水産資源の持続的利用、プラ削減、健康領域商品の拡充。ニッスイが進める多角的なサステナビリティ

水産資源の持続的利用、プラ削減、健康領域商品の拡充。ニッスイが進める多角的なサステナビリティ

Seafood Legacy Timesでは、北米、ヨーロッパを中心とする大手水産メディア「Seafood Source(シーフードソース)」と連携し、日本の政府、企業、漁業者の優れた取り組みを海外へ発信する「Japan: How Sustainability and Changing Markets are Impacting Seafood Production」シリーズを配信しています。

第2回は日本を代表する水産企業であり、世界的な事業ネットワークを有する株式会社ニッスイ(以下、ニッスイ)です。同社は、水産資源へのアクセスから水産養殖、冷凍食品などの加工食品の製造まで一貫した事業展開を行い、国内外の食に対する様々なニーズに応えています。

その強みを生かし、ニッスイは、「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい“食”を創造する」というミッションのもと、水産資源の持続的利用、サプライチェーンの人権、など、多面的な社会課題に取り組んでいます。今回は、株式会社ニッスイの代表取締役 社長執行役員、最高経営責任者(CEO)である浜田 晋吾氏に、同社のサステナビリティについて詳しく語っていただきました。

プロフィール:浜田晋吾
1983年に日本水産株式会社へ入社。研究職に始まり、食品生産工場のマネジメント、食品生産部門の責任者を歴任。2014年から執行役員として食品事業を推進。2021年に同社の最高経営責任者(CEO)に就任。2022年に現在の株式会社ニッスイに社名変更。

※こちらの記事の英文はSeafood Sourceにも掲載されています
(欧米の読者向けに若干日本語版と表現が異なる場合があります)

Nissui President and CEO Shingo Hamada diversifying his company’s sustainability approach

 

ニッスイ:100年以上の歴史を持つ水産企業のリーディングカンパニー

——御社について、これまでのあゆみを教えてください。

株式会社ニッスイは、山口県下関市で1911年に創業、トロール漁業から事業をスタートしました。トロールを含む各種や漁獲物の加工・販売、冷蔵倉庫網などの関連事業を展開しながら、日産コンツェルン*に参画するまでに成長しました。戦時体制下での事業分割を経て、1945年に漁業とその関連事業を営む日本水産株式会社となりました。
その後、高度経済成長期には事業規模を拡大していきましたが、沿岸諸国の200海里規制により順次遠洋漁業から撤退を余儀なくされ、その影響で業績の低迷を経験しました。しかし、1990年代後半から2000年代にかけてのリストラクチャリングとグローバルな水産資源へのアクセス強化により、再び事業を成長させてきました。
現在は、水産事業、食品事業、ファインケミカル事業などを展開。2022年には企業ブランドの一新とともにミッションとして健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新たな”食”の創造をめざすことを掲げ、2030年のありたい姿を「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー」とする長期ビジョン「Good Foods 2030」と、その実現に向けた中期経営計画「Good Foods Recipe1」(2022~24年度)を策定しました。そして、水産の枠を超えて「食」にフォーカスしていくため、社名を「株式会社ニッスイ」に変更しました。

*日産コンツェルン:太平洋戦争前に存在した財閥の一つ

 

 

——「経済」「社会」「人財」「環境」の4つの価値創造で企業価値向上ーーーサステナビリティについては、いつ頃から取り組みを本格化されたのでしょうか。これまでの取り組みの変遷、また特にご苦労されたことはありましたか?

