IUU(違法・無報告・無規制、Illegal, Unreported and Unregulated)漁業
サステナビリティとは環境、社会、経済がバランス良く成り立っている状態のことです。これを水産業で考えてみると、海の環境や生態系が健全な状態であり、水産業に関わる地域や人々の生活が守られ、それにより経済が持続的に発展することを意味します。しかし、これを妨げているものがあります。
それがIUU(違法・無報告・無規制、Illegal, Unreported and Unregulated)漁業です。
IUU漁業と聞くと「違法な漁業」と捉えられがちですが、「違法」以外の意味も含まれています。IUU漁業はIUU 漁業を防止、抑止、排除するための国際行動計画(IPOA-IUU、International Plan of Action to Prevent, Deter and Eliminate Illegal, Unreported, Unregulated Fishing)により定義されています。それをまとめると以下のようになります。
違法:国家や漁業管理機関の許可なく、または国内法や国際法に違反して操業している
無報告:法令や規則に反して、操業時の活動やデータ(漁獲量など)を報告しない、あるいは虚偽の報告をしたり、誤った報告をする
無規制:無国籍またはその海域の漁業管理機関に加盟していない船舶が、規制または海洋資源保全の国際法に従わずに操業している
*IUU漁業対策フォーラム「IUU漁業とは」のページを元に加筆
IUU漁業の問題点とは
IUU漁業はどのような問題を引き起こしているのでしょうか?
1. 水産資源や生物多様性の減少
決められた漁場、漁具や漁期を守らず、決められた量以上に漁獲したり、絶滅危惧種も混獲してしまうIUU漁業は、水産資源の枯渇や生物多様性保全を脅かしています。FAO(国連食糧農業期間)*1によると世界の海の水産資源量は、1974年から減少傾向にあり、90%が持続可能な状態でしたが、2017年には65.8%まで減少しました。その内訳を見ると、59.2%が持続可能な量ギリギリまで漁獲している状態で、漁獲量の余裕があるのは6.2%しかありません。IUU漁業はこのような水産資源に追い討ちをかけています。
2. 適切な資源管理の妨害
操業結果を報告し、データを蓄積することは、資源管理の基本です。報告をしない、虚偽の報告をする、となれば、その前提が崩れ、精確な資源管理ができなくなり、海洋資源の枯渇につながりかねません。例えばニホンウナギの稚魚、シラスウナギは許可証を持っている漁業者が採捕した量を都道府県に報告することになっていますが、2020年度は36.8%が報告されていないと推定されています。
ウナギをめぐる状況と対策について(水産庁、令和3年5月)より
3. 人権侵害などの犯罪行為
IUU漁業は労働者の人権侵害などの犯罪行為が多発していることも問題です。例えば、台湾の遠洋漁船62隻のうち92%で減給、82%で長時間労働、24%の身体的暴力があったと報告されています*2。こうした例は台湾以外にも、東南アジアの国々、また、アイルランドやイギリスなどでも確認されています*3。また、2021年5月にはアメリカ合衆国税関・国境警備局が、インドネシア人の乗組員に対する暴力行為などがあったとして、中国のDalian Ocean Fishing社の所有する全漁船32隻に対して輸入を禁じました。1社が所有するすべての漁船に対する輸入規制は同国では初の事例でした*4。また、操業中、あるいは操業を装った海賊行為、麻薬や武器の密輸、人身売買などが行われていることもあります*5。
4. 漁業者の経済的損失
IUU漁業により獲られた水産物と規制を守って獲られた水産物は一旦市場に流通すれば見分けがつかないため、規制を守って操業している漁業者から公平な市場競争の機会を奪っています。その額は世界全体で年間260-500億米ドルにのぼるとされ*6、日本でも2015年に輸入された水産物のうち24-36%、1,800-2,700億円相当がIUU漁業に由来すると言われています。
違法漁業の例
“BLOOD AND WATER Human rights abuse in the global seafood industry” (Environmental Justice Foundation、2019年 p.9より)
世界各国、市場での協働が必要
水産物は世界で最も貿易量が多いコモディティの一つです*7。そして、魚には国境がありません。IUU漁業は世界各国や組織が一丸となって取り組んでいかなければ、撲滅することはできないのです。世界の水産資源を海域ごとに管理しているRFMOs(地域漁業管理機関)の保存管理措置や、2015年に国連で採択されたSDGsの目標14.4、14.6でもIUU漁業自体やそれにつながる補助金の撤廃が設定されており、各国の連携が求められています。
一方で、実際の生産現場や水産物を扱うサプライチェーンの企業による取り組みも欠かせません。