サステナブル・シーフード用語集

ILO漁業労働条約(第188号)

国際労働機関(ILO: International Labour Organization)の「漁業部門における労働に関する条約(以下、漁業労働条約)」の略称で、締約国に対し、漁業者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の確保を定めるものです。2007年国際労働機関(ILO)の年次総会で圧倒的多数によって採択され、2017年11月に発効しました。批准国は2024年2月現在で21か国です。

 

策定の背景

同条約採択の背景には、漁業従事者特有の労働環境・労働条件があります。たとえば、漁業者は、労働時間と個人の時間の区別が不明確で、漁業の種類によっては長期間航海することで長時間家族から離れ、窮屈な船内で生活しながら長時間労働をすることが多く、ケースによっては適切な食料・飲料水へのアクセスや、娯楽設備が不足し、時には給与が漁獲量ベースで不安定である場合もあります。また、自営業者とみなされる労働者としての保護が欠如しがちです。漁業者の死亡率は他の産業と比べて高く、消防士や鉱山労働者などと比較しても、危険度が高い職種となっています。

令和4年度水産白書(水産庁、2022年)より

漁業条約の概要

漁業条約は、大型商業漁船から小型船、ボートによるものを含むすべての形態の商業的漁業に適用されるものであり(ただし、自家消費のための漁業とレクリエーション漁業は除外)、上記背景も踏まえ、漁船におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の確保に不可欠な事項を定めています。たとえば、以下のような条項があります。

 

・乗船中の漁業者と船舶の安全に対し、漁船所有者と船長がそれぞれ責任を有すること(8条)。
・漁業者の最低年齢は16歳とすること。ただし、一定の条件下においては、15歳以上であれば可能であること。安全と健康を損なう業務については、18歳以上とすること(9条)。
・船上労働のために健康検査の実施と健康証明書の取得が必要であること(10-12条)。
十分かつ安全に乗組員が配乗され、船長によって適切に管理され、漁業者が安全及び健康確保に十分な休息時間が定期的に与えられること(13-14条)。
・乗組員名簿を備え、漁業者が本条約に適合する労働契約の保護を受けられること(15-20条、附属書IIが最低限の契約項目を定める)。
・労働契約終了時に漁業者が本国に帰還できるようにすること、職業紹介の手数料を漁業者に負担させないこと(21-22 条)。
漁業者への定期的な賃金支払を確保し、無料の送金手段の提供を要求すること(23-24条)。
・船内の居住設備、食料及び飲料水について、十分かつ適切な水準を設定すること(25-28条、附属書IIIは居住設備の詳細を定める)。
・労働安全衛生基準と船上での医療ケアの基準を設定すること(第31 -33条)
・漁業者及び被扶養者が、自国の他の労働者よりも不利でない条件で社会保障による保護の利益を享受し、最低でも業務関連の疾病、負傷や死亡の場合の保護を付与すること(34条-39条)

 

2007年の総会では漁業条約を補足する漁業労働勧告(第199号)も合意されました。勧告は批准国に対し、条約規定の実施方法についてのガイダンスを提供するものです。同条約と勧告は、既存のILOにおける漁業労働の労働条件を定めた諸条約(1920年、1959年およ及び1966年のもの)がグローバル化が進む商業漁業を捉え切れていないことを踏まえてこれらを統合したものであり、現在の批准対象は新条約(C188)のみとなります。なお、日本は未批准です。

 

※漁業労働条約(日本語英語

 

 

※漁業条約および漁業労働勧告に関するパンフレット(ILO)

ILOディーセントな労働条件 安全と社会的保護 漁業部門における労働に関する条約(第188号)及び漁業部門における労働に関する勧告(第199号)
日本語英語

 

 

 

 

 

 

執筆:国際労働機関(ILO)駐日事務所 プログラムオフィサー(渉外・労働基準専門官)田中 竜介

 

 

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