消費されるマグロの大部分は台湾から輸入されますが、この中に違法なシャークフィニングにかかわった漁船が漁獲したマグロが紛れ込む可能性があります。

*3 https://www.ifaw.org/international/journal/global-shark-trade-findings

 

農林水産物輸出入統計(2023年)よりシーフードレガシー作図

 

その結果、日本のバイヤーが知らないうちに違法行為に加担しているマグロを買い付けてしまうリスクが高まります。ではどうすれば、違法行為への加担リスクをなくし、シャークフィニングを撲滅することができるのでしょうか。日本の企業、政府ができることは何でしょうか。

日本の企業、政府が取るべきアクション

・透明性の強化

日本の企業ができることは、より厳格なトレーサビリティ(追跡可能性)システムの導入です。シャークフィニングのようなIUU漁業由来の水産物を回避し、サステナブルでレスポンシブルに調達された水産物を日本の水産品消費者へ確実に届けるためには、調達にかかわる漁船が漁場でどのように操業がされ、またどのような航路を取ったかに関する情報や、管理当局または中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)を通じて入手できる漁獲物に関するデータやルールの順守状況などを把握することが重要です。

・MSC認証の取得

MSC認証漁業漁業ではシャークフィニングが行われていないことを高い確度で証明することが求められます。審査にあたっては、シャークフィニング防止のための方策の導入とその履行確認の根拠の提示が求められます*4。シャークフィニングを排除していくためには、こうした認証制度を利用していくことも効果的です。

*4 https://times.seafoodlegacy.com/column-revision-msc/

・水産流通適正化法、対象魚種の拡大

IUU漁業で漁獲された水産物の日本市場への流入を防ぐためには、「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の対象魚種を拡大し、シャークフィニングに関与する水産物の流通も徹底的に監視することが重要です。

今後は、事業による環境インパクト軽減の取り組みの一環として、シャークフィニングへの関与を注意深く排除していくことが日本企業に求められていく可能性もあります。問題をそのままにするのではなく、先手を打って対策をとっていくことが重要です。

 

台湾と日本の相互協力が問題の解決に

台湾の法規制における抜け道を塞ぐためには、まずは台湾当局の法の厳格化が必要ですが、日本をはじめとする関係諸国の協力も不可欠です。

日本は、マグロの一大消費国としてシャークフィニング、IUU漁業撲滅に貢献することができます。日本の企業が違法なフカヒレ取引や違法漁業に関与しない水産物を調達し、消費者もこの問題に関心を持ち、サステナブル・シーフードを選ぶことでシャークフィニングの問題を解決していくことができます。

日本と台湾の官民協力が、持続可能な水産業の実現と海洋生態系の保護を進め、将来にわたって水産資源を守るための一歩となるのです。

 

 

 

 

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