ニッスイグループでは、2000年代は水産物の調達と世界中のお客様への提供という事業目的が社会への貢献と考えていました。しかし、2010年代半ばになると、経営環境の変化により、CSRを経営の基盤として位置づけるべきではないかとの議論が出始めました。

その結果、中期経営計画「MVIP2017」(2015~17年)では、初めてCSRを取り入れることが決定されました。2016年にCSR委員会が立ち上げられ、CSR行動宣言を発表、3つのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。

<ニッスイグループのマテリアリティ>
・豊かな海を守り、持続可能な水産資源の利用と調達を推進する
・安全・安心で健康的な生活に貢献する
・社会課題に取り組む多様な人材が活躍できる企業を目指す

苦労した取り組みの一つは、「ニッスイグループ取扱水産物の資源状態調査」(第1回2018年公表、第2回2021年公表)です。この調査では、国内外のグループ会社から詳細な水産物取扱データを収集し、整理と分析に約1年を要しました。当社のような業容の企業がこのような調査を行ったのはおそらく世界でも初めてであり、調査結果はSeaBOSのCEO会議で発表され、関係者から高い評価をいただきました。

——ニッスイは、水産資源の持続可能性や海洋プラスチックといった環境問題だけではなく、幅広い課題に取り組んでおられます。こうした取り組みの多様性は、組織、事業の発展にどのように貢献しているとお考えですか?

私たちの、2022年に策定した新しいミッションに掲げた「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい“食”の創造」や長期ビジョンで示した「人々と地球に優しい食」は環境に配慮した食だけではありません。サプライチェーンにおける人権の尊重やステークホルダーのウェルビーイングも叶える食をお届けすることをめざしています。私たちはこれらの取り組みが「環境」、「社会」、「人財」、「経済」の4つの価値を創出し、企業価値向上につながると考えています。また、さまざまな社会課題の解決に取り組む姿勢は、社員のエンゲージメント向上にもつながります。

——製品やサプライチェーンの透明性の向上にどのように取り組んでいますか?

ニッスイグループの「品質保証憲章」では、製品の製造工程、原材料の由来や履歴、栄養成分、アレルゲン情報など、製品に関する情報を正しくわかりやすくお客様に提供することを定めています。これらの開示は、お客様にとって製品を選択する際の参考になることはもちろん、安全性への疑問や懸念の払拭が安心感に繋がり、ひいてはブランドへの信頼性につながります。
また、健康・栄養に関する情報や、サプライチェーンの持続可能性に関する情報の把握とその開示は、水産物の差別化にもつながります。例として、私たちは大学や研究機関との共同研究により、スケソウダラ由来のタンパク質摂取による筋肉増加効果を明らかにしました。現在このスケソウダラのタンパク質を「速筋タンパク」と名付け、スケソウダラのすり身を使用したちくわなどで独自のロゴマークを通じてお客様に伝え、水産物の機能性を活用した生活者の健康課題解決への貢献に取り組んでいます。
人権リスクや環境負荷など、サプライチェーン上流から下流までの情報の定量把握は大変困難ですが、例えば水産物のカーボンフットプリントが他のタンパク質と比較して低いことが示せると、さらなる差別化につながるのではないでしょうか。
また、サステナビリティそのものに関しても、ウェブサイトや「サステナビリティレポート」等を通じ、ステークホルダーの皆様へ向けて積極的に開示しています。

 

固有のテーマ「水産物の持続的利用」に特に注力

——2017年と2020年に実施された「ニッスイグループ取扱水産物の資源状態調査」に基づいた取り組みについて教えてください。

第1回調査では、前例のない取り組みでしたので、自社単独で調査・評価を行いました。しかし、まずは全体感を把握する意義を考慮したため、評価の精度や対象範囲に課題があったことは事実です。その上で第2回調査では、自社評価ではなくSFP(Sustainable Fisheries Partnership)による分析評価を採用し、第三者性を確保しました。また魚油と配合飼料用魚粉を原魚換算して追加し、対象範囲を拡大しました。

SFPの分析により、2020年の調達品の約71%が「優れた資源管理」または「資源管理されている」状態であることがわかりましたが、改善が必要な状態の資源が8%、スコアが欠損して判定できない資源が21%ありました。

