世界初・日本初の取得で注目!BAP認証の強みとは 日本担当者に聞く(後編)

世界初・日本初の取得で注目!BAP認証の強みとは 日本担当者に聞く(後編)

世界36か国30魚種で取得されているBAP認証。そのBAP認証を運営する世界水産物連盟(GSA)は18か国にスタッフが在籍し、それぞれを「生産国」と「市場国」に分類して認証普及のための活動を行っています。

2021年からGSAの日本マーケット(市場)担当に就任した芝井幸太さんに、後編では日本初となった2023年3月の認証取得の裏側や、日本の水産事業者が認証を取得する際の注意点、日本マーケット担当としての今後の目標などについてお話を伺います。(<<<前編を読む

 

芝井幸太
世界水産物連盟(GSA: Global Seafood Alliance) 日本マーケット担当。レストラン、コンサルティング会社にてサステナブルシーフードの認証を中心とした業務を経験した後、2021年1月より現職にて日本におけるBAP・BSPの認証を受けた水産物の取扱拡大、認知度向上、国内での認証取得などに取り組んでいる。埼玉県出身。

 

英語のハードルや厳しい基準を乗り越えて、日本初の取得へ

——2023年3月に愛南漁業協同組合、安高水産有限会社、有限会社ハマスイが日本初、マダイでは世界でBAP認証を取得しましたが、認証のプロセスでどのようなご苦労があったのでしょうか。

愛南漁業協同組合 販売促進部長 岡田孝洋さんと

 

監査に関連するやりとりは、現地監査、資料提出を含めて全て英語でしなければならないという点が大変だったと思います。さらに、加工工場の監査は特に厳しく、認証取得に向けた最終製品の微生物、残留医薬品検査を海外の研究所まで送る必要がありました。

養殖場の認証は、日本の区画漁業権で定義されている単位での認証となりますので、対象区画の選定に迷われたと思います。例えば、区画の中に20個いけすがあったとして、日本の場合は全て同じ魚種を養殖するのではなく、一部のいけすでは他の魚種を養殖する場合があります。しかし、基本的にはBAP認証は区画内全てのいけすを一括して申請しなければいけないので、20個のいけすを全て認証を取得したい魚種に統一、もしくは全魚種で申請する必要があります。

そういったご苦労がありながらも、今回日本で初めてBAP認証を取得できたことで、他の国内生産者からもお問い合わせがありました。既存のエンドーサーを中心に、現在いくつかお話が進んでいるようです。北米輸出に向けたお話も進めていただいておりますが、現地で流通している地場の魚との競争など、現地市場への進出には課題があります。

 

養殖場だけでなく、各段階で厳格な監査

——日本の養殖関連事業者がBAP認証の取得を目指すにあたり、注意すべき点はありますか。

BAP認証は単に養殖場だけの認証ではなく、加工工場、養殖場、飼料工場、ふ化場と、川上に遡っていくような形で監査を行います。中でも加工工場は食品安全に基づく厳格な基準で監査を行うので、そこが高いハードルになるかと思います。

さらに、BAP認証は、一部の貝類を除いて人工種苗による養殖のみを認証していますので、天然種苗の使用は禁止されています。餌に関しても、加熱していない餌の使用は食品安全の観点から禁止されています。育てるために投入した魚の量と収穫した魚の量を比較するFish in Fish Out(養殖魚の育成に必要とされる餌魚量)の最大値は、魚種によって数値が異なりますが、加工残渣が含まれている場合でも5.0(5倍)と定められています。例えば、1トンの魚を育てるのに、餌として使う天然魚を5トンまでに抑えなくてはいけないということです。さらに2023年8月末時点で監査は全て英語で行なわれるため、書類やドキュメントを含め英語で対応していただく必要があります。

——BAP認証のほかにGSAが運営しているRFVS認証についてもお教えください。日本での取得は考えられそうでしょうか。

RFVS(Responsible Fishing Vessel Standard、責任ある漁船基準)は、GSAが2021年に開始した第三者認証プログラム「ベスト・シーフード・プラクティス(BSP)」内の基準のひとつで、漁船上での乗組員の安全と福祉を保証する、任意の認証制度です。

RFVSは2023年8月時点で、世界で45の加工工場と38の漁船が取得していますが、日本にはまだ1件も取得事例がありません。BAP認証と同様に、英語による監査であること、市場ニーズが少ないことなどから、多くの日本の事業者は自社基準で対応している状況です。しかしながら、RFVS認証への関心は増加傾向にあるため、近い将来日本での取得も考えられると思います。

 

認証の力で消費者を巻き込み、日本の水産の発展を

——芝井さんのお立場から、日本の水産の最大の課題は何だと思いますか。

GSAチームの一部のメンバーと

 

日本の水産の課題はまず、「天然資源の適切な管理」だと思います。自国の天然資源が持続可能な状態であれば、他のさまざまな課題にも良い影響を与えるはずです。資源が失われて困窮すればするほど、業界から人が離れ、労働者の賃金・労働時間などの待遇、食品の安全面への配慮などが悪化し、サービス品質も低下するでしょう。BAP認証が対象としている養殖においても、餌は天然資源に頼る部分が大きいですから、その適切な管理が養殖産業の発展と直結しています。

また、フードロスやフードマイレージの問題も重要です。BAP認証も何か貢献できればと思っているところです。フードロスに関しては、しっかり管理をしてチェーンをつないできた認証水産物が小売店で売れ残っているという現状は改善しなければならないと感じています。フードマイレージに関しては、日本は多くの場合、海外から船や飛行機で「サステナブル・シーフード」と呼んでいるものを輸入し消費しているので、今後国内でBAP認証を取得した商品の消費を増やすなど、地産地消の流れをBAP認証からも支援できればと思います。

——最後に、今後の展望や目標をお聞かせください。

小学校での出前授業も行っている

 

私は、BAP認証の利点は、消費者を巻き込めることにあると思っています。BAP認証は、環境への責任、社会への責任、食品安全、動物の健康と福祉、トレーサビリティというふうに、水産業界として真面目に取り組むべきテーマをカバーしています。

そして、日本におけるBAP認証普及の鍵は、小売業者や外食企業にあると思っています。小売業者が認証水産物を積極的に扱うことによって、消費者もそれを選ぶ流れができていくはずです。そのために、これからも日本でのBAP認証の認知度向上のために活動し、消費者が認証水産物を選びたくなるような流れを作っていきたいですね。

もちろん、BAP認証の取得に関しては、取得しようにも条件面などで躊躇される業者様もいらっしゃるでしょう。そんな時はぜひ一度私にご相談いただき、一緒に解決方法を探っていければと思います。

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。