米バンブル・ビー社が強制労働で提訴──インドネシア漁業者の歴史的訴訟が示す調達リスク

米バンブル・ビー社が強制労働で提訴──インドネシア漁業者の歴史的訴訟が示す調達リスク

2025年3月、米大手水産加工会社バンブル・ビー・フーズ(Bumble Bee Foods、以下バンブル・ビー社)が、インドネシア人の船員らから強制労働や人身売買の被害に関する訴訟を起こされました。米国の水産企業に対して、船上での労働問題が訴えられるのは今回が初めで「歴史的な訴訟」とされています。

訴訟はカリフォルニア州の連邦裁判所に提起され、船員たちは、バンブル・ビー社が強制労働によって捕獲された水産物を輸入、販売しており、これは米国の人身売買被害者保護法(the Trafficking Victims Protection Reauthorization Act (TVPRA))に違反していると主張しています。

原告である漁業者たちは、インドネシアの遠洋漁船での乗船中、賃金未払いや過酷な労働条件、暴力、債務による束縛、食べ物を十分にもらえない、といった深刻な人権侵害を受けたと証言しています。訴訟によれば、バンブル・ビー社はこうした労働力を用いた船からの水産物を長年にわたり調達していたとされ、企業としての注意義務を怠ったことを問われています。

バンブル・ビー社は米国最大級のツナブランドであり、日本を含む国際的な市場にも広く商品を供給しています。サプライチェーン上の透明性確保と人権デューデリジェンスは国際的に重要性が高まっており、この訴訟は世界の水産業界に対し、調達先の労働環境への無関心が法的リスクをもたらすことを強く示しています。

近年、企業に対しサプライチェーン上の人権侵害に対しての取り組みを求める人権デューディリジェンスに関する法制化が欧米を中心に進展しています。とりわけ輸出入に関わる企業は、調達先の漁船における労働環境や漁獲物の追跡可能性(トレーサビリティ)を厳しく確認する体制の構築が急務です。

日本の水産流通企業にとっても他人事ではありません。バンブル・ビー社のような大手企業でさえ訴訟リスクに直面しており、仮に同様の問題が日本企業の取引先に発覚すれば、国際信用の失墜や商流の断絶につながりかねません。水産資源の持続可能性だけでなく、労働環境の健全性まで含めたサステナビリティの確保が、企業の競争力と事業継続に直結する時代が到来しています。

バンブルビー社の訴訟から学ぶ、日本企業が取るべき対応策

今回のバンブル・ビー社に対する訴訟は、水産物の調達元における人権問題が企業リスクに直結する現実を突きつけました。日本企業にとっても他人事ではなく、以下のような対応が求められます。

1. 調達先のリスク評価と労働環境の把握
まず最も重要なのは、取引先・調達元(特に遠洋漁船や海外加工場)の労働環境が国際基準に適合しているかを事前に調査・評価することです。現地訪問や第三者監査だけでなく、NGOや国際機関の報告書、現地メディア情報を活用することも有効です。

2. サプライチェーンのトレーサビリティ強化
どの船で、どこで、どのように漁獲・加工されたかを遡れる仕組みがなければ、問題が発覚しても企業は責任逃れできません。製品単位でのトレーサビリティ構築が不可欠です。

3. 企業としての人権方針の整備と公開
人権に配慮した企業活動を明文化した人権方針や調達方針の策定と公開が必要です。方針は国際的な枠組み(たとえば国連「ビジネスと人権に関する指導原則」)に準拠することが望ましく、その対象はサプライチェーンまでカバーされていることが重要です。また、自社の方針についてはサプライヤーにも丁寧に共有し、必要に応じて順守を求める契約や覚書の導入が効果的です。

4. 苦情処理・通報窓口の設置
現場の労働者が問題を匿名で報告できるようなグリーバンス・メカニズム(苦情申立制度)
を整備しておくことは言うまでもありません。

5.是正・救済措置
通報された内容には迅速かつ誠実に対応する体制を構築することが必要です。賃金の未払いや暴力など労働者の権利侵害があれば、直ちに適切な救済措置を実施したり、その行為を止めるなどの是正を行うと同時に再発防止策を整えます。

6. NGO・専門団体との協働
現地の実態把握や監査が難しい場合は、労働問題に詳しいNGOや第三者認証機関との連携も有効です。外部の視点を入れることで、企業だけでは見逃しがちなリスクを早期に把握することができます。

まとめ

水産物は自然資源であると同時に「人が獲り、育て、加工する」産物です。よって環境と人権の両方に配慮する責任が企業にあります。米国やEUでは、強制労働が疑われる製品の輸入禁止措置が強化されており、サプライチェーン全体での人権リスク対応が今後ますます国際取引の前提条件となっていきます。

日本の水産流通企業も、「知らなかった」「関係ない」では済まされない時代に入っています。信頼される取引先となるために、今こそ、調達システムの見直しと人権デューディリジェンス対応体制の構築を進めるべきでしょう。

(参考)
インドネシア漁業者による訴状はこちら

 

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