小規模漁業を取り巻く現状と取り組みから、今後の課題を探る

小規模漁業を取り巻く現状と取り組みから、今後の課題を探る

 

パネリスト
株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長 津田 祐樹
UMINEKOサステナビリティ研究所 代表 粂井 真
古野電気株式会社 舶用機器事業部 DX推進部 水産DX推進課 課長 狭間 拓人
笹川平和財団 上席研究員 小林 正典
インターナショナル・ポール・アンド・ライン・ファウンデーション(IPNLF) 専務取締役 マーティン・パーベス

モデレーター
株式会社シーフードレガシー 創立者 / 代表取締役社長 花岡 和佳男

 

東・東南アジアで、食料安全保障や地域経済維持の観点から小規模漁業の重要性が高まる一方、その脆弱性が課題になっています。小規模漁業の持続可能性、さらにはその特長である多様性をいかに高めていくか。デジタルトランスフォーメーション(DX)とサステナブルファイナンスの活用を含め、小規模漁業と地域社会を活性化させるための道筋を考えなければなりません。

「サステナブルシーフード・サミットin 大阪(TSSS2025)」で行われたパネルディスカッション「小規模漁業の未来を描くーDXとサステナブル金融の力」では、小規模漁業の現場に関わる5名の方をお招きしてパネルディスカッションを実施。

それぞれの活動を発表し、日本の小規模漁業の現在と、次の世代への継承に向けた課題への取り組み方について議論しました

ステークホルダーを広く募る「水産未来サミット」で、海の問題に挑む

フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの津田祐樹さん

フィッシャーマン・ジャパンは、海洋環境保全、資源管理の推進、IUU漁業(違法・無報告・無規制)の撲滅を漁業現場の最重要課題と捉え、それらの解決のためにさまざまな活動を行ってきました。しかし、これらの大きな課題に対して自分たちの力だけでは解決できないと感じ、地域・漁法・業界・過去のしがらみを越えて解決に向かうために、2024年から年に1度、「水産未来サミット」を開催しています。

フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの津田祐樹さんは、2025年の鹿児島での第2回開催では、キーノートスピーチや地元小学生による水産振興の取り組みの発表、パネルディスカッションのほか、第1回開催で発足したプロジェクトの成果発表や、来場者によるテーマ別ディスカッションなどが行われたことを報告。水産未来サミットは漁業者が声をあげることのできる場として評価され、「第6回 ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」のコラボレーション部門でチャンピオンを受賞。第3回は2026年3月、能登での開催が予定されています(詳しくはこちら)。

チャタムフィッシュの議論から見える、緊急対策と中長期対策

UMINEKOサステナビリティ研究所 代表 粂井 真さん

UMINEKOサステナビリティ研究所は、漁業関係者や行政、金融、研究者、環境団体、メディアなどが水産資源の回復と持続可能な水産業について匿名で議論するフォーラム「チャタムフィッシュ」の事務局を務めています。周辺の海面水温上昇による漁場の変化や魚の再生産への影響などが見られる中、チャタムフィッシュでは、リアルタイムのデータ収集とモニタリング、データ評価の精度を上げるための調査予算増加と分析体制強化などが緊急対策として挙げられました。

中長期対策としては、変化に対応した生産体制の構築が挙げられました。漁獲量の減少に合わせた減船や協業化の推進、操業の転換などが必要であり、沿岸漁業でも日本各地の複数の漁場・漁法で操業できる資本力を持たなければならないという意見も寄せられています。UMINEKOサステナビリティ研究所の粂井真さんは、「各地域で幅広いステークホルダーと漁業者による議論の場を増やし、人の知恵を生かすことが、生き残りのカギになる」と述べました。

海の再生に向けたリアルタイムのデータ収集・分析を実現する、最先端技術

古野電気株式会社 舶用機器事業部 DX推進部 水産DX推進課 課長 狭間 拓人さん

緊急課題としてリアルタイムのデータ収集・分析が挙げられる中、古野電気株式会社は、クラウドで水産現場のデータを共有・分析・監視し、研究機関と協力して漁場改善のために活用する取り組みをしています。その中でも漁船漁業では、魚群探知機やGPS、水温計など、各漁船に従来から搭載されている計器から得られたデータをクラウドに集め、漁船間でリアルタイムに共有することで、操業の探索効率を上げたり、後進の育成に活用することができます。古野電気の狭間拓人さんは、「地域内でデータを共有し、現場で漁場分析に活用することも期待される」と述べました。

定置網漁では、箱網に入れるブイに魚群探知機や水温計、GPS、通信デバイス、バッテリーを内蔵することで、集められたデータを急潮を察知し危険な操業を回避したり、魚種を推定してあらかじめ配送手配をするなど、操業コストの課題を解決することもできます。

