垣根を越えた展開で国際認証の認知を高め、サステナビリティの実現へ (後編)

垣根を越えた展開で国際認証の認知を高め、サステナビリティの実現へ (後編)

サステナブル・ラベル(国際認証ラベル)の普及啓発のために、事業者、一般消費者、行政などあらゆる方面への働きかけを行なっている日本サステナブル・ラベル協会(JSL)。

ですが日本では、サステナブル・ラベルの中で水産エコラベルの認知度が低く、JSLの2020年の調査ではMSCは13.8%、ASCは9.1%の人しかラベルを見たことがないという結果になりました。

水産エコラベルの認知度を上げるためにできることとは。JSL代表理事の山口 真奈美さんにお話を伺いました。

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まだ認知が低く、取得も難しい水産エコラベル

——国際認証ラベルの中で、MSCやASC認証などの水産エコラベルの特徴は何でしょうか。

オーガニックやフェアトレードなどはおしゃれなイメージがあり、若い世代の女性がライフスタイルとして取り入れている傾向があるように感じられます。その点、MSCやASC認証などの水産ラベルは、まだまだ認知がされていないと言えるのではないでしょうか。

水産エコラベルは、食という大事な要素、その中でも日本人にとって非常に身近な魚に関わるものです。ですがその背景にある環境や社会的な課題、資源の枯渇や人権問題などが消費者には見えづらいかもしれません。その重要性を消費者に訴えれば、より広く取り入れられていくようになると思っています。

——事業者にとっては水産エコラベルはどんな利点がありますか。

MSCやASC認証は、国際社会で水産業に求められている管理体制などについて、参考にできる内容が多く含まれていると思います。

実際にMSCやASC認証の審査を受けるには、多くのデータやエビデンスをそろえなければならず、認証を取得するまでのハードルは高いです。ですがその分、認証のスキームオーナー(認証基準を含め認証スキームの管理運営を行う組織)が審査の準備に向けて必要なプロセスや情報提供もしていますので、段階を追って取得へ進めるのは良い点ではないでしょうか。

ポジティブな発信をすることで消費者を取り込む

——水産エコラベルを浸透させるため、水産業者はどのような取り組みを行えばいいのでしょうか。

水産エコラベルをすでに取得している事業者には、積極的に広報や販売ルートを拡大してもらいたいと思います。そして、水産物の取扱いに直接関与しない事業者も、積極的に認証ラベル付きのものを使い、その背景を明るく発信してもらいたいですね。そうすることで、消費者も前向きに取り入れていくようになると思います。

また、漁業や養殖、流通を含め、水産に関わるあらゆる事業者が皆で認証について学ぶ機会が増えていくと良いと思います。日本だけでは気づかなかった視点や、皆が協力して改善していけることもあるはずです。

行政も水産エコラベル付きのものを積極的に扱っていくことを調達方針として打ち出していく必要があると思います。日本の消費者は国産のものを良しとする意識が強いので、そのバランスをとりながら広めていく努力が求められます。

認証を取得した事業者の商品が積極的に選ばれるような仕組みづくりも求められます。日本の事業者の声を取り入れながら、認証制度自体も改正されていく必要があると考えています。

 


東京サステナブルシーフード・シンポジウム(現サミット) 2019でも、水産エコラベルの人気の低さが議題となった

 

——日本での水産エコラベルの認知度の低さは、どういった原因があるのでしょうか。

 

こちらは2020年に行なった調査の結果で、MSC・ASC認証の認知度は高くありません。

一方、有機JASの認知度が高いのは、農林水産省が法制度化していて、オーガニックや有機を掲げて農産物を売るときには有機JASをとらなければいけないという決まりがあるからと考えられます。必然的に有機JASのラベル付き製品が小売店に当たり前に並び、消費者が目にすることも多いはずです。

レインフォレスト・アライアンス認証のカエルのマークも、コンビニやファミレスのドリンクバーなどで目にする機会があります。FSC認証は食べ物の包装のほかティッシュなど幅広い商品に使われていますので、こちらも目にする機会が多いでしょう。国際フェアトレード認証ラベルは学校教育の中で扱われることも多く、内容までよく知っている割合も高いです。

こちらのグラフは2年前のもので、当時はMSCやASC認証のラベルが付いたものが少なかったですが、今はファストフード店の商品にも付いているものがありますし、消費者が目にする機会は増えているはずです。ですのでこの数字も変わってくるかもしれません。

業界の垣根をこえた連携が認知向上につながる

——水産エコラベルの認知度をさらに高めるためにできることは何でしょうか。

水産エコラベルは、それによって何が改善されているのか、食べておいしいのか、何が良いのかというのを伝えるのが難しいかもしれません。また、サプライチェーン上でCoC認証の取得のチェーンがつながらず、MSCやASC認証のラベルをつけて商品を販売できないというパターンもあります。MSCやASC認証の意義を消費者にどう伝えていくかということを考える必要があります。

国際認証ラベルはそれぞれに掲げている基準や求めている世界がありますが、サステナビリティという共通の視点を持っています。ですので、農産物は有機JASのものを選んでいるので、水産物もMSCやASCのラベル付きのものを選ぼうというふうに、一つの認証ラベルから他の認証ラベルへ消費者の興味が広がる可能性も十分にあります。

ですので国際認証自体も、農業は農業だけ、水産は水産だけ、林業は林業だけというふうに縦割りで動くのではなく、業界の垣根を超えた横展開をもっと積極的にしていくべきだと考えています。

——今後の活動予定や展望についてお聞かせください。

JSLでは、農林水産業や繊維業などさまざまな分野の事業者や、消費・教育などあらゆる立場の方と連携する機会が多いので、水産業におけるサステナビリティの推進について、業界の垣根を越えた連携を行いたいと思っています。

今後の活動としては、国際認証ラベルの勉強会を今後も行なっていきます。これまでも世代を超えた国際認証フォーラムを開催し、2年前には一般の消費者向けに「サステナブル・ライフスタイル宣言2020」シンポジウムも開催したのですが、今年度も多くの方々に国際認証ラベルについて知ってもらうイベントを開きたいですね。

 


エコプロ2021特設ステージ「持続可能な調達とサステナブル・ラベル(国際認証)の活用」にて

 

そのほかにも、事業者や各認証のスキームオーナーと連携をとりながら、エシカル消費や国際認証についての発信をサポートし、認知を広めるための企画を行なっていきます。

1つの組織でやろうとすると大変なことも、業界の垣根を越えて連携すれば成し遂げられるはずです。食事の中には野菜も魚もありますし、1日の生活の中でも朝起きてから寝るまでの間に選ぶものは多岐に渡っています。それらは決して縦割りになっているわけではなく、つながっているのが私たちのライフスタイルです。ですので事業者も業界の垣根を越えて連携し、共に普及啓発を含めた活動をして行けたらと思っています。

そして、認証の背景にあるストーリーを伝えることで、今直面している課題解決とサステナブルな社会に向けた実践の機会を、多くの方と増やしていければ幸いです。

 

山口 真奈美(やまぐち まなみ)
SDGs、CSR、国際認証に関するコンサルティング、プロデュース、教育研修などのほか、国際認証の普及啓発、エシカル消費の推進、環境ビジネスやオーガニック等の普及に努める。(一社)日本サステナブル・ラベル協会 代表理事、(一社)日本エシカル推進協議会 副会長、他、環境やオーガニック関連団体の理事等、兼任。
https://jsl.life

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。