IUU漁業撲滅の旗手が示す、日本の水産が歩むべき未来(前編)

IUU漁業撲滅の旗手が示す、日本の水産が歩むべき未来(前編)

2023年1月、グローバル・ツナ・アライアンス(Global Tuna Alliance、以下GTA)がガンサー・エリホルトさんを日本担当者に任命しました。

GTAは、より透明で、社会的に責任を持ち、環境的に持続可能なマグロ漁業を達成することを約束する小売業者とマグロサプライチェーン企業によるグループで、ガンサーさんは初の日本担当者となりました。

ガンサーさんは同時にグローバル・ダイアログ・オン・シーフード・トレーサビリティ(Global Dialogue on Seafood Traceability、以下GDST)の日本担当者も兼任し、水産流通適正化法の施行が開始されたばかりの日本での活躍に期待がかかります。水産業界の国際組織を渡り歩いてきたガンサーさんに、来日の経緯や、これまでのキャリアをお伺いします。

 

Gunther Errhalt(ガンサー・エリホルト)
アメリカ・マサチューセッツ州出身。ロードアイランド大学で中国語と国際関係学を学んだのち、中国に移住。ミドルベリー国際研究所大学の大学院に進み国際貿易と経済外交を学ぶ。2018年日本に移住し、NPFC(北太平洋漁業委員会)でコンプライアンに取り組んだ後、2019年Global Fishing Watchに入社。多くの違法操業漁船を特定した。2022年に独立し「エリホルトコンサルティング合同会社」を設立。2023年よりGTAの日本担当者、GDSTのアジア市場開拓職を兼任。

 

環境保護運動家に憧れた子供時代。漁業に興味を持ち日本へ。

——ガンサーさんのこれまでのご経歴をお聞かせください。

私はアメリカで育ちましたが、子どもの頃から動物や自然が大好きで、海外に住みたいと思っていました。当時、オーストラリアの環境保護運動家であるスティーブ・アーウィンが私にとっての憧れの人で、ケーブルテレビの「アニマルプラネット」で放送されていた彼の番組「クロコダイル・ハンター」が大好きでした。彼の影響でいつかはオーストラリアに行きたいと思っていたのです。

ですが大人になるにつれて、中国をはじめとする東アジアの経済成長に興味を抱くようになりました。そのため大学では中国語と国際関係学を専攻し、その後中国に移住しました。それから休暇で東京へ旅行したのですが、わずか数日の滞在ですっかりこの国が大好きになってしまったのです。中国に住んで以来数カ月ぶりに青空を見たからか、かつて海軍にいたこともあり日本の組織的な気質が気に入ったのか。加えて、おいしい料理や親切な人たち、安全性など、魅力的なところばかりでした。それまでの中国での生活を全て捨てて、いつか日本に住むと心に決めました。

その後、中国の大学院時代に国連やWTOを訪問した際に日本の外交官と話をする機会があり、その外交官が漁業の重要性を語っていました。そのときにピンときたんです。これこそ私が携わりたいことだと。というのも、漁業であれば環境保護、外交、貿易という私の好きなことを、ひとつの分野で融合させることができると思ったからです。それから日本で仕事を探しはじめ、2018年にNPFC(北太平洋漁業委員会)のポストにたどり着きました。NPFCではAIS(船舶自動識別装置)を通じて潜在的違法転載を研究し、実際に仕事の経験を積むにつれ、日本が世界でも重要な漁業国のひとつであることを実感し、それ以来日本に滞在し続けています。

 

Global Fishing Watchで違法操業漁船を多数特定

——NPFCを退職後、2019年にGlobal Fishing Watchのスタッフになられましたが、こちらではどのようなお仕事をされていたのですか?

Global Fishing Watchでは、漁業パトロールの支援とコンプライアンス・プログラムの立ち上げに携わりました。漁業情報のレポートを提供し、太平洋の漁業パトロールを行う執行機関を支援するという仕事です。中でも、カナダ、韓国、米国、日本の共同漁業パトロールである「北太平洋警備活動」に最も多く関わりました。

「北太平洋警備活動」参加国の勇敢なスタッフたちとともに、私は警備隊が検査すべき 違法な漁船を特定するために、違法漁業の活動についてレポートを提出するなどして奮闘しました。2019年のパトロールでは2018年の8倍以上の違反を摘発しましたし、現在IUU漁業に登録されている多くの漁船を特定してきました。Global Fishing Watchは現在、違法漁業の削減と海洋管理の改善をめざすTMT(Trygg Mat Tracking)、IUU漁業の監視をサポートするスカイライト、IMCSネットワークと共同でJAC(Joint Analytical Cell)を設立し、世界中でこの活動を続けています。

——ガンサーさんはなぜ、海のサステナビリティに関心を寄せているのでしょうか。

日本の多くの人がそうであるように、私も日常の暮らしの中でたくさんのシーフードを食べています。ですが水産の分野で仕事をするようになってから、コンプライアンスや取り締りを徹底しているにもかかわらず、世界のサプライチェーンに多くの違法な魚介類が入り込んでいることに気づかされました。積み替えであれ、漁船の旗国による措置の欠如であれ、その他の手段であれ、違法な魚介類は依然として市場に出回っているのです。

これは由々しき事態です。おいしいマグロでも、漁師を虐待している漁船から来たマグロかもしれない、なんて考えたくないですよね。回転寿司やスーパーでも、持続可能な方法で調達された魚介類だけを扱っているのかどうか、私は消費者として知りたいと思っています。多くの人が同じような思いを持っているのではないでしょうか。

 


Global Fishing Watchでは違法漁船を特定するために奮闘した

 

——GTA、GDSTのスタッフになったきっかけをお聞かせください。

私は、日本はアジアにおける漁業の持続可能性のベンチマークになるべきだと考えています。ですので2022年1月、漁業に関わる外国企業やNGOの日本での活動を支援するために「エリホルトコンサルティング合同会社」を立ち上げました。そして私と同じような考え方を持つ組織を探していたところ、GTAとGDSTを見つけたのです。それぞれの担当者と話をしたところ、彼らもまた日本における持続可能な漁業の取り組みに価値を見出していると確信し、GTAとGDSTのスタッフになりました。

 

>>> 2018年から日本を舞台に海のサステナビリティのために活動し、2023年からGTA、GDSTの日本担当者を兼任しているガンサーさん。後編では、GTA、GDSTのそれぞれの特徴や加盟することのメリット、ガンサーさんから見た近年の日本のサステナブル・シーフードの動きなどについて伺います。

 

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。