世界初 マダイのBAP認証取得 その背景にあるものとは

世界初 マダイのBAP認証取得 その背景にあるものとは

日本でもサステナブル・シーフードを推進する取り組みが活発化しつつあります。

法整備面では、2020年には約70年ぶりに改正漁業法が施行資源管理の重要性が明記され、昨年2022年には水産流通適正化法が施行され、IUU(違法・無報告・無規制)漁業​​撲滅への大きな一歩を踏み出しました。企業もCoC認証の取得を積極的にすすめたり、人権侵害やIUU漁業問題の解決をはかるためのガイドラインを設定するなどの動きが加速しています。

しかし、言語の壁もあり、海外において十分に伝わっているとは言えません。

そこで、Seafood Legacy Timesでは、今年、北米、ヨーロッパを中心とする大手水産メディア「SeafoodSource(シーフードソース)」と連携し、日本の政府、企業、漁業者の優れた取り組みを海外へ発信する「Japan: How Sustainability and Changing Markets are Impacting Seafood Production」シリーズを開始します。

第1回は真鯛で世界初、日本初のBAP認証を取得した取り組みのご紹介です。

※こちらの記事の英文はSeafood Sourceにも掲載されています
(欧米の読者向けに若干日本語版と表現が異なる場合があります)

Ainan Cooperative, Yasutaka Suisan: Sustainability awareness, changing markets impacting Japanese seafood production

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2023年3月、愛南漁業協同組合(代表理事組合長立花弘樹)、安高水産株式会社、有限会社ハマスイが世界ではじめて、マダイでBAP認証を取得しました。日本では初のBAP認証取得になります。

愛南漁協は組合員生産量合計で日本の真鯛の2割のシェアを持つ、一大生産地です。その愛南漁協がなぜ今回、BAP認証を取得したのか。

取得の動機、今後の展望について、取得をリードした愛南漁業漁協組合(以下、愛南漁協) 販売促進部長 岡田孝洋さん、生産者である安高水産有限会社の代表取締役 安岡高身さんにお話をうかがいました。

(敬称略)

Seafood Source編集部(以下編集部):漁業法の改正、国内消費量の減少による輸出への関心の高まり、国内外の消費者からのサステナビリティへの関心の高まりなど、日本の水産業界の生産者に影響を及ぼす変化が数多く起きてきました。こうした変化に愛南漁協はどのように対応してきましたか?

愛南漁協/岡田:愛南漁協では2017年に養殖エコラベルのAEL認証を全10魚種(マダイやブリ、カンパチ、シマアジ等)で取得し、生産者と共に持続可能な養殖業に取り組んできました。また、2020年にはマダイでMEL養殖認証のグループ認証と産地加工場㈲ハマスイのMELのCoC認証をグループで取得しました。

編集部:早くから認証取得に取り組んできた背景を教えてください。

愛南漁協/岡田:以前から愛南町、漁協、愛媛大学の産官学で赤潮の早期発見など漁業課題に協働で取り組んできました。特に、生産者も参加し、生産手法の共有化を行い、マニュアルを作成するなど連携をはかってきました。その過程で、取り組みの信頼性を高めるため、第三者に評価してもらう認証制度の取得に取り組みました。

編集部:今回、約30万匹のマダイを対象にBAP認証を取得されました。取得しようと思われた理由はなぜですか?

愛南漁協/岡田:2019年からアメリカにマダイの輸出を行っており、世界基準のエコラベル認証の取得を考える中で、アメリカでの普及度合いやコストなどを考慮し、BAP認証を選びました。日本ではまだ誰もBAP認証を取得していなかったのも理由の一つです。

編集部:BAP認証取得の反響はありましたか。

愛南漁協/岡田:今まではなかなかつながりのなかった外資系ホテルなどから取引の依頼をいただきました。東京オリンピック・パラリンピックの際にも各所からお話はありましたが、今回の取得に対して高い期待を寄せていただいています。

