ASC認証年次レポートで振り返る、サステナブル・シーフードの広がり

ASC認証年次レポートで振り返る、サステナブル・シーフードの広がり

責任ある養殖水産業に対する認証、ASC認証を運営するASC(養殖管理協議会)では活動報告をまとめた年次レポートを昨年から発行しています。2023年4月に発行された、2021年度のレポートの重要なポイントや、日本でのASC認証の普及の状況や今後の展望などについてASCジャパンゼネラルマネージャーの山本光治さんに執筆いただきました。

 

世界全体で認証養殖場は2割増 養殖サーモンの約半数はASC認証に

2021年、ASCで認証された養殖場の数は前年から世界全体で20%増加し、ASC基準の社会的・環境的持続可能性の要件を満たす水産物の世界生産量が250万トンを超えました。特にノルウェーとチリ(それぞれ80万トン以上のサーモン)、ベトナム(20万トン以上のエビ)、エクアドル(12万トン以上のエビ)がASC認証製品への需要増加に貢献しました。

特にASCサケの生産量は世界で養殖されるサーモンの半分を超える生産量となりました。チリのASC認証サーモンの伸びは、米国市場におけるASC認証水産物の需要増に対応したものであり、主要なエビ生産国であるエクアドルとインドの伸びは、米国と欧州市場の両方からの需要に牽引されたものでした。

英国およびフランス市場向けのスコットランドのサーモンなど、他の生産国でも主要魚種の成長が続いています。新型コロナウィルスの感染拡大の際に経験した物流・輸送上の課題を受けて、それぞれの国で認証水産物の自給率拡大への関心が高まりました。これは、中国の二枚貝生産、韓国の海藻生産、日本の真鯛流通量などが拡大したことの背景として考えられ、後者2つは生産者がASC認証を取得してそれぞれ国内の小売店や水産企業への供給を行っています。

 

 

ASC認証製品数は前年比10%増 南欧市場でも強い需要

2021年末までに、ASC認証製品の供給量は前年比10%増となり、2万1千種類以上のASCラベル付き製品が消費者に届けられ、27万5千トン以上の製品が販売されるようになりました。

世界の小売市場は引き続き持続可能な水産物への強い需要を示しており、サーモンとエビはASCラベル付き製品重量の70%を占め、マス、スズキ、タイなど他の重要な特定のマーケットで好まれる魚種への需要も高まっています。

主要魚種の認証供給を確保するためにサプライヤーと協力することが重要課題と認識され、取り組みが集中しました。英国ではスコットランド産サーモン、米国ではチリ産サケとインドやエクアドル産エビです。これらの国の市場は、責任ある養殖水産物の継続的な需要と成長のための強い潜在力を示しています。

ASCは、ドイツ、オランダ、ベルギーのASCの主要マーケットコアでの認証製品の需要を満たせることを引き続き重要視しています。フランスでは過去3年間に急速な成長を遂げ、2019年から2021年にかけて数量が倍増したほか、イタリア、スペイン、ポルトガルなどの南欧市場でもASCラベル付き製品が強く支持されていることが確認されました。

その他の重要なアジア(中国、日本)の水産物市場において、持続可能な方法で生産された水産物の認知度は高まっており、それはASCが中国の主要な商業的大手小売業者や電子商取引との協力関係を確保したことによって実証されています。日本では、企業が国連のSDGsの取り組みを強化していることや、ESG投資に沿った取り組みを実装する手段としてラベル付き水産物を調達する潮流があります。これらの新しい市場は、ASC認証の継続的な成長と拡大のための機会を提供しています。

 

 

​​​​​日本の状況は世界の中でどう変わったか

日本を含むアジアのマーケットは著しく成長しています。具体的には日本、中国、韓国で、それぞれの国における主要な小売企業でのASC認証製品の取り扱いが増加しています。しかしまだASC認証製品が多く流通しているヨーロッパ諸国(オランダ、ドイツ、フランス)などと比較すると日本国内や中国の流通量は数分の一の規模です。eコマースなどの拡大は中国で特に盛んで、日本国内でも小売店の運営するサイトや楽天EARTH MALLなどで販売が行われています。

現在ASCとして、5年ごとに定めている中長期計画の中で、アジアでのASC認証製品を扱うマーケットの拡大に重点を置き、この地域での活動を強めていく予定です。日本、中国、韓国以外にも、シンガポール、香港やタイ、ベトナムでも認証商品の需要が小売や外資系のホテルを中心に増えています。

ただし日本をはじめとするアジア諸国はマーケット全体で消費される魚種が多い一方、現在認証の対象となっている魚種の割合が限られているため、認証水産物の取り組みや調達のコミットの度合いのみならず、食文化に起因する課題があると考えられます。

日本においては、ASC認証の取得に取り組んでいる生産者や企業が増えており(2022年12月時点で186件)、着実に広がりつつあります。日本でも、持続可能な水産業の発展が求められており、消費者の側からも、より環境に配慮した水産物の需要が高まっています。国内消費が一番多く消費されているASC認証のサケ・マスは、今後もASC認証を取得する生産者や企業が増え、消費者による持続可能な水産業の支持が高まっていくことが期待されます。

 

飼料基準の運用を開始、ブルーカーボン、トレーサビリティー強化も

ASC飼料基準は、水産養殖に対する環境と社会的影響の最大の要因の一つである、飼料とその原料の製造の持続可能性向上のため、2023年の1月から、飼料工場はASC飼料基準の認証の運用を開始しました。藻類を除く養殖生産の70%以上は飼料に依存しており、それが養殖の環境的、社会的影響を大きく左右しています。ASCは、すべての主要な飼料原料の責任ある調達を義務付けることで、サプライチェーンと原料レベルの両方の課題改善の一助となればと考えています。

また、ここ数年取り組んでいる養殖場統一基準もいよいよ終盤となり、2023年の秋には最終草案が発表される予定です。この基準の一本化により魚種基準間での取り組みの違いが統一されることに加え、新魚種や、国内でまだ対象となっていない魚種の追加が進むことが期待されています。

 

 

また昨今取り上げられることの増えたブルーカーボンへの取り組みとして、ASCは温暖化ガスのライフサイクルアナリシス(LCA)への取り組みを飼料原料から養殖、加工まで一貫して行い、将来的には製品への温暖化ガス排出表示や関連アプリによる消費者への情報の開示、およびカーボンクレジット制度への統合への取り組みを行っています。

また、CoC認証モジュールとして既存のトレーサビリティーを強化するため、2023年5月より有効となる、加工・流通過程(CoC)の追加要件を発表しました。 現在の保証システムを強化し、認証水産物の区別やラベルの付け間違え、食品の安全性、抗生物質の使用といった緊急課題に対処し、具体的な製品チェックを増やすことを目的としたものです。

今回のコラムではASCの年次報告2021年の内容を近況報告を盛り込みながらお伝えさせていただきました。年次報告書の原文もASCのウェブサイトで公開されています。こちらをご参照ください。今後ともASC認証がサステナブルシーフードの需要と供給の橋渡しをするツールとしての役割をはたせる様に活動を強化していきたいと考えております。