2024年も水産業に関連する数多くのニュースがありました。その中から、シーフードレガシータイムズ編集部が注目する2024年注目のサステナブル・シーフードに関するニュースをお届けします。
一年の振り返りに、来年の事業計画づくりに、ぜひお役立てください。
2023年に引き続き、2024年も企業の水産物調達方針や人権方針の策定が相次いで打ち出されました。
特に、シーフードレガシーが発行するメールマガジンの中で注目を集めたのは、丸紅の水産物調達方針の策定丸紅の水産物調達方針の策定でした。方針では、トレーサビリティを確保しIUU(違法・無報告・無規制)漁業を排除していくこと、認証水産物の取り扱い割合を拡大する他、生態系への配慮の一環で閉鎖循環陸上養殖に参画していくことが述べられています。さらに、丸紅は畜産・養殖に関連する企業評価を行うFAIRRのコレクティブエンゲージメントに選出された日本企業7社の内の1社でもあり、2024年に日本で初めて陸上養殖による国産アトランティックサーモンを静岡で手がける、Proximar Seafood(本社ノルウェー)と販売代理店契約を締結していることもあり、今後、方針がどのように実行されていくのかが注目です。
続いて2024年9月には、マルハニチロも水産物の調達方針を発表しました。トレーサビリティの確立やIUU漁業だけではなく、強制労働・児童労働等の人権侵害の排除についても述べられています。
また、回転寿司チェーン「スシロー」を中心とする大手外食企業であるFOOD & LIFE COMPANIESは、2024年1月に人権方針を発表。グループ全体で人権デューディリジェンスを実施していくことを明言しています。
2024年の3月には、コンサベーション・アライアンス・フォー・シーフード・ソリューションズ(The Conservation Alliance for seafood solutions)から『環境的および社会的責任のある水産物に関する企業向けガイダンス』が発行されました。ガイダンスでは、企業が取り組む上で押さえるべき8つの原則を示し、PDCAに沿ってそれぞれのプロセスで何をすべきか、具体的な解説と共に事例が紹介されています。調達方針の実践には必須のガイダンスとして役立ちそうです。
FOOD & LIFE COMPANIESが人権方針を発表するなど(前述)、2024年は企業の人権デューディリジェンスの取り組みの進展が見られる一方、インドのエビ生産加工現場や中国漁船で労働者の人権侵害が発覚するなど、問題の根深さを痛感した一年でもありました。
ワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA)によると、世界で最も影響力のある2000社を調査したところ、9割が「人権」「ディーセント・ワークの提供」「倫理的行動」の3カテゴリーにおいて、20点満点中、半分にも満たないことがわかりました。この中には大手水産企業も含まれています。
こうした状況を受け、農水省は「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き」を2023年末に公表し、2024年に話題になりました。また、2022年9月には、経産省から「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が出されました。このガイドラインでは食品業界の事例をあげるなど、業界に特化して人権デューディリジェンスの取り組みステップを解説しているのが特徴です。実践の際には、ぜひ、欧米の小売企業は水産サプライチェーンにおける人権デューデリジェンスの取り組みをどのように進めているのかをまとめた事例集も合わせてご活用ください。
2023年に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)がフレームワークv1.0を公開して以降、2024年3月には国連責任投資原則(PRI)からも、機関投資家向けの生物多様性投資方針策定ガイドが発行されるなど、生物多様性に関連する情報開示の機運が急速に高まっています。
2024年1月には、2025年までにTNFDに基づいた情報開示を行う「アーリーアダプター(Early Adopter)」が発表され、320社・団体のうち、4分の1に該当する80社が日本企業が占め、世界を驚かせました。
アーリーアダプターとして名を連ねたニッスイは、2023年12月に日本の水産企業としてはいち早くTNFDレポートを発行。同年8月には株価純資産倍率(PBR)が1倍を超え、生物多様性に関する情報開示をもとに投資家との対話を重ねたことで企業価値の向上に成功しています。
2022年に施行された「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(以下、水産流通適正化法)」が、2年に一度の見直しの年を迎え、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の撲滅をめざすIUUフォーラムジャパンから水産庁に対して働きかけが行われました。
2024年3月には、ノーベル平和賞ノミネートのパティマ・タンプチャヤクル氏が13社と共にIUUフォーラムジャパンから水産庁長官に対し、現代奴隷の温床にもなっているIUU漁業なくすべく、輸入規制の強化、IUU漁業撲滅に向けた国際的なプラットフォームへの参画を求める要望書を提出しました。
さらに10月には、水産物流通に携わる国内主要企業 13社と共にIUU(違法・無報告・無規制)漁業由来の水産物の国内市場への流入防止強化を求める共同宣言書が提出されました(本文はこちら)。
今後、水産流通適正化法の具体的な改正内容については、来年2025年にSeafood Legacy Timesのコラムで詳細をお伝えする予定です。
2024年には、金融機関からも、水産業に対する投融資方針が発表されました。
みずほフィナンシャルグループは、2024年3月、IUU漁業や乱獲・混獲を生物多様性や人権へのリスクととらえ、重大な影響がある場合は投融資等を行わないとする方針を発表しました(本文はこちら)。また、5月、福島の東邦銀行からも地銀として初めて、IUU漁業にかかわる事業者を投融資の対象外とし、生態系保全や、先住民、労働者の人権への配慮を求める投融資方針が出されました。
さらに、10月にはWWFから、日本の銀行9行を含む、アジア、欧州、北米地域の40の銀行による水産関連の持続可能性の取り組みを評価した和訳版「Above Board: 銀行の水産セクターポリシーの評価2023」が発行されました。レポートによると、水産に特化した方針を持っているのは3割(12行)、その内、方針を公開しているのは10行にとどまっており、基本的な課題が以前として解決されていない現状が浮き彫りになりました。
最後に、2024年は、Seafood Legacy Timesを運営する、シーフードレガシーと日経ESGが主催する東京サステナブルシーフード・サミットが10回開催を記念した年でもありました。
過去10年を振り返ると、今なお、課題はありつつも、「サステナビリティ」が浸透していなかった2015年と比べると、驚くほどの進展がありました。
2024年も、サステナブルシーフードの主流化に向けて着実に進展を遂げた一年でした。来る2025年も読者の皆様と共に、チャレンジし続けられるよう情報をお届けしてまいります。
新たな一年が皆様にとって飛躍の年となりますことを、編集部一同心よりお祈り申し上げます。