4月13日に開幕し、10月13日まで開催されるEXPO 2025 大阪・関西万博。その中に注目すべき民間パビリオン「ブルーオーシャン・ドーム(BLUE OCEAN DOME)」があります。テーマは「海の蘇生」。海洋資源の持続的活用と海洋生態系の保護を掲げ、環境保護の考え方を学べるパビリオンです。
シーフードレガシーも9月29日から10月5日の間、このブルーオーシャン・ドームで選んで守る魚の未来Weekを開催します。
このパビリオンを出展し名誉館長を務めるのは、サラヤ株式会社 代表取締役社長の更家悠介さん。更家さんは2001年に特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン※を設立し、2004年からボルネオ環境保全プロジェクトを始動するなど、早くから環境・社会問題に取り組んできました。
その更家さんが、パビリオンに込めた思いとは。現地を訪れた株式会社シーフードレガシー 代表取締役社長 花岡和佳男がお話を伺います。
更家 悠介(さらや ゆうすけ)
1974年大阪大学工学部卒業。1975年カリフォルニア大学バークレー校修士課程修了。1976年サラヤ株式会社入社。工場長を経て1998年に代表取締役社長に就任し、現在に至る。1986年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンを設立し、理事長に就任。公益社団法人日本青年会議所会頭、一般財団法人地球市民財団理事長などを歴任。さらに特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン理事長のほか、特定非営利活動法人エコデザインネットワーク副理事長、大阪商工会議所常議員、公益社団法人日本食品衛生協会理事、ボルネオ保全トラスト理事、公益社団法人日本WHO協会副理事長、在大阪ウガンダ共和国名誉領事などを務める。2010年藍綬褒賞、2014年渋沢栄一賞受賞。
花岡 和佳男(はなおか わかお)
1977年山梨県生まれ。幼少時よりシンガポールで育つ。フロリダ工科大学で海洋環境学および海洋生物学を専攻した後、モルディブとマレーシアにおいて海洋環境保全事業に従事、2007年からは国際環境NGO日本支部にて、サステナブルシーフード・プロジェクトを推進した。2015年7月に独立し、株式会社シーフードレガシーを創立、CEOに就任。環境持続性および社会的責任が追求された水産物を日本を中心としたアジア全域において主流化させるためのシステムシフトを牽引している。
先見性のあるビジョンと国内外の水産業界、金融機関、政府、NGO、アカデミア、メディアなど、多様なステークホルダーをつなぐ、その卓越したリーダーシップにより、アジアの水産業界における革新的なリーダーとして注目されている。
花岡:今日はEXPO 2025 大阪・関西万博のパビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」に来ています。サラヤ株式会社 代表取締役社長、特定非営利活動法人ZERI JAPAN理事長としてこのブルーオーシャン・ドームを出展し、名誉館長を務める更家さん。このパビリオンで目指していること、伝えたいことは何ですか?
更家:サラヤはボルネオ環境保全プロジェクトにも取り組んでいますので、「ボルネオで熱帯雨林の保護をしているのに、なぜ万博では海なのか」と言われることもあります。ですが、森林だけにこだわらず、もっと視野を広げて地球全体の環境を考え、次の世代に豊かな自然を渡さなければなりません。
サラヤは「ヤシノミ洗剤」などの商品でプラスチック容器を使っていますから、リユース容器を使用した業務用商品販売ビジネスモデルの実証実験などにも参画しているのですが、リユースだけでなく、プラスチックごみによる海洋汚染も深刻な問題だと感じています。
海は漁礁の減少や海水温の上昇のほかにも、漁に使う網や浮き玉※などのゴミの問題があり、誰かがそのゴミを処理しなければ地球はサステナブルになりません。今回、プラスチック汚染などの危機からの「海の蘇生」をテーマにしたブルーオーシャン・ドームを出展することで、たくさんの方にこの問題を一緒に考えていただけたらと願っています。
花岡:海洋プラスチック問題は「誰かが取り組まなければ」と思っていても、取り組みにはお金もかかりますし、自分がその「誰か」になるのは大変なことです。更家さんの決断と行動は素晴らしいです。そもそも2001年にZERIJAPANを設立し、2004年からボルネオの熱帯雨林保全活動を始めるなど、以前から環境・社会問題に取り組んでこられましたが、企業の立場でこうした活動を展開するのにためらいはありませんでしたか?

