足掛け5年。セブン-イレブン初、水産物認証商品の誕生を支えた原動力とは(前編)

足掛け5年。セブン-イレブン初、水産物認証商品の誕生を支えた原動力とは(前編)

セブン-イレブン・ジャパンで10年ほど店舗経営相談員などを経験した後に商品部で商品開発を担い、2017年からは原材料の調達も担当した八木田耕平さん。調達の担当につくやいなや国際環境NGO団体からの要請で水産物の原材料調達の調査を行うことになり、サステナブル・シーフードの取り組みをスタートしました。

それから5年後の2022年、環境に配慮した漁業により漁獲される「アラスカシーフード」のみを使用した紅しゃけと辛子明太子のおにぎりを売り出しました。

東京サステナブルシーフード・サミット2024にも登壇いただいた八木田さんに、前編では原材料調達調査の際のエピソードや、シーフードレガシー 代表取締役社長 花岡和佳男との出会い、アラスカシーフードラベルおにぎり発売の秘話などを伺いました。

 

八木田 耕平(やぎた こうへい)
2005年セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗経営コンサルタントを経て2013年より商品部所属。水産原材料調達、商品本部内の環境対策を担当し、2021年よりセブン&アイ・ホールディングスの環境部会プラスチック対策サブリーダーに就任。現在は主力商品群である米飯・麺類力テゴリーのチーフマーチャンダイザーを務める。

 

「依頼先を間違えているのでは?」突然の調査依頼に戸惑いつつも、サステナブル・シーフードの道へ

——セブン-イレブン・ジャパンで原材料の調達を担当すると同時に水産物の原材料調達の調査を行うことになったそうですね。その際のエピソードをお聞かせください。

セブン-イレブン・ジャパンは小売業の中でも自社工場を持たず、オリジナル商品は各メーカーさまと連携し、開発・製造に取り組んでいます。店舗は加盟店のオーナーさまが経営されています。その中で私は最初から水産物の調達一筋というわけではなく、商品開発や調達の部署を行き来しながら、セブン‐イレブンのマーチャンダイザーという立場で、食品メーカーや原料メーカーの方々とチームを組んでディレクションを行う仕事をしています。

セブン‐イレブンの商品開発は基本的に「この材料があるからこんな商品をつくろう」というものではありません。材料やつくり手の事情よりもお客さまのニーズに合う商品開発を目指し、「この商品をつくるためにこの材料がいる」という流れで調達や商品づくりを進めます。そのため私は、水産物の実情にまでは精通していない状態で調達の部署に着任しました。そして着任早々に国際環境NGO団体から水産物の原材料調達に関する調査の要請があったのです。

今見返してみると、送られてきた調査票は全部で35ページありました。当時は見たこともない単語ばかりが並んでいて、戸惑いましたね。質問はツナについてでしたが、専門的で詳細な内容ばかりで、「この調査票は宛先を間違えているのではないか、なぜ食品製造業でなく小売業であるうちの会社にきたのだろうか」と戸惑いながら、必死で回答したことを覚えています。私にとって、サステナブル・シーフードの時代の夜明けを告げるような、号砲が鳴るような出来事でした。

——その翌年に花岡とお会いになったそうですね。その時はどのような印象でしたか?

最初は花岡さんから弊社にアポイントがあり、どんな方なのか確認してみると、かつて国際環境NGO団体のメンバーとしてイトーヨーカドーの前でメガホンを持ってデモをしていた時の画像が出てきました。それを見て私は、「これは大変なことになった、お会いしたら叱られてしまうのでは」と思ったのです。ですが、アポイントをいただいた時にはシーフードレガシーを立ち上げていらっしゃって、私の方から改めて花岡さんにアポイントをとり、お会いしました。

当時私は調達方針を決める立場でしたのでいろいろとアドバイスをいただいたのですが、花岡さんの姿勢に感動しました。というのも、フロリダの大学で海洋環境学や海洋生物学を専攻し「海を守らなければ」と先鋭的に活動していた方が、いわば北風を吹かせる側から太陽になってビジネス側に寄り添うというのは、よほどでなければできないと思ったのです。

2017年に調査票が届いたことと、2018年に花岡さんとお会いしたことは、私にとって大きな転機でした。それに加えて2019年にもう1つ出来事があり、その3つが今も私の活動の原動力になっています。

普段口にしている魚が、もし誰かの犠牲の上で成り立っていたとしたら

——八木田さんのサステナブル・シーフードの活動には3つの原動力があるのですね。3つ目の2019年の出来事とはどのようなものだったのですか?

