高校生が地元の未利用資源を商品化! 水産の未来を担う人材へ(後編)

高校生が地元の未利用資源を商品化! 水産の未来を担う人材へ(後編)

漁獲されても船上で廃棄されてしまう未利用資源「ジンケンエビ」を使った揚げはんぺんを開発し、2023年の「第5回ジャパン・サステナブル・シーフード アワード」で、U-30部門のチャンピオンに選ばれた愛知県立三谷(みや)水産高等学校。

ジンケンエビを使った揚げはんぺんの開発はどのようにして始まり、どのような苦労があったのでしょうか。愛知県立三谷水産高等学校 水産食品科の学科主任 清水一亨さんと3年生の伊藤海さんにお話を伺います。それぞれの今後の目標や、日本の水産について思うことについてもお話しいただきました。(<<< 前編を読む

 

企業や小学校の協力を経て商品化。デパートでの販売を実現!

——ジンケンエビを使った揚げはんぺんの開発の経緯をお聞かせください。

清水先生:ジンケンエビには数年前から注目していて、生徒たちが試行錯誤を繰り返し、殻のまま乾燥させ粉末にしてふりかけをつくることに成功しました。そこからさらにヤマサちくわ株式会社との協働で、ジンケンエビの粉末をはんぺんに練り込んで揚げることで、今回の商品が完成したのです。加熱することでジンケンエビの鮮やかな赤色が増し、見た目にも魅力のある商品ができあがりました。

 


ヤマサちくわ株式会社との協働で商品開発を実施

 

——伊藤さんはどの段階からこの開発に関わったのですか?

伊藤さん:3年前に、このジンケンエビの揚げはんぺんを小学校の学校給食で提供した時から参加しました。ジンケンエビがおいしいものだということを知ってもらい、利用促進につなげたいという思いから実現した取り組みです。当時コロナ禍だったため直接小学校を訪問することはできませんでしたが、zoomを使って商品について発表し、生徒たちが食べている様子を見せてもらって意見交換を行いました。

清水先生:その次の段階として、小売店で販売してもらおうという目標を掲げました。最初はスーパーでの販売を目指していたのですが、この商品は加工の手間がかかり単価がやや高いため、デパートで販売されることになりました。そして2023年10月28日・29日の2日間、ジェイアール名古屋タカシマヤで開催された催事で販売することができました。

 


ジンケンエビの揚げはんぺんはデパートでの販売でも好評だった

 

伊藤さん:私も売り場に立たせてもらったのですが、お客さまが私の説明を聞いて商品を買ってくださったり、試食で「おいしい」と言っていただけたことがとても嬉しかったです。2枚入りの商品(324円)を100袋ほど用意していたのですが、完売することができました。

清水先生:エビは好きな方が多いですし、「殻ごと入っているのでカルシウムも摂れますよ」と説明すると興味を持ってくださる方が多かったですね。今後は学校の近隣のスーパーでも扱っていただきたいのですが、スーパーではもっと原価を抑えなければならず、それをクリアするのが次の課題になると思います。

この商品を製造していただいているヤマサちくわ株式会社には、愛知県立三谷水産高等学校(以下、三谷水産高校)の生徒たちが何人も就職していまして、私が赴任して最初に教えた生徒が今回のジンケンエビの粉末をつくってくれています。彼にも「来年もよろしくお願いします」と話をしたところです。

 

商品開発を経て生徒のコミュニケーション能力を育む

——今回のジンケンエビの揚げはんぺんのプロジェクトでは、どのようなご苦労がありましたか?

清水先生:このプロジェクトでの教師の役割は、企業と生徒をつなぐことだと考えています。ですが、生徒たちはまだ高校生で、大人たちの中で自分の意見を言うことに慣れていません。ですから、その背中をどのようにして押してあげるかということにいつも気を配っています。事前にしっかりと学習させ、受け答えの練習をしたりして、コミュニケーション能力を育てています。それが大変でもあり、大切なことだと思っています。

 

「第5回ジャパン・サステナブル・シーフード アワード」にて、プレゼンを行う伊藤さん

 

伊藤さん:私が大変だと感じたのは、商品のネーミングです。生徒たちの間でアイデアを出し合ってヤマサちくわ株式会社にプレゼンしたのですが、自分たちは名案だと思ったネーミングも、実際に商品が売れるような名前にするためには改善点がたくさんあって。見た目が韓国のチヂミのようなので最初は名前に韓国語を入れていたのですが、最終的にはジンケンエビが丸ごと入っていることが分かりやすく伝わるよう「丸っとエビ太郎」に決まりました。

また、ジンケンエビ以外にも具材を入れることになり、私はタマネギがいいのではないかと思ったのですが、水分量や味のバランスで、タマネギではなくキャベツを入れることに決まりました。実際に試食してもキャベツが一番おいしかったのは意外な発見でした。

 

実践的教育を通じて未来の日本の水産を支える人材を輩出

——最後に、今後の目標や、日本の水産について思うことをお聞かせください。

清水先生:今回のジンケンエビの揚げはんぺんに関しては、地域のスーパーでいつでも買える商品として扱っていただくことを目指しています。そのためにはジンケンエビが十分確保できない時も安定して商品を提供できるよう、他の魚種、例えばメヒカリやメギスなどを使って、揚げはんぺんのシリーズをつくりたいと思います。

日本の水産に関しては、漁業の規模が年々小さくなり、漁業者が少なくなっていることが課題だと感じています。そのためにも、私は三谷水産高校の教師として日本の水産を支える有能な人材をどんどん育成し、輩出していきたいと思っています。

伊藤さん:私は現在高校3年生で、ヤマサちくわ株式会社への就職が決まっています。最初は魚を捌く仕事をするのですが、ベテランのスタッフしかできないかまぼこの成形も、いつかできるようになりたいです。そして、三谷水産高校で学んだ知識をどんどん仕事で活かしていければと思っています。

日本の水産について感じるのは、私が小さかった頃に比べても魚に興味を持つ人が減っていて、水産の仕事に就く人も減っているということです。これからはSNSなどを活用して、若い世代に魚の魅力を伝えていくことが大事なのではないかと思います。

 

愛知県立三谷水産高等学校 水産食品科
愛知県蒲郡市三谷町水神町通にある県立高等学校で、愛知県下では唯一の水産高等学校。1943年設立。現在は海洋科学科、情報通信科、海洋資源科、水産食品科の4つの学科があり、水産食品科は、人と人、地域と地域、国と国をつなぐ「食」について学ぶ。水産物の食品加工を中心に食品の流通や管理などについて学び、その知識をもとに商品開発を行う。商品開発ではSDGsの観点から、未利用資源を積極的に活用している。
https://miyasuisan-h.aichi-c.ed.jp/ka05/ka.html

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。