更家:企業は、環境問題を考えるよりも利益を最大化するための経営戦略をとるのが普通かもしれません。しかし私は、ビジネスの分野でこそ環境問題の解決を目指し、そのための革新や道を見つけてそれを事業にしたいという思いがあるのです。いくつものNPOにも参加していますが、NPOは資金を確保し継続するのが大変だという一面もあります。ビジネスは順調に進めばサステナブルなものですから、上手に活用すれば社会課題の解決につながる可能性も高いと考えています。
花岡:ビジネスの分野で環境問題の解決を目指す。その思いを抱くようになった更家さんのルーツはどこにあるのですか?
更家:私は三重県熊野市の出身で、熊野は水が綺麗なんです。ですから、子供の頃に鮎や鰻を獲るのが大好きでした。しかしその後、近くにダムができて故郷の川は汚れてしまいました。1960年代に入ると、石油系合成洗剤で河川や湖が汚染されるという問題も起きました。

そんな中、1952年から続くサラヤ株式会社は、植物油を使った安全な石鹸や洗剤を取り扱っていて、学校などで使っていただいていました。その評判が主婦の方に広がって「手が荒れない洗剤を分けてくれ」と言われるようになり、「これは売れる」と一般市場に出したのがヤシノミ洗剤です。会社の原点はそこにありますし、私の原点は、川や海、水が好きだということ。サラヤのレガシーはそういうところにあるんです。
花岡:先ほど「NPOは資金を確保し継続するのが大変だ」というお話がありました。たしかに日本ではNPOは資金集めが難しく発言力も弱いです。日本でNPOなどの市民社会組織を成長させていくためには何をすべきだと思われますか?
更家:ひとつ参考になりそうな取り組みとして、サラヤはヤシノミ洗剤をはじめとする商品の売り上げの1%をボルネオ環境保全活動に寄付しています。この活動は20年以上続けていて、集まった寄付で森を再生したりゾウを保護したりという活動の成果を皆様にご報告しています。それをご覧になり「この活動に少しでも参加したい」と商品をお買い上げいただいた方のお金を、私たちがお預かりして寄付しているのです。これは消費者に寄付活動にご参加いただくというモデルで、このように市民社会組織を支える方法はいろいろ考えられると思いますよ。

花岡:ありがとうございます。話を万博に戻して、ブルーオーシャン・ドームの反響はいかがですか?
更家:毎日6千人もの方がこのパビリオンを訪れてくださっています。皆さん興味深く見てくださり、「感激しました」「良かった」「映像が綺麗ね」などのお言葉をいただき嬉しい限りです。
花岡:ブルーオーシャン・ドームはA・B・Cの3つのドームに別れていて、AからBへ移動する通路内のビデオで「2050年、プラスチック量が魚を上回るかもしれない」というメッセージが流れます。普段から海の環境に関する取り組みをしている私たちは知っていることですが、知らない方にはショッキングなメッセージですよね。

更家:そうですね。特に長崎県の対馬市はプラスチックごみによる海や海岸の汚染が深刻なのですが、知っている方は少ないのではないでしょうか。マスコミでさえ知らない方が多いですから。
Part 2では、海の現状を知ってもらうためのパビリオンでの具体的な取り組みや、更家さんのその他の活動、TSSSが掲げる「2030年までにサステナブル・シーフードを主流に」を実現するためのヒントなどについて語り合います。
取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報WEBサイト・医療書籍など、あらゆる媒体で執筆を行う。
KEY WORD
水産分野の専門用語や重要概念を解説。社内説明やプレゼンにも便利です。