花岡さんとお会いしたご縁で、2019年にバンコクで開催された「SeaWeb Seafood Summit」に参加させてもらいました。そこで、漁業での強制労働を経験した盲目の僧侶の方のお話を聞いたのです。その方は何も知らないまま仲間と船に乗せられて、来る日も来る日も眠ることもできず、過度の暴力の中で仕事をさせられたそうです。仲間は海に飛び込んで自死し、ご自身も飛び込んで命からがら逃げ延びて盲目になり、今は僧侶となって仲間を弔っているとのことでした。

「私たちが獲っている魚を食べないでください」というその方のメッセージを聞きながら、「その魚が私や私の家族の口に絶対入っていないという保証はない」と思いました。最初に国際環境NGO団体から調査を求められた時には「私たちにわかるはずがない」と思っていたのが、この時に「わからなければだめだ」と思うようになったのです。

2019年にバンコクで開催された「SeaWeb Seafood Summit」にて。右から3番目が八木田さん

当時から日本では、食品衛生については国のガイドラインは厳しく制定されていました。ですが僧侶の方の話を聞いた時、私は衛生管理意識の低い食品と強制労働で獲られた食品があったら、後者を食べたほうがはるかに嫌な気持ちになると思いました。そんな食品が日本に絶対に入ってこないとは言えない中、対策を徹底しなければと感じました。

業態の制約の中で、何とか実現したい。熱い思いで形にしたラベル商品

——その後、2022年にアラスカの水産物を具材にしたアラスカシーフード※ラベル付きのおにぎりを発売されたのですね。

その頃にはもともと、アラスカの紅しゃけと辛子明太子を使ったおにぎりを販売していました。そこに何らかサステナブルな認証ラベルを貼りたいという思いで活動していて、やっとの思いで形にできたのがアラスカシーフードのラベルです。

セブン-イレブン・ジャパンは自社工場もなく、店舗も加盟店のオーナーさまが経営しています。ですから、CoC認証を取得したり使用料のかかる認証ラベルを貼ったりという取り組みはなかなか進めるのが難しいという実情があります。その中でもできることが、アラスカシーフードのラベルでした。

※アラスカシーフード・・・厳しい漁業管理のみならず、地方の漁業コミュニティの活性化、資源の有効利用、持続可能な漁業の認証プログラムを運営するなど、官民挙げてさまざまな取り組みにより漁業の持続可能性(サステナビリティ)を実現してきたアラスカ産の水産物。

アラスカシーフードのラベルをつけて販売したおにぎり

この取り組みが実現したのは、一緒にバンコクのシーフードサミットに参加して共感した、お取引先の部長さんが熱心に協力してくれたおかげでもあります。お力添えによりこの方と一緒に取り組んできたMSCCoCグループ認証を晴れてこの2月、お取引先の工場で取得いただくことができました。

また、花岡さんから「現状を公開した上で何年までにどうするという目標を示し、達成できなかったとしても、ここまで進んだという情報をオープンにしていくことが重要だ」と教わったことも助けになりました。今ではESG投資の流れもあり当たり前になってきていることですが、当時の私にとっては大きな気づきでした。

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サステナブル・シーフードに携わることになった2017年から5年、アラスカシーフードラベルでそれまでの活動をひとつの形にした八木田さん。後編では、消費者の意識醸成の大切さや自身の今後の目標、サステナブル・シーフードを主流にするために必要だと思われることなどについてお話しいただきます。

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。

 

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