マルハニチロ(株) 代表取締役社長 池見 賢
(株)シーフードレガシー 代表取締役社長 花岡 和佳男
2026年3月、マルハニチロ株式会社が「Umios株式会社」に社名変更します。漁業をルーツに145年を超える歴史を持ち、日本の水産のリーダーとして業界を牽引してきたマルハニチロ。社名変更によってどう変わり、どのような世界を目指していくのでしょうか。
2026年の年初に当たり、マルハニチロ株式会社 代表取締役社長の池見 賢さんと、株式会社シーフードレガシー 代表取締役社長 花岡 和佳男が対談。「Umios」という社名にこめた思いや、水産の課題の一つである資源管理への考え方・取り組みなどについて伺いました。
池見 賢(いけみ まさる)
1957年生まれ、兵庫県出身。1981年3月京都大学農学部水産学科卒業後、同年4月に大洋漁業(現マルハニチロ)入社。2008年マルハニチロ食品海外部長、2009年マルハニチロホールディングス海外業務部部長役を経て、2011年4月同社執行役員に就任。2014年4月マルハニチロ執行役員、2014年6月同社取締役、2017年4月同社常務執行役員、2017年6月同社取締役(現)、2019年4月同社専務執行役員を歴任し、2020年4月同社代表取締役社長に就任。
花岡和佳男(はなおか わかお)
1977年山梨県生まれ。幼少時よりシンガポールで育つ。フロリダ工科大学海洋環境学・海洋生物学部卒業後、モルディブ及びマレーシアにて海洋環境保全事業に従事。2007年より大手国際環境NGOの日本支部で海洋生態系担当、キャンペーンマネージャーなどを経て独立。2015年7月株式会社シーフードレガシーを設立、代表取締役社長に就任。環境持続性および社会的責任が追求された水産物を日本を中心としたアジア全域において主流化させるためのシステムシフトを牽引している。
花岡:
今年3月、いよいよ社名をマルハニチロから「Umios(ウミオス)」に変更されます。社内外に対して大きなメッセージとなるニュースだと思いますが、改めて、社名に込めた思いをお聞かせください。
池見:
マルハニチロはマルハとニチロの2つの会社が経営統合して生まれた企業です。マルハの前身は大洋漁業、ニチロの前身は日魯漁業で、私たちは水産事業を中心として145年を超える歴史を歩んできました。マルハニチロの名前を変えることは大変勇気のいる決断でしたが、これからの日本の水産業を見据え、その中で企業価値を高めるためには、社名を変えるほどの変革が必要だと考えたのです。
「Umi」は私たちのルーツでありDNAである「海」を起点に、価値を生み出していくという思いを込めています。「o」は「one」の頭文字。社内外のステークホルダーや社会、地球と一体(one)となっていくという私たちの思想を表しています。そして、「s」は「solutions」の頭文字で、食を通じて地球規模の社会課題を解決(solutions)していく決意を込めています。
高タンパク・低脂質である水産物は世界的に評価され、消費量が増加しており、私たちにとってはチャンスとも言える状況です。一方で、現在、天然の水産物は気候変動をはじめとした様々な要因により漁獲量が低下していますし、日本での消費量も減少しています。そんな今こそ、私たちは食を通じて人と地球の未来をよりよくするために、地球規模の社会課題に挑むソリューション型の企業に生まれ変わらなければなりません。この想いを社名に込めました。

