IUU漁業撲滅の旗手が示す、日本の水産が歩むべき未来(後編)

IUU漁業撲滅の旗手が示す、日本の水産が歩むべき未来(後編)

漁業に関わる外国企業やNGOの日本での活動を支援する「エリホルトコンサルティング合同会社」を立ち上げ活動する中で、GTA(Global Tuna Alliance)とGDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)に出会い、それぞれの考え方に共感したというガンサー・エリホルトさん。

GTAとGDSTの日本担当者を兼任するガンサーさんに、それぞれの組織の特徴や日本の水産企業が参加することのメリット、ガンサーさんの目から見た近年の日本のサステナブル・シーフードの動向などについてお話を伺いました。

 

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マグロのクリーンなサプライチェーンをめざすGTA

——GTAの主な活動内容を教えてください。

GTAの活動の中でも特徴的なのは、マグロ類のサステナビリティを向上させるために、加盟企業が政府やRFMO(地域漁業管理機関)への共同政策提言を行っていることです。RFMOは魚類資源の保護に努めるだけでなく、市民の利益を代弁すべき機関です。ですから、GTAに加盟している一般企業がRFMOのオブザーバーになり、漁獲戦略を全面的にサポートすることで、RFMOの活動を推し進めることができると考えています。

また、GTAに加盟している企業は世界のマグロサプライチェーンの約30%を取り扱っていて、そのうちの約8割が北米や欧州のものです。特定の地域で加入するグループが増えれば増えるほど、その地域のマグロサプライチェーンが安全になっていきます。

——日本はマグロの主要消費国でありながら、政府やRFMOへ共同政策提言を行うことに関してまだ経験が浅いのではないでしょうか。

GTAは加盟企業に対して、政府やRFMO(地域漁業管理機関)へ共同政策提言を行うことを推奨していますが、簡単にできることではないということもよく理解しています。まずお願いしたいのは、GTAがマグロ漁業やサプライチェーンに関して定めている基準をできるだけ多く守るよう、加盟企業に最善を尽くしていただくことです。

また、日本の水産企業もGTAに参加することで、持続可能な海の創造を目指す企業のグローバル・コミュニティに近づくことができます。オープンなネットワークですから、加盟企業がクリーンなサプライチェーンで仕事をしていることを改めて確認できるでしょう。さらに、不公正で持続不可能な漁法に従事している人々が、その犯罪によって利益を得ることがないよう、GTAの一員として協力することができます。日本の水産企業にもぜひ参加を検討していただきたいと思います。

 

水産物のトレーサビリティの国際標準をつくるGDST

——次にGDSTについて教えてください。GDSTは2022年に体制を一新し、WWFから独立しました。独立したことで変化はあったのでしょうか。

WWFとは今も協力関係にありコミュニケーションもとっていますが、現在のGDSTは自立した組織で、資金も自己資金です。またGDSTのパートナーシップは従来通り水産物サプライチェーンに関わるすべての企業に開かれていますが、新しいGDSTはそれに加えてトレーサビリティソリューションプロバイダー、認証・ベンチマーク機関、NGO、学術機関、政府機関など、あらゆるステークホルダーともパートナーシップを結ぶことができます。

 

沿岸警備隊のパトロール船にて

 

——GDSTが定めるKDEs※の全項目を日本の水産サプライチェーンに一度に当てはめるには大きな壁があるように思います。

まだまだやるべきことはあるものの日本はアジアの中でもIUU漁業との闘いに尽力していますし、海のサステナビリティに積極的だと思いますが、会社全体で新しいことを取り入れるのは少し遅いかもしれませんね。ですが日本の企業は、すでにGDSTが定めるKDEsに一定の割合で準拠していることを認識していただきたいと思います。それを100%に近づけるために、ステップ・バイ・ステップで前に進んでいきましょう。一朝一夕にドラスティックに変化させることが正しい行動とは思えません。

GDSTが定めるKDEsに従ってトレーサビリティの向上させることは、食品の安全性、環境の持続可能性、社会的責任に関連するリスクを特定・管理するのに役立ち、最終的に法的リスク、財務リスク、風評リスクを低減することができます。KDEsを導入するには時間がかかり最初は大変なこともあるかもしれませんが、私たちが支援します。

GDSTはGTAと互換性があり、GDSTの規格はGTAの規格の一部です。GTAに参加すれば、いずれはGDSTにも参加していただくことになると思います。

 

※KDEs・・・Key Data Elements。水産物サプライチェーン内で記録・伝達する必要がある主要データ要素。

 

違法漁業者を排出し、持続可能な日本の漁業の発展を

——近年の日本のサステナブル・シーフードの動きをどのように見ていらっしゃいますか?

一概には言えませんが、アジアの中で日本は持続可能な漁業を行っている国のひとつです。しかし、まだそれをうまく利用しているとは思えません。多くの魚種が減少傾向にあり、それが顕著になってきています。

悪質な業者が持続可能な漁をしないことで、なぜ日本の人が苦しまなければならないのでしょうか。例えば、サンマは減少し、価格は上昇しています。日本の漁業協同組合はこの問題に取り組むためにベストを尽くしていますが、もっとやるべきことがあるはずです。日本の水産業界は、政府とともにRFMOのトレーサビリティ、透明性、持続可能性をもっと高めるよう働きかけるべきです。日本企業が協力して違法漁業者を世界のサプライチェーンから追い出せば、日本の漁業は発展すると思います。

——最後に、ガンサーさんが日本で成し遂げたいと思っていることを教えてください。

「アメリカン・ドリーム」という言葉がありますが、これは、外国人がアメリカに移住し、一生懸命働き、自分たちのために素晴らしい人生を築くことができるという考え方です。私の祖父はアメリカン・ドリームを生きていました。16歳の時にオーストリアからアメリカに移住し、英語も話せませんでした。何年もの間、彼は懸命に働き、最終的にアメリカでビジネスを成功させました。新しい国での困難が彼に情熱をもたらし、彼を強くしたのです。

私も今、私の「ジャパン・ドリーム」を生きています。大好きなこの国で、大好きな海のためにビジネスを成功させたいと思っています。

 

Gunther Errhalt(ガンサー・エリホルト)
アメリカ・マサチューセッツ州出身。ロードアイランド大学で中国語と国際関係学を学んだのち、中国に移住。ミドルベリー国際研究所大学の大学院に進み国際貿易と経済外交を学ぶ。2018年日本に移住し、NPFC(北太平洋漁業委員会)でコンプライアンに取り組んだ後、2019年Global Fishing Watchに入社。多くの違法操業漁船を特定した。2022年に独立し「エリホルトコンサルティング合同会社」を設立。2023年よりGTAの日本担当者、GDSTのアジア市場開拓職を兼任。

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。