編集部:日本の水産業者にとって認証の価値とは何だと思いますか。

安高水産/安岡:サステナビリティに取り組んでいることの証だと思います。サステナビリティについては、自己申告ではちゃんとやっているのかどうかが分かりにくいので第三者の目が必要ということだと思います。

日本のモノづくりへの意識はもともと高く、メイドインジャパンというだけで、信頼されていました。その意味では、最近は認証がないと取引ができない流通小売が増え、メイドインジャパンというだけでは価値が認められなくなったことはとても残念です。

サステナビリティに対する日本の消費者の意識はまだ高いとは言えませんが、せっかく取得した厳しい認証なので、ぜひその価値が消費者に伝わって、選ばれるようになればと願っています。

愛南漁協/岡田:安心・安全を担保し、輸出する際のパスポートになると確信しています。特に、環境や人権などの持続可能性の取り組みは地域の持続可能性にもかかわってきます。海外の認証を取得しながらいかに地域の持続可能性を高めていくかが今後の課題です。

愛南町は水産業が産業の中心です。持続可能な地域産業として取り組んでいくためにも認証を取得して「行動」をおこして行くことがマストだと思ってます。

今回BAP認証を取得した真鯛は「愛南の真鯛」のロゴが入ります。アメリカ・カナダ等のデザイン商標も取得しながら、世界に「愛南」という名を広めていきたいと思っています。

 

 

編集部:認証を得るプロセスではどんな苦労がありましたか。

安高水産/安岡:養殖で使用する餌はなるべく魚を減らすように求められるのですが、本来、魚は魚を食べるので、自然界で育った魚も有効に利用したほうが良いかと思います。ただ、獲りすぎないなどバランスは大事だと思います。

認証の基準の一つに、抗生物質の不使用があります。弊社はもともと抗生物質は使用していないのですが、国内で使用が認められていても海外では認められていないものがあり、このあたりは国レベルでの調整が必要ではないかと感じました。

愛南漁協/岡田:英文の翻訳に多くの時間を費やしたのと合わせて、日本の常識と海外とは相違する点が多々ありました。たとえば、日本では求められない検査機関の検査を要求されたり、日本で扱っていない項目があったり、MELを取っていたのですんなりいくかと思っていましたがそうはいきませんでした。

特に、私たちは自力でやっているので大変でしたが、これまでのノウハウをもとに取り組みました。特に加工場は今回初めてのことが多く、大変でした。

私たちは、愛南町や町の魚病検査室、大学の研究機関とも普段から連携しているので科学的な知見を得やすく、そうした支援も今回の取得の大きな力になったのではないかと思います。

編集部:北米マーケットと日本のマーケットの違いはどんなところにあると感じていますか。

愛南漁協/岡田:一般小売をはじめ、認証商品のマーケットがアメリカにはあると感じています。日本はまだ理解が乏しいと思います。日本では認証水産物といっても価格的な評価になかなかつながりません。米国でも価格や規格の課題はありますが、認証を取れば土俵には上がれる、という感覚があります。

CoC認証取得の問題もあります。BAPは流通段階でのCoC認証が必要ないので普及の可能性が広がるのではないかと思います。

編集部:今後の展望について教えてください。

愛南漁協/岡田:ボストンシーフードショーなど海外のイベントにも積極的に参加し、フェアを開催するなどBAP認証を取得した「愛南の真鯛」を海外マーケットに積極的に販売していきたいと思っています。また、生産者を巻き込みながら、今後、対象魚種の横展開を行い、将来的には認証魚種を増やしていければと思っています。

「愛南の真鯛」は抗生物質を一切使っていません。黒潮によって、抗生物質に頼らなくても育てられる環境に恵まれているという理由はありますが、それでも、密度を減らしたり、給餌の管理をしたり、結構手間がかかっています。

安心して食べられる、美味しい愛南漁協自慢の真鯛の価値をもっと多くの皆様に知っていただき、選んでいただけるよう今後も努力していきたいと思っています。

 

SeafoodSourceの記事: “Ainan Cooperative, Yasutaka Suisan: Sustainability awareness, changing markets impacting Japanese seafood production”