UNEP FI 水産物のサステナビリティ向上のため 金融イニシアチブに賛同する投資家を募集

UNEP FI 水産物のサステナビリティ向上のため 金融イニシアチブに賛同する投資家を募集

2023年は公海に関する条約やプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)など、グローバルな地球環境問題に関する大きな外交上の進展がありました。また、待望されていた昆明・モントリオール世界生物多様性枠組の履行もはじまりました。

どの国際条約でも、海洋の健全性に関する事項が大部分を占めており、仮に計画通りに施行されれば、将来の世代のために健全で豊かな海洋生態系を維持するのに役立つでしょう。

しかし、2023年は早急に行動を起こす必要性を示す、憂慮すべき出来事が起きた年でもありました。その一つが全9項目にわたるプラネタリー・バウンダリーの初となる枠組み更新です。この研究で特に注目されているのが、9つの境界(バウンダリー)の内、すでに6つが限界を超えている点です。これは今や地球は人類にとって安全に活動できる空間とは言い難くなってしまったことを示唆しています。中核となる境界の1つである「生物圏の一体性」は臨界点に向けて急速に悪化しており、全ての人類がかかわる、体系的なつながりがリスクにさらされていることを示しています。

海洋における生物多様性減少の主な原因は、商業漁業による乱獲です。海産物は国際的な取引量が最も多い商品の1つで、需要は増加傾向にあります。2020年における年間の海産物の生産量は約4,060億米ドルに相当し¹、2050年までには水産食品(魚、水産物および海藻)に対する需要は約2倍になるとされています²。しかし、およそ1.93-2.89兆米ドル分の海産物関連の資産と収益が、乱獲、生息環境の質(サンゴ礁やマングローブ)の減少、富栄養化や病気の発生によって生じた海洋に対するダメージが原因で、今後15年間に危険にさらされる可能性があります³。

1:  FAO(国連食糧農業機関)、2022年、世界漁業・養殖業白書2022
2:  ネイラー、R.L.、キショール、A.、スマリア、U.R.など。地理的および時間的尺度を通じたブルーフードの需要。ナット・コミューン12、5413 (2021)
3:  WWF(世界自然保護基金)およびメタボリック、2021年、海洋リスクの舵取り、国際的なブルーエコノミーにおいてリスクに晒される価値

 

 

地球システムの崩壊を招く、現在の危険な道から抜け出すために、持続可能な水産物生産へと早急に転換することが求められています。このためには、水産企業と投資家が、自然に対する影響や依存度に対する理解を深め、潜在的リスクを減らすことが必要不可欠です。

銀行、保険会社および投資家がこのような方向転換を支援するため、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)はサステナブル・ブルーエコノミー・ファイナンス・イニシアティブを作成しました。私たちの会員ネットワークメンバーである、総資産規模11兆米ドルの50を超える官民の金融部門のプレイヤーが、海洋の健全度は、自らの事業とUNEP FIのサステイナブル・ブルーエコノミー・ファイナンス・プリンシプル(海洋の保護、持続可能性に関する持続可能な開発目標14に、資本の流れを協調させるための世界初となるハイレベルな枠組み)に関与するための全体的な戦略として重要であると考えています。

実務面においては、金融機関の場合、あらゆる業務において国際的な 「ブルーファイナンス」のガイダンスおよび基準を実践していくことになります。2021年には金融機関向けに特化した水産物に関する金融についてのガイドラインおよび推奨事項が設立されました。このガイドラインでは天然漁業、養殖および関連する加工業のバリューチェーンにおいて、どのような活動が、今後資金が提供されるべきではない、高リスクで社会や環境に害を与えるものなのか。どういった活動が金融分野においてベストプラクティスとされ、投資や融資の機会をもたらすかについて紹介されています。

2023年3月、ガイドラインを「読む」段階から「実践」へと移すことを目的に、FAIRR、UNEP FI、WWF、プラネット・トラッカーおよびワールド・ベンチマーキング・アライアンスが共同で、「投資家協働エンゲージメント・イニシアティブ」を発足しました。このイニシアティブは、市場に存在する様々な水産関連の金融リソースをアクションへと向かわせることを目的としています。

具体的には、主要水産企業が、水産物のグローバルサプライチェーンにおける環境・社会リスク(違法、無報告、無規制(IUU)漁業、乱獲、生息域変化および人権問題など)を特定・対処し、持続可能性を高める手段として、サプライチェーン全体で強固なトレーサビリティシステムを開発、実装することを支援しようとしています。

 

 

サプライチェーン全体でトレーサビリティが確立すれば、水産企業が自社の持続可能性に関する主張を裏付けできます。さらには、伸び続けるサステナブル・シーフードに対する需要を満たしながら、量と質の両面で改善されたデータによって業務効率を向上させることもできるなど、多くのメリットが生まれる可能性があります。

プラネット・トラッカーによる研究によると、水産物の平均総売上の内、わずか1%を適切な水産物トレーサビリティシステムのために投資すると、食品リコールや食品廃棄物に対する支出を減らし、ブランドの評判と企業コンプライアンスが高まり、水産業全体のの収益性が60%伸びる可能性があることが分かりました。さらに、水産物のグローバルサプライチェーン企業の評価額が6,000億米ドル伸びることも予測されています4

ただし、サプライチェーン全体のトレーサビリティを達成するための本当の課題はまだ残っています。システム実装費用、サプライチェーン・ギャップ、不十分なデータ収集および管理、互換性のないシステムの影響で発生する企業間の相互運用性の欠如などです。

幸いにも、トレーサビリティシステムへの投資がもたらす利益はコストを上回るという考えは、追跡可能な水産物に対する公的なコミットメントや、SeaBOS、グローバル・ダイアログ・オン・シーフード・トレーサビリティ(GDST)およびシーフード・タスクフォースといった非競争連携プラットフォームへの参加が増えているように、業界内における共通認識として広まりつつあります5。ワールド・ベンチマーキング・アライアンスのシーフード・スチュワードシップ・インデックス(SSI)ではこのような公的コミットメントの増加が示されており、追跡可能な水産サプライチェーンの実現にコミットした企業の数は2019年ではSSIの調査対象企業の40%だったのに対し、2021年には50%に増加しています6

「投資家協働エンゲージメント・イニシアティブ」に関心のある方はぜひ以下よりご登録ください(締切:2023年12月15日)。ご登録いただくと、関連情報が届く他、ミーティングなどにも参加いただけます。

こうした動きが示すように、私は2023年が金融機関による水産物のサステナビリティのための行動の年になってきたという希望を感じています。

水産物のバリューチェーンについて興味がある、または水産物についてエクスポージャー*のある投資家の皆さんは、ぜひ水産市場を先導する今回のイニシアティブにご参加ください。

水産企業に対し、海洋生物多様性に対するアプローチを改善するよう働きかけることは、9つのプラネタリー・バウンダリーのうち、少なくとも1つについて限界値を下回るようにする、初めの一歩となるでしょう。その一歩を皆様とご一緒できることを楽しみにしています。

*投資家が持つ金融資産のうち、価格変動など特定のリスクにさらされている金額や残高、割合

<参考>
公海に海洋保護区を設定 国連公海条約による日本の水産業界への影響とは

 

4:  プラネット・トラッカー、2022年、6000億ドルを追跡する方法
5:  https://www.seafoodtaskforce.global/ https://seabos.org/
6:  WBA、2021年、海産物管理責任インデックス

 

デニス・フリッチュ
国連環境計画 金融イニシアチブ(UNEP FI)アソシエイト・ネイチャー・リード