サステナブル・シーフード用語集

プラネタリーバウンダリー

人類が地球上で生存していくために超えてはならない「地球環境の限界(バウンダリー)」のこと。限界値の範囲内であれば人類は発展でき、次世代も生き残ることができるとされます。ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム所長らにより2009年に提唱された概念です。

「プラネタリー・バウンダリー」は9つの項目について、現在の状況と限界値を表しています。項目は(1)気候変動(2)大気エアロゾルの負荷(3)成層圏オゾンの破壊(4)海洋酸性化(5)淡水利用(6)土地利用変化(7)生物圏の一体性 (8)窒素・リンの生物地球化学的循環(9)新規化学物質です。

このうち(1)気候変動、(6)土地利用の変化、(7)生物圏の一体性(生物の絶滅速度)、(8)窒素とリンの生物地球化学的循環の4つの分野で限界を超えています。さらに(7)生物多様性の喪失と(8)窒素とリンのサイクルの2項目は、すでに不可逆な変化が起こるリスクの高い「不確実性領域」を超えています。

限界を超えている4項目の現状は以下のようになっています。
(1)気候変動:大気中のCO2濃度と、気候変化を引き起こすさまざまな人為起源及び自然起源の因子の強度を表す放射強制力*1(それぞれ 350 ppm CO2、1Wm-2*2 を限界値としています。CO2は2022年時点で約417ppm*3、放射強制力は2019年時点で2.72(1.96〜3.48)Wm-2となっています。限界を超えると北極海の夏の海氷の急速な後退、海面上昇、サンゴ礁の白化や死滅などがみられます*1

(6)土地利用の変化:かつて地表の多くを占めていた森林は、熱帯、温帯、北方の各地で大規模な伐採が進み、面積が減少しています。国連食糧農業機関(FAO)によれば、2010年から2020年までに世界で年平均470万㌶の森林が減少しています。森林から農地への転用が主な理由と考えられます*5

(7)生物多様性の喪失:地球に生命が誕生して以来、生物の大量絶滅は5回ありましたが、現代は「第6の大量絶滅時代」と言われます*6。今回の絶滅はスピードが急速で、人類の生産・消費活動が主な原因と考えられています。国際自然保護連合(IUCN)絶滅危惧種レッドリストによると、42,100種以上の生物に絶滅のおそれがあります*7

(8)窒素・リンの生物地球化学的循環:窒素とリンの循環が限界値を超えているのは、農業に用いる化学肥料が原因と考えられています。化学肥料は、川をつたって湖や海に流れ込み、過度に栄養を含むようになった海ではプランクトンが大量発生して赤潮を引き起こします。その結果、水中では酸素が欠乏して魚が減少、漁業にも打撃を与えます。

 


プラネタリーバウンダリーのフレームワーク(Azote for Stockholm Resilience Centre, based on analysis in Persson et al 2022 and Steffen et al 2015)

 

水産業は農産物生産に比べ、プラネタリーバウンダリーに及ぼす悪影響は小さいものの、将来の持続可能な食物供給のポートフォリオを達成するために考えるべき課題があります。天然漁業は、特に遠洋漁業で船や装置の操業によるエネルギー消費が大きく、温室効果ガスの排出に寄与します。また将来の水産物需要を満たす存在として期待される養殖業では、飼料生産のためのエネルギー消費が環境への影響の大半を占めています。しかし養殖魚は家畜よりも環境に与える負荷が少ないことがわかっており、将来の持続可能な食物供給を可能にするゲームチェンジャーとして注目されています*8

プラネタリーバウンダリーは政治的な合意であるSDGsと異なり、科学者が提唱した概念ですが、科学的な地球の限界と人間活動との関連をわかりやすく、かつ包括的に示し、SDGsを具体的に理解するのに有用です。地球環境に関する目標のみならず、人類の生産活動はすべてプラネタリーバウンダリー内に収める必要があります。

 

 

*1 IPCC 第 4 次評価報告書 第 1 作業部会報告書概要及びよくある質問と回答(気象庁訳、平成19年)p.9
*2 Johan Rockström et al. (2009). Planetary Boundaries: Exploring the Safe Operating Space for Humanity. Ecology and Society 14(2): 32
*3 Climate Change: Atmospheric Carbon Dioxide (NOAAのwebページ)
*4 Climate Change 2021 The Physical Science Basis (Intergovernmental Panel on Climate Change, 2021)p.28
*5 https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/
*6 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010101.html
*7 https://www.iucnredlist.org/
*8 https://seabos.org/wp-content/uploads/2017/08/Brief2-Seafood-for-human-and-planetary-health_v2.pdf

<参考文献>
https://www.stockholmresilience.org/research/planetary-boundaries.html
https://www.ecologyandsociety.org/vol14/iss2/art32/
https://seabos.org/dialogues/stockholm/
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010101.html
https://social-innovation.hitachi/ja-jp/article/planetary-boundaries/
https://cger.nies.go.jp/cgernews/202012/360002.html
https://energy-shift.com/news/9ea4e31e-a141-49cc-823d-f06d4d878adf

 

 

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