
【シリーズ これからの日本の水産資源管理を考える】第2回は、株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの代表取締役社長 津田 祐樹さんに寄稿いただきました。現場を知っている立場だからこその意見をぜひご一読ください。
私は宮城県石巻市の魚市場を拠点に、魚屋として飲食店や個人のお客様に魚を届ける仕事をしてきました。毎日魚を仕入れる中で、年々魚の量が減っていることを実感してきました。漁獲量が減っていることもさることながら、獲れる魚のサイズが小さくなっていることも危惧しています。例えばサバ。以前は大きく脂の乗ったものが当たり前でしたが、最近ではまるで小魚のような「ジャミサバ」ばかりが獲れるようになってしまいました。
国はさまざまな対策を講じ、「水産資源は適切に管理されている」と言います。しかし現場の感覚からすると腑に落ちません。資源管理がうまくいっているとはとても思えず、明らかに獲り過ぎだと感じています。
とはいえ、水産資源の管理が非常に難しい問題であることも理解しています。特に回遊魚を対象とする漁業や、国が許可を与える大臣許可漁業などは、関係者が多岐にわたり利害も複雑に絡み合います。一つの地域だけで解決しようとしても、どうしても限界があります。
また、沿岸漁業、沖合漁業、養殖業など、漁業にはさまざまな形態があり、それぞれに立場が異なります。どこかの地域や漁業形態にとって最適な対策が、別の地域や漁業形態にとっては不利益になるということも少なくありません。つまり、水産資源管理に唯一絶対の「正解」はないのです。
ではどうすれば良いのか。私が考える最も必要なことは、地域、漁法、業界といった垣根を超えた、文字通り「海のステークホルダー」全員で話すことだと思います。漁業者、行政、国、水産会社、流通業者、消費者など、海に関わるすべての人が一堂に会し、それぞれの立場や考えを率直に語り合い、「日本の海をどうすれば守れるのか」を真剣に議論することが必要だと考えています。そして海のステークホルダーそれぞれが、それぞれの立場を理解し、折れるべきところは折れ、譲るべきところは譲るという姿勢が必要だと考えます。自らの利益だけを主張して「個別最適」を追求しても、建設的な解決策は見つかりません。日本全体にとっての「全体最適」を目指すことが重要なのです。
しかしながら、これまでこのような海のステークホルダーが一堂に会して対話をする場というものが存在しませんでした。そこで全国の漁業者や水産関係者の有志が集まり、業界の未来に向けて議論し、実践を目指す場として立ち上げたのが「水産未来サミット」です。これまでに2回開催し、2025年3月には鹿児島で第2回サミットを1泊2日の合宿形式で開催しました。、北海道から沖縄まで全国各地から200名を超える参加者が集まり、日本の水産業が抱える課題と解決策について徹底的に議論しました。
水産未来サミットは、議論して終わりではなく、そこから具体的にプロジェクトをつくりアクションを起こしていくことを重要視しています。人間は往々にして、その場でどんなにいい議論をしても、具体的に何をするかを決めないとすっかり忘れてしまいます。だからこそ、考えたことをプロジェクト化して強引にでも進めないとダメなのです。
気仙沼で開催した第1回の開催後には11個のプロジェクトが立ち上がり、IUU漁業対策や補助制度の見直し、サステナブルシーフードの普及啓蒙、食育推進、漁業と科学の連携など、具体的にプロジェクトが進行しました。最終的には国への政策提言まで漕ぎつけたプロジェクトもあり、個別最適ではなく、日本の海の未来を見据えた全体最適への第一歩を、現場主体で踏み出せたことには大きな意義を感じました。
とはいえ、私たちの活動を見て「資源管理なんて意味がない」「海洋環境の変化やレジームシフトが原因だから人間の力ではどうにもならない」という意見も少なくありません。確かに自然の大きな力を前に、人間の力ではどうにもならないこともあると思います。ですが私は「だから何もしない」というスタンスは嫌いです。それでは完全に思考停止です。
たとえ今の資源管理が不完全だとしても、どうすれば効果がある資源管理を実現できるのかを探し続けるべきだと考えています。現状の手法を批判することは簡単です。でも「じゃあどうすればいいのか?」という問いに答えなければ、何も変わりません。
もし数十年後「結局、資源が減ったのは海洋環境の悪化のせいで、君たちの努力は無意味だった」と笑われたとしても、それはそれで構いません。でも、もしそうでなかったら?私たちが頑張っていれば食い止められたかもしれなかったらどう思いますか? 私は未来の子供たちに「なぜお父さんたちはあの時何もしてくれなかったの?」とは言わせたくありません。絶対に後悔をしたくない、だから今、動くのです。
未来にこの豊かな海を残していくために、私達はこれからも日本中を巻き込み声を上げ続けていきます。
水産未来サミットの詳細はこちら
津田祐樹(つだゆうき)
株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長
1981年、宮城県石巻市生まれ。元々は石巻魚市場の仲卸の2代目であったが、
東日本大震災を契機に、地元漁師らと共にフィッシャーマン・ジャパン グループを設立。
現在は販売部門を株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングとして分社化し、
国内外への販路拡大、飲食事業、漁村コンサルティングなどを推進する傍ら
全国の漁師や水産会社と共に、日本の水産政策への提言活動も行っている。
フィッシャーマン・ジャパン グループ
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震災から生まれた日本の水産再生の旗手。思い描く未来とは(前編)(後編)
<過去の連載>
【連載】これからの日本の水産資源管理を考える
第1回:日本の水産資源減少の理由と必要な4つの施策