花岡:
社名変更は、145年の歴史の中でも大きな変革ですね。社内の理解を得るのも大変だったのではないでしょうか。
池見:
昨年から時間をかけて、約50ある国内の当社の拠点全てを回り、社員と顔を合わせて話をしました。統合企業として、これまでは各社の強みを伸ばすために足し算をしてきましたが、これからの時代は掛け算をしていかなければならない。その変革のきっかけとして社名を変え、本社を移転してアイデンティティを変えることに理解を求めました。すると、現状になんとなく違和感を覚えたり、どうすれば面白いことができるかプレゼンをしてくれる社員もいて、「今ならできる」と感じました。社名変更は、もっと挑戦ができる環境に移って、変化の激しいこの世の中を乗り切るために、自分たちが変わるのだという意思表明なのです。
花岡:
十数年前、日本は世界から「魚を乱暴に獲り過ぎ、食べ過ぎだ」と言われていました。その後、御社のリーダーシップのもと、サステナビリティの考え方が日本の水産業界にも浸透してきました。そして今、世界最大規模の水産グループの中枢であられる御社がソリューション型の企業へと変革する意思を表明されることは、国内外の業界にとって強力な指針になりますね。海外のパートナー企業からはどのような反応がありましたか?
池見:
海外の方が反応が良く、「おめでとう」と評価してくれました。私たちの覚悟を喜んでくれたのですが、むしろ以前から「親会社としてもっとアピールしてほしい」という思いがあったのだろうと私は解釈しています。海外のグループ企業にとっても、そして投資家にとっても、私たちが何を目指す会社なのか見えにくくなっていたのかもしれません。今回の社名変更で「方向性を整理してくれてありがとう」といったところではないでしょうか。

花岡:
新しい社名には「食を通じて地球規模の社会課題を解決(solutions)していく」という決意を込めているとのことですが、世界の水産には気候変動や、過剰漁業、IUU(違法・無報告・無規制)漁業、現代奴隷、サプライチェーンの構築などさまざまな課題があります。それらをどうやって解決していこうと考えていますか?
池見:
私たちは、「生物多様性と生態系の保全」「事業活動における人権の尊重」「持続可能なサプライチェーンの構築」など、サステナビリティ分野で9つの重点課題(マテリアリティ)を特定し、KGI(重要目標達成指標)を設けて取り組んでいます。私たち一社の努力だけではなしえない目標でもあり、ステークホルダーの皆さんと共創しながら地道に取り組みを継続していくしかないと考えています。
水産資源の減少も大きな問題です。これを解決するためには科学的根拠に基づく資源管理をすることが大切で、世界を見ても資源管理ができているところは事業が継続し、漁業者も適正な報酬を得ていて、成長産業として成立しています。それが世の中に浸透していかなければならないのですが、いざ足元の日本を見てみると、科学的根拠に基づく資源調査・資源管理が十分にできているとは言えません。さすがにここのところ国内でも危機感が高まってきて、水産企業の間でも対話ができるようになりましたし、政府も提言を受けいれてくれています。

民間企業1社でできることは限られていますが、現在は独自で電子トレーサビリティシステム導入を目指して実証実験を行い、第三者評価による水産資源調査も実施しています。世界的にはトレーサビリティがない水産物は売れないところも多いですから、そういったところに付加価値をつけて商品を輸出すれば、小規模沿岸漁業も含めた漁業者への報酬も増やすことができる。成功事例を増やすことが最初の一歩になると思います。ひいてはこれが地方創生につながるような事業モデルも広がるといいですね。

昨年はニッスイの浜田晋吾社長(現会長)、水産庁の森健長官(当時)と会談し、自民党の水産部会ともお話ししました。そしてその後「漁業強靭化計画」が策定されました。養殖や流通の内容が含まれておらずまだ不十分ではありますが、調査研究費についても触れられていて、こちらもやっと一歩を踏み出したと感じています。
花岡:
資源管理をして過剰漁業を改善することをビジネスにつなげるというソリューションカンパニーとしての御社の姿勢は、衰退しつつある日本の水産業に対しても、極めて強い方向性を示すことになりますね。

池見:
私たちの一番の目的は企業価値を上げることです。目先の損得ではなく、次の100年も元気に存続できれば、それに越したことはありません。消費者が私たちの商品を見て、「この会社のものなら安心して買える」と思っていただければそれでいいのです。
花岡:
御社のロゴが付いていれば安心して手に取れる。そんな将来が理想ですね。
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後編では、養殖への取り組みや、マルハニチロにも参画いただいているシーフードレガシーの「責任ある水産物調達ラウンドテーブル(JRSR)」、それぞれの今後の展望などについて語り合います。
取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。ライフスタイル、飲食、医療などあらゆる分野で執筆を行う。
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