ASC CEOが語る、日本の役割と未来の養殖ビジョン(前編)

ASC CEOが語る、日本の役割と未来の養殖ビジョン(前編)

コロナ禍におけるオンライン開催期間を経て、202310月にフルリアル開催した「東京サステナブルシーフード・サミット2023」(TSSS2023。企業やNGO、国際機関などの第一線で活躍するキーパーソンが、水産物の環境的・社会的持続性をテーマに討論を行いました。

このTSSS2023には、水産養殖管理協議会(ASC)のCEO、クリス・ニネスさんも来日。基調講演の他、世界水産戦略と養殖業の役割をテーマにしたパネルディスカッションなど複数ご登壇いただきました。

今回はそのクリス・ニネスさんに、日本と世界の養殖の現状や、ASCの描く将来の展望などについて伺います。前編では、今回の来日で感じた日本の養殖の課題や、成長するアジア市場で日本に期待することなどについてお話しいただきました。

 

クリス・ニネス
1983年〜2002年、英国国際開発省に勤務。アフリカおよびカリブ海における海産物産業開発問題に関する助言を行うかたわら、プロの漁師として近海漁業を営む。1996年〜2002年MRAG社 テクニカルディレクター、2003年〜2006年MRAG Americas副社長。また、2006年〜2011年に海洋管理協議会(MSC)の副CEO兼事業本部長を務め、MSCの技術的・商業的活動の拡大を主導した。2011年10月より水産養殖管理協議会(ASC)CEO。

 

日本の認証水産物を海外にも展開し、市場の発展へ

——今回の来日ではASC認証を取得した養殖場を視察されたそうですね。どのような感想を持たれましたか?

宮城県で、ギンザケの株式会社マルキン、カキの宮城県漁協石巻地区支所、ワカメの宮城県漁協北上町十三浜支所青年部グループの3つの養殖場を訪れました。現場へは仙台空港から車で向かったのですが、道中で目にした自然がとても綺麗だったのが印象に残っています。そして、養殖場を見て回り、担当者と話をして、学ぶことも多かったですし、ASCとしての課題も見えてきました。特に、日本で認証を取得した水産物を海外へ輸出するためにASCがいかにサポートできるか。この点はこれから日本の生産者と共に考えていかなければなりません。

 

今回の来日を機に、宮城県の認証養殖場を視察した

 

日本の認証水産物の市場は他の国に比べるとまだ規模が小さく、成長途中だと言えます。市場の立場としては供給が少ないので流通を増やせず、生産者の立場としては需要が少ないので生産量を増やせないというのが現状です。鶏が先か卵が先かというような状況ですので、どちらかが動くのを待つのではなく、双方が歩み寄って打開策を見つける必要があると考えています。

 

——日本の認証水産物市場を発展させるためには何が必要だと思われますか。

水産庁が新たな資源管理の強化に向けたロードマップを作成するなど、日本の政府が水産資源の管理を推進させていることは明らかです。次のステップとして、消費者も環境保全と社会的責任の両方が重要だということを認識し、サステナブルな水産物を求める流れをつくらなければならないと感じています。

私は、これまでMSCASCといった非営利団体で20年ほど水産物の持続可能性の推進に努めてきました。その経験を振り返ってみても、認証水産物市場の発展には、水産事業者の協力が重要だと感じています。さらに、小売店が認証水産物の取り扱いを増やし、消費者の認知を高めることも重要です。この2つを実現するためには、水産業界の中でサステナビリティを推進するリーダーを育てていく必要があります。

 

「日本の水産業界でサステナビリティを推進するリーダーが必要」と語る二ネスさん

 

そのためにASCができることは、日本の水産物の価値を国内外に広めることだと考えています。ただ、ASCだけでできることではありませんので、水産事業者や生産者とパートナーシップを育みながら進めていかなければなりません。現時点で99か国、およそ50魚種、22,000点のASC認証製品がありますが、日本とのパートナーシップをより発展させていくことで、魚種の範囲もさらに広げていくことができると感じています。

 

成長するアジア市場で、日本はリーダーとしての役割が求められる

——ASCの中長期計画では、今後日本を含むアジアでの活動に特に注力していくと伺いました。その理由と、日本に対してどのような期待を寄せているのかをお聞かせください。

近年、ASCでは今後の戦略策定を行うために、世界の水産物市場をリサーチしました。この調査では、各国の水産物市場でASC認証製品が占める割合や、人口増加率から将来どれくらいのASC認証製品が必要とされるか、などを分析しました。

その結果、EUではすでに強力なサステナブル・シーフード マーケットが確立され、北米も順調に需要が伸びていることが明らかになりました。一方、日本を含むアジアはまだ初期段階で、現時点でサステナブル・シーフードに対する需要は水産物市場全体の20%程度に留まっています。しかし、2030年頃までには15%ほど増加し35%に達し、2050年頃までにはさらに倍増し70%になると予測しています。

ご存知のように天然の魚は漁獲量の拡大が期待できませんから、アジアで求められるサステナブル・シーフードは養殖でまかなっていくことになります。今後、アジアの認証水産物市場は養殖を中心に成長し、世界の市場を動かすハブにもなりうるでしょう。そのため、ASCはアジアでの活動に注力していきます。

特に、日本においては中心的な活躍を期待しています。サステナビリティの観点でみれば、アジアの中で間違いなくトップを走り、リードしているのが日本です。輸入量でも、アメリカ、EUに続く規模ですから、リーダーとしての役割を果たすべきでしょう。アジアのその他の国に、良い影響を与えてくれることを期待しています。

 

日本の養殖水産物市場を発展させるためには、サステナビリティを推進するリーダーが必要不可欠です。さらに、成長するアジア市場において日本はリーダーとして周辺諸国を牽引する重要な役割が求められています。これに関連して、後編ではASCが各国で展開しているキャンペーンの概要や、グリーンファンド、気候変動など、サステナブル・シーフードを取り巻く環境とそれに対するASCの取り組みなどについて詳しく伺います。

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門、WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。