世界の水産企業30社のSDGs取り組みランキング 今後の課題と可能性とは

世界の水産企業30社のSDGs取り組みランキング 今後の課題と可能性とは

シーフード・スチュワードシップ・インデックスとは

シーフード・スチュワードシップ・インデックス(以下SSI)は、水産業界で最も影響力のある30社をアセスする目的で、ワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA)によって開発されたベンチマークです。このベンチマークは、持続可能な開発目標(SDGs)、MSC(海洋管理協議会)やGDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)などの民間の国際基準や枠組みに沿って社会的責任評価基準、環境影響評価基準、企業ガバナンスの評価基準のセットになっています。評価方法と関連する採点ガイドラインは、WBAのウェブサイトに掲載されています。

評価対象には、水産飼料の製造、養殖、漁業、加工、ブランディング、貿易など、バリューチェーンのさまざまな部分で活動しているアジア、ヨーロッパ、北米の企業が含まれています。評価対象企業のリストは、こちらで見ることができます。

最初のSSIは2019年10月に発表されました。その後、さらに2021年10月と2023年10月に発表されています。

 

2023年 より多くの企業が環境面、社会面に配慮した水産物を調達

2023年のSSIでは、透明性と報告状況が改善、継続的に水産物の環境面での持続可能性の取り組みが行われ、非競争連携の取り組みへの参画が進むなど、特定の分野で前進していることがわかりました。

たとえば、30社中28社が、持続可能な、もしくはその改善を進めている事業から少なくとも1つの製品を調達しており、環境的に持続可能で、社会的責任があり、追跡可能な水産物の生産にコミットする企業が増えています。また、人権デューデリジェンスの最初のステップに取り組み始めた企業は2019年は、30社のうち5社でしたが、その後、2023年の調査では7社となりました。また、労働者や社外の個人やコミュニティのための苦情処理メカニズムを導入する企業も増えています。さらに、より多くの企業(30社中24社)が、トレーサビリティに関する水産物の調達方針を打ち出しています。

しかし、企業が事業やサプライチェーン全体にわたる社会的・環境的影響に対処し、その進捗状況を包括的に報告するまでには、まだ長い道のりがあります。

まず、目標を設定する前の最初のステップである、事業やバリューチェーン全体にわたる環境的・社会的リスクの評価・特定を行っている企業が少なすぎるように思われます。おそらくこのことが、企業がコミットメントを掲げているにもかかわらず、具体的で、測定可能かつ、期限を設けた目標を設定している企業があまりにも少ないことの理由でしょう。

 

日本の水産企業は情報開示が課題

SSIの評価対象となった日本企業は7社(ニッスイ、丸紅、マルハニチロ、三菱商事、極洋、横浜冷凍、OUGホールディングス)です。全体として、日本企業は2019年以降、ランキングの下位半分にとどまっています。

提供:World Benchmarking Alliance

 

しかし、これらの企業は絶対スコアで大きな改善を遂げており、特に丸紅とニッスイは、主に情報開示の改善と、ガバナンス、環境、社会的責任の項目のスコア改善により、2021年から2023年にかけてそれぞれ13.0ポイントと5.3ポイント改善しています。しかし、日本企業は全体的にトレーサビリティの項目で欧米に遅れをとっており、目標や活動に関する情報開示は非常に限られているか、まったく行われていませんでした。

提供:World Benchmarking Alliance、日本語試訳(シーフードレガシー)

 

世界、そして日本の水産企業の次なる課題

水産企業が社会的・環境的影響に対処するためには、多くの課題があります。SSIはさまざまな種類の企業を評価しており、その結果、企業が直面する課題は、事業規模、ターゲット市場、垂直統合のレベル、養殖と天然水産物のどちらに重点を置いているか、事業を展開している場所の法律と文化の背景、扱う魚種や取引をするサプライヤーの数によって異なります。

しかし、養殖と天然漁業の両方のサプライチェーンに見られるリスクである違法・無報告・無規制(IUU)漁業を根絶することが、今後数年間の共通の課題となるでしょう。漁獲された魚の5分の1がIUU漁業によるものであり、IUU漁業が人権リスクと関連していることから、IUU漁業は水産業の持続可能性にとって大きな脅威となっています。企業は、トレーサビリティの向上を通じて、IUU漁業との闘いにおいて極めて重要な役割を果たすことができます。

日本企業が特に直面している課題は、多様な水産物や多くのサプライチェーンを扱っているという事実に関連しています。つまり、これらの製品に関連する環境的・社会的影響を評価し、対処することは難題ではありますが、決して不可能なことではありません。

実際、最新のSSIでは、一部の日本企業(丸紅など)が水産物の環境パフォーマンスをマッピングし始めていることが示されています。このステップは不可欠であり、多額の投資と、このプロセスをサポートできる専門家やシーフードレガシーのような専門組織やNGOとの強力なパートナーシップが必要です。日本企業は世界の水産物生産の大きな割合を占めており、持続可能な水産物への道を歩み始めています。今後数年間で進歩が加速することが期待されています。

2023年SSIの結果の詳細については、インサイトレポート(こちら)をご覧ください。2023 SSIの全データセットはこちらからご覧いただけます。

 

執筆:ヘレン・パッカー
ワールド・ベンチマーキング・アライアンス エンゲージメント 水産物管理指標リード