海外小規模漁業者の実情と、国内小規模漁業者の社会協働

笹川平和財団 上席研究員 小林 正典さん

笹川平和財団は、持続可能なブルーエコノミーの推進に資する制作を提言する立場から、海洋生物資源減少、保全や持続可能な利用に関する議論を重ね、国内外の事例の調査や政策対話を行っています。笹川平和財団の小林正典さんは、その中でも日本の取り組みで世界の注目を集めた例として、牡蠣殻を利用した人工漁礁、異業種間連携によるサンゴの再生、磯焼け対策として除去したウニをキャベツで畜養・販売など漁業者・ボランティア・民間企業・行政が連携して資源活用を目指している事例を紹介。「地域に密着した社会協働の取り組みが形になりつつる」と話しました。

一方、海外では、漁業資源をめぐる地元水産会社と小規模漁業者の間での資源配分や気候変動の影響、乱獲防止やや品質管理などの課題、また、パキスタンの漁網規制の履行確保の課題など、小規模漁業者も含め長期的な漁業関係者の利益確保に向けた施策の構築と実施の必要性が見られます。本来は漁業立国である南アフリカやナミビアで、漁獲量が減少・低迷し水産物輸入が増えている現状を評価し、対応を検討する課題もあります。そこで笹川平和財団は、ブルーエコノミーのためのリーダー育成プログラムなどについてフィリピンや南アフリカの大学と連携して議論を行っています。

小規模漁業に求められる、近代化のための技術導入

(IPNLF) 専務取締役 マーティン・パーベスさん

インターナショナル・ポール・アンド・ライン・ファウンデーション (以下IPNLF)は、漁業者、市民、企業、各国政府と連携し、一本釣りと手釣りのマグロ漁の持続可能性向上を目指す組織です。IPNLFのマーティン・パーベスさんは、「まず取り組むべき問題は、乱獲や過剰な漁業を助長し、海洋保全を阻害する有害な漁業補助金だ」と指摘。「こういった補助金の多くが大規模漁業に充てられ、世界の小規模漁業を圧迫している。そうではなく、小規模漁業の近代化や漁業者の能力構築、環境負荷の低い漁法の奨励に補助金を活用すべだ」と強調しました。

また、「小規模漁業は、製氷機に太陽光発電を使うなど、再生可能エネルギーを活用して収入増を目指すこともできる。負担の少ない低コストの電子モニタリングシステムの導入も、サプライチェーン全体で考えなければならない。データ収集・分析の分野でAIを活用し、漁業効率の向上や技術革新につなげることも求められる」。「財政的に厳しい小規模事業者の取り組みに融資する金融機関の動きも重要だ。水産事業に関わるステークホルダーが全体で協力して、小規模漁業者が新しい技術を取り入れやすい環境を整え、小規模漁業者が取り残されないようにしなければならない」と話しました。

ディスカッション:小規模漁業者への技術導入の障壁と打開策

ディスカッション:小規模漁業者への技術導入の障壁と打開策

ここまでの発表を受けてシーフードレガシーの花岡和佳男が、実際の漁業現場にどのようにして新しい技術を取り入れるべきか質問しました。これに対し津田さんは、「特にリアルタイムのデータ収集は必要だと思うが、漁師の皆さんにデータ取ってもらい、そのデータをリアルタイムに提供してもらうには、補助金の補助率のアップするなどの何らかのインセンティブ、もしくは義務化などの仕組みづくりが必要だと思われる」と答え、漁師の間でも仕組みやルールを求める声が実際にあることを紹介しました。

粂井さんは、漁業はたんぱく質の供給に留まらず環境保全の役割を期待されるなど公益性が高まっている仕事であることから、「政府の補助金を受けている漁業者はデータの共有を義務化する」という仕組みを提案しました。狭間さんは、「若い漁業者の間ではデータ共有の意識が一般的になりつつある。このような意識の変化が今後さらに加速されることを期待したい」と述べました。

小林さんは、小規模漁業者はデータ収集の設備等を導入する金銭的・人的資源が不足していること、データ収集により資源量と収益の回復をどのように漁業者に対して示していけるかという課題もあることを指摘。また、「同じ沿岸域でも異なる魚種を漁獲する漁業者の間に漁獲量や収益に差が生じているため、漁業者全体で漁獲量や収益を増やしていてく仕組みを外部専門家も交えて考えることが有用だ」と述べました。

マーティンさんは、「データは小規模漁業者に競争優位性をもたらすものであり、共有を拒むケースは多い」と指摘。一方で、「大規模漁業ではデータの共有と技術革新が進んでいるため、両者のギャップを埋めなければならない」と話しました。また、「データはより多く獲るためではなく、資源管理のために使われなければならない」と指摘しました。

小規模・沿岸漁業の重要性を改めて確認しつつ、今後の変革に向けたDXやデータ共有に向けた課題を議論することができました。

 

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