この調査により、ニッスイグループは世界中から水産物を調達している中で、どこに課題があるかを俯瞰的に把握できるようになりました。たとえば配合飼料の原料となる多獲性魚種の調達においては、資源評価データが不足している海域からの調達が目立ちました。またIUCNで定められた絶滅危惧種Ⅰ類に該当する魚種も含まれていることが判明しました。

これらの結果に対して、現在私たちはGlobal Roundtable on Marine Ingredientsへの参画を通じた情報収集を開始、また2022年に絶滅危惧種(水産物)における調達方針を策定しました。この方針のもと、特に絶滅危険度が高い魚種への対応策を決め、その妥当性は水産資源の保全に関わる第三者(NGO、大学などの研究機関)との意見交換により確認しています。

 

 

——ニッスイは、SeaBOSやSustainable Fisheries Partnership、シーフードレガシーを含め多くの組織と協働し、また、ASCやBAP、MSC認証製品を取り扱っています。なぜそれほど熱心にサステナビリティに取り組んでいるのでしょうか。

2016年に特定した3つのマテリアリティのうちの一つ”豊かな海を守り、持続可能な水産資源の利用と調達を推進する”は、自然資本に大きく依存して事業を行っているニッスイグループ固有のテーマであり、より責任を持って取り組むべきものだと考えています。また、サステナビリティに取り組むことが、ニッスイグループの将来の発展に欠かせないという強い思いもあります。まだまだ課題は多く、十分に対応できていない取り組みも多々ありますが、ステークホルダーの皆様のご協力もいただきながら課題解決を図っていきたいと考えています。

——サステナビリティに取り組むことによって経済的な利益はありましたか? もしくはあるとお考えですか?

短期的に見るとトレードオフの関係になってしまう場面もあり、取り組みを進めるにあたって最も難しい点です。しかし、近視眼的にならず、中長期の視点で考えることが重要だと考えています。それは、私たちがサステナビリティに取り組むことは、中長期的に「環境」、「社会」、「人財」、「経済」の4つの価値を創出し、企業価値の向上に結び付くと考えているからです。

 

ニッスイのサステナビリティ、今後の取り組み

——今後ニッスイとして特に重点的に取り組むサステナビリティ課題とその取り組みについて教えてください。

ニッスイとしては、「気候変動対応」、「サプライチェーンにおける人権尊重」、「海洋の生物多様性」への取り組みには特に重点的に取り組んでいきます。さらに、「健康課題の解決」も、当社グループの中長期的な成長に向けた重要なテーマと位置づけています。当社の研究・開発力を活用し、生活者の健康課題解決に貢献することで、社会価値の創出とともに、事業成長による収益向上という経済価値の創出にもつなげていきます。

グループ全体の展開については、従来から、世界のグループ企業が集まり、サステナビリティ課題を含む様々なテーマについて活発に議論を交わす、「ニッスイグローバルリンクス(NGLC:Nissui Global Links Conference)」を年2回開催しています。今年度はこの取り組みの新しいシンボルマークを制定しました。これにより、グローバルレベルでのミッション、ビジョンへの共感と一体感を高め、サステナビリティへの取り組みをさらに推進していく方針です。

 

 

——読者(欧米の水産業界関係者)に向けてメッセージをお願いします。

おいしさや健康、環境への配慮やサステナブルな未来など、人々が食に求めるものは多様化していますが、私たちは様々な「食」の新しい可能性を追求し、「心と体を豊かにする新しい食」や「社会課題を解決する新しい食」を創造しグローバルに展開する「リーディングカンパニー」を目指していきます。
ニッスイグループの成長とサステナブルな未来の実現には、世界中のステークホルダーの皆様との協働が不可欠ですので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

SeafoodSourceの記事: Nissui President and CEO Shingo Hamada diversifying his company’s sustainability approach

 

「Japan: How Sustainability and Changing Markets are Impacting Seafood Production」シリーズ
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