2023年3月、愛南漁業協同組合(代表理事組合長:立花弘樹)、安高水産有限会社、有限会社ハマスイが世界ではじめて、マダイでBAP認証を取得しました。これは日本の養殖生産では初のBAP認証取得となり、その背景はSEAFOOD LEGACY TIMESでもご紹介しました。
今回は、このBAP認証を運営する世界水産物連盟(Global Seafood Alliance)の日本マーケット担当として、BAP認証の認知向上のため活動する芝井幸太さんにお話を伺います。前編ではBAP認証の特徴や、日本の養殖業者がBAP認証を取得するメリットなどについてお聞きしました。
芝井幸太
世界水産物連盟(GSA: Global Seafood Alliance) 日本マーケット担当。レストラン、コンサルティング会社にてサステナブルシーフードの認証を中心とした業務を経験した後、2021年1月より現職にて日本におけるBAP・BSPの認証を受けた水産物の取扱拡大、認知度向上、国内での認証取得などに取り組んでいる。埼玉県出身。
——まず、GSAが運営しているBAP認証について教えてください。
BAP(Best Aquaculture Practices)認証は、2002年に開始されたプログラムで、養殖水産物の生産過程全体を評価します。具体的には、ふ化場、飼料工場、養殖場、加工工場を対象に、その全ての段階で「環境への責任」「養殖される魚介類の健康と福祉」「食品安全」「社会への責任」の4つを保証する認証制度です。
BAP認証で保証される内容
1. 環境への責任・・・生息地の保全、水質、排水などの問題に対応
2. 養殖される魚介類の健康と福祉・・・疾病管理などの問題に対応
3. 食品安全・・・禁止されている抗生物質やその他化学物質を不使用
4. 社会への責任・・・生産者や従業員の人権と安全が守られた労働環境の整備と運営の徹底
2023年5月現在、世界で3,053の施設がBAP認証を取得し、36カ国で30魚種が認証されています。世界のBAP認証取得量の合計は282万6,576トンに達しており、2020年の日本の海面養殖の総生産量は約97万トンですので、その約3.1倍にもなります。
——日本の水産事業者がBAP認証を取得するとどんなメリットがありますか。
BAP認証を取得すると、養殖水産物のふ化場、飼料工場、養殖場、加工工場を対象に、各施設毎に1度の監査で国際基準に沿った認証を取得できます。この監査は、独立した第三者監査機関が行うので、自社監査、第二者監査に比べて独立性と信頼性を担保できます。特に、北米を中心にBAP認証を取得した水産物を積極的に取り扱いたいという企業が増えているので、そういった企業との取引でも有利に働くかと思います。
BAPは加工工場を起点として川上へ遡るような形で監査します。監査では養殖過程の各段階に基準が設けられており、監査員がそれぞれの施設を実際にまわり評価します。認証を取得した施設は星で表され、四つ星が最高評価となります。四つ星を取得すれば、養殖過程の全てのサプライチェーンが認証基準を満たしていることになり、マーケットでの信頼性も向上します。
市場でBAP認証の水産物を取り扱うことは、経済的なメリットもあります。スーパーのバックヤードやレストランやホテルのキッチンなどを含む最終消費現場での加工、調理の際には認証の取得が必要なく、ロゴ使用ガイドラインに沿って使用をすることで、追加費用なくBAP認証ロゴを引き継ぐことが可能です。ロゴの使用料は一切かかりません。
上記を除き、サプライチェーン上で、商品を開封して、商品形態が変わる加工を行う施設は加工工場基準の対象となるため別途認証が必要です。
——芝井さんはGSAの日本の担当者として、このBAP認証を広めるためにどのような活動をしていらっしゃるのでしょうか。
2021年1月にGSAの専任スタッフに就任する前は、2018年の後半ごろから国内の企業を通して日本でのBAP認証の活動をサポートしてきました。BAP認証をロゴ付きで販売してくださる小売業者を増やすための啓発や、インターネットを活用して、認知度を高めるためのサポートを行っていました。
専任スタッフになってからは、小売業者様を訪問してBAP認証の水産物を扱っていただけるよう営業をしたり、サプライヤーを直接訪問して、すでに取り扱っている水産物でBAP認証のロゴを付けて小売業者へ提案しませんか、と働きかけたりしています。現在は少しずつ認知が広がり、BAP認証の取得や活用についてお問い合わせをいただくことも増えてきました。
GSAは18か国にスタッフを配置し、それぞれを「生産国」と「市場国」に分類。日本は「市場国」に位置付けられています。日本は購入金額で世界第3位の水産物市場ですので、日本企業がBAP認証を求めることで、東南アジアのエビ、南米のサーモン、ムール貝などのBAP認証の維持、新規取得の動機付けになると考えています。
——GSAの海外の本部・支部とはどのように連携していますか? GSAは中国にもオフィスがありますが、アジアの近隣諸国ではどんな動きがあるのでしょうか。
GSAは、各国のオフィスと毎週ミーティングがあり情報共有をしており、日本は中国オフィスとの連携が深いです。中国の動向として、都市部の若者を中心に水産物の安全性や持続性への関心が強く、BAP認証の認知度が上がっているという調査結果も出ています。調査では、対象の3,400人のうち30%がBAP認証を知っているということが明らかになっています。BAPとしては、東南アジア諸国は、北米向けの輸出国として長年、力を入れてきましたが、現在は市場国としてもBAP認証の普及に動き始めています。
——世界では150社以上のエンドーサーがBAP認証を支援しているとのことですが、日本ではどれくらいの数の企業がどのようにBAP認証を支援しているのでしょうか。
BAP認証ロゴとともに水産物を扱っている企業はいずれもエンドーサーであり、エンドーサーになるための契約や費用は必要ありません。現在日本では30社ほどがエンドーサーとして活動しています。ガイドラインに沿ってイベントを開催したり、BAP認証水産物を取り扱うなど各社の取り組みはさまざまです。
世界36か国30魚種、3,053件もの施設で認証されているBAP認証。現在150社以上の企業がエンドーサーとして支援を行う、世界で広く認知されていることがわかりました。後編では、日本初のBAP認証取得の裏側で見られた苦労や、日本の水産事業者がBAP認証を取得する際の注意点などについてお話を伺います。
取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。