高校生が地元の未利用資源を商品化! 水産の未来を担う人材へ(前編)

高校生が地元の未利用資源を商品化! 水産の未来を担う人材へ(前編)

2023年の「第5回ジャパン・サステナブル・シーフード アワード」で、U-30部門のチャンピオンに選ばれた愛知県立三谷(みや)水産高等学校。同校は三河湾に面した愛知県蒲郡市に位置し、授業の一環として地元の漁協や企業との協働による商品開発を実施。今回、漁獲されても船上で廃棄されてしまう未利用資源 ジンケンエビを活用し揚げはんぺんを開発したことが注目されました。(授賞式の様子はこちら

今回は、その愛知県立三谷水産高等学校 水産食品科の学科主任 清水一亨さんと、3年生の伊藤海さんに、同校の特徴や、お2人が水産の道に進んだ経緯などについてお話しいただきます。

 

愛知県立三谷水産高等学校 水産食品科
愛知県蒲郡市三谷町水神町通にある県立高等学校で、愛知県下では唯一の水産高等学校。1943年設立。現在は海洋科学科、情報通信科、海洋資源科、水産食品科の4つの学科があり、水産食品科は、人と人、地域と地域、国と国をつなぐ「食」について学ぶ。水産物の食品加工を中心に食品の流通や管理などについて学び、その知識をもとに商品開発を行う。商品開発ではSDGsの観点から、未利用資源を積極的に活用している。
https://miyasuisan-h.aichi-c.ed.jp/ka05/ka.html

 

未利用資源の6次産業化に注力。SDGsを課題研究のテーマに

——愛知県立三谷水産高等学校 水産食品科の特徴をお教えください。

清水先生:愛知県立三谷水産高等学校(以下、三谷水産高校)には、海洋科学科、情報通信科、海洋資源科、水産食品科の4つの学科があり、さらに、海洋科学科には海洋漁業コースと海洋工学コース、海洋資源科には栽培漁業コースと海洋環境コースがあります。

水産高等学校の中でも4つの学科を持つところは少なく、三谷水産高校は規模の大きな学校だと言えるのではないでしょうか。私もここに赴任してきた時は、こんなに大きな水産高校があるのかと驚きました。

その中で水産食品科は、1年次に水産や食品製造などについての基礎を学び、2年次に食品技能検定や食品安全検定、食品表示検定、リテールマーケティング(販売士)検定など各自が希望する資格を取得し、3年次でその資格や知識を用いて商品開発の課題研究を行っています。

 

未利用資源を使った商品開発で「第5回ジャパン・サステナブル・シーフード アワード」U-30部門のチャンピオンに
(右:フィッシュ・アンド・プラネット株式会社 乗藤 紘吏さん、左:伊藤海さん)

 

そして、10年ほど前から未利用資源の6次産業化に視点を置き、3年次に行う課題研究や2年次の総合実習などで学習してきました。その取り組みが評価され、三谷水産高校は7年前にSPH※に指定されています。その頃からSDGsを3年次の課題研究のテーマとして掲げるようになり、現在は地域の企業と協働で未利用資源を使った商品開発を行っています。企業と連携することで、生徒たちのコミュニケーション能力を育てることも目標にしています。

 

※SPH…スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール:文部科学省が2014年度から実施している事業。専攻科を含めた5年一貫のカリキュラムの研究や大学・研究機関等との連携など、先進的な卓越した取組を行う専門高校等をSPHに指定。

 

地元の漁協の未利用資源「ジンケンエビ」で商品開発

——清水先生は、なぜ水産高校の教師になろうと思われたのですか?

清水先生:私の祖父が兵庫県の北部でベニズワイガニ漁の漁師をやっていて、その影響もあって私も釣りが好きで、将来は漁師になりたいと思っていました。ですがある日、漁の最中の事故で祖父が亡くなってしまって。それから海難事故をなくすにはどうしたらいいのか考えるようになり、学校の先生になって教育に携わるのも一つの方法ではないかと思ったのがきっかけです。

三谷水産高校には7年前に赴任し、以来、毎年3年次の課題研究を担当しています。私はヤマサちくわ株式会社と協働して商品開発を行う班の担当で、これまで、正月でしか需要がない伊達巻を用いたタルト「ち~だ~タルト」や、さまざまな未利用資源を使った魚醤などを開発してきました。

 

清水先生は毎年3年次の課題研究を担当している

 

——伊藤さんは、なぜ三谷水産高校の水産食品科に進学しようと思われたのですか?

伊藤さん:私はもともと蒲郡市で育ち、魚が大好きだったんです。漁師になりたいとも思いましたが、そのうち魚を使った商品開発をしたいと思うようになり、三谷水産高校の水産食品科に進みました。今回の課題研究は蒲郡市の形原・西浦漁協で水揚げされるジンケンエビを用いた商品開発でしたが、形原・西浦漁港には知り合いの漁師もいて、小さな頃によく連れて行ってもらっていました。

形原・西浦漁港は愛知県で唯一、深海底引網漁業を行っていて、深海の水産物が水揚げされています。秋から冬にかけてはタカアシガニが獲れますし、メヒカリやキンメダイ、ノドグロなども水揚げされます。その中で一緒に獲れるのがジンケンエビで、味はとても良いのですが、大きさが5cmほどと小さく殻をむくのに手間がかかることや、殻が固いことが原因で、漁獲されても船上で廃棄されてしまっているのです。そのジンケンエビに着目したことから、今回の揚げはんぺんの開発につながる課題研究がスタートしました。

 

——
SDGsをテーマに地元の未利用資源を使った商品開発を行っている三谷水産高校。後編では、ジンケンエビを使った揚げはんぺんの開発の経緯や苦労、お2人の今後の目標などについてお話を伺います。

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。

 

 

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