サステナブル・シーフード用語集

現代奴隷

現代奴隷とは

「奴隷」はもう過去の話ではないか、と思われる方もいるかもしれませんが、今、現代奴隷と呼ばれる状態で働かされている人が世界に約5,000万人いるとされています。
現代奴隷とはどういう状態で働かされている方を意味するのか。まずは具体的にご紹介します。

現代奴隷の定義

現代奴隷(modern slavery)とは、強制労働、強制結婚を強いられている人々を意味します。いずれも「脅迫、暴力、強制、欺瞞、権力の濫用によって、本人が拒否することも、あるいは離れることもできない搾取の状態のこと」*1を意味します。

*1 引用
「現代奴隷」、世界で5千万人に、ILO、2022/09/12

強制労働は食品や衣類、鉱物などを生産・加工する現場で発生しています。たとえば、チョコレートの原料であるカカオの生産現場や金やダイアモンド、レアメタルなどの鉱山、そして水産業においては遠洋漁業現場などが例としてあげられます。
いずれも、過酷な労働環境の中、危険な仕事を長時間強いられたり、暴力などによって脅され逃げられず、時には身体的暴力を振るわれたりといった過酷な状況で働かされています。

強制結婚は文字通り、自分の意思に反して結婚させられることを意味します。多くは女性や18歳未満の子どもで、教育機会の喪失、暴力や虐待、暴力にさらされるといった問題があります。

現代奴隷による年間の違法利益は年間2,360億米ドル(約35兆円)と推計され(2024年)、前回調査(2014年)よりも37%増加し、悪化の一途をたどっています*2。

*2 強制労働による違法利益 年間2360億ドルに, ILO, 2024/03/19

 

最新の現代奴隷数

ILO、国際人権団体ウォーク・フリー、国際移住機関(IOM)の調査によると、現代奴隷状態で働かされている人は世界に約5000万人いると推定されています*3。

そのうち、強制労働は2,800万人、強制結婚は2,200万人。前回調査(2016年)よりも1,000万人以上増加しました。その要因は新型コロナウイルスの蔓延により、経済が悪化し、貧困に陥った人が増えたためとみられています*3。

この数はかつて15-17世紀の奴隷貿易でアメリカ大陸に連行された奴隷の数よりも多いとされ、現代的な深刻な問題です。

強制労働の86%は民間部門で発生しているとされていますが、国家によるものも14%あります。特に女性、子どもは対象になりやすく、女性は約26,000人、子どもは約12,000人が現代奴隷状態にあるとされています*3。

強制結婚させられている人は約22,000人。その多くは15歳未満の子どもで、前回調査(2016年)よりも660万人増加しています*3 (5p)。

*3 Global Estimates of Modern Slavery: Forced Labour and Forced Marriage(2022)

なぜ現代奴隷が発生するのか

現代奴隷が発生する要因は何でしょうか。ここではその要因を説明します。

 

貧困、教育不足、経済格差

現代奴隷の原因には、貧困、教育不足、経済格差などの社会経済的要因が挙げられます。これらの要因は、人々がより良い生活を求める中で、詐欺的な雇用契約や強制労働に巻き込まれるリスクを高めています。

 

歴史的背景や文化的要因

歴史的背景や文化的要因も現代奴隷の一因です。地域によっては伝統的な慣習や歴史的な職業構造が労働搾取を許容する風潮を助長しています。たとえば、強制結婚の3分の2(65%)は家父長制や慣行が根強く残るアジア太平洋地域で多く発生しています*4。

*4 「現代奴隷」、世界で5千万人に、ILO、2022/09/12

 

移民の脆弱性

もう一つの注目すべき点は移民の脆弱性です。移民の多くは、教育が十分に受けられないことが多く、また貧困や失業に見舞われているため、非移民の成人労働者に比べ、現代奴隷状態になる可能性が3倍高いとされています*5。水産現場でも多くの移民が現代奴隷状態で働かされている実態が度々指摘されています。

*5 「現代奴隷」、世界で5千万人に、ILO、2022/09/12

漁業現場でどんな現代奴隷が発生しているのか

漁業現場では、船員が過酷な労働条件の下で働かされているケースが多々あります。特に東アジア地域では、低賃金で雇用された労働者が劣悪な環境で働かされた挙句、時には暴力を振るわれ、死に至った事例も報告されています。また、遠洋漁業の場合、周りは海に囲まれ逃げ場がなく、何ヶ月も港に戻らないため労働者にとっては恐怖感の中で働かざるを得ません。

日本もこうした問題に無関係ではありません。たとえば、クロマグロは世界の漁獲量の8割を日本が消費しており、その生産現場では現代奴隷状態で働かされている労働者がいることが指摘されています(後述、おすすめ記事、映画紹介参照)。

調査によると、水産業における現代奴隷の数は128,000人*6と試算されています。ただ、海上での現代奴隷状況は確認が難しいため、実際の数字はもっと多いだろうと言われています。

*6 Global Estimates of Modern Slavery: Forced Labour and Forced Marriage(2022),p33

水産における現代奴隷問題を国、企業はどう解決しようとしているか

 

各国で進む人権DD法整備(国別取り組み)

こうした状況に対し、2011年に国連から「ビジネスと人権に関する指導原則」がだされたのを皮切りに、ヨーロッパを中心に強制労働に関する情報開示を企業に義務付ける法整備が急速に進んでいます。

日本でも2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されました。

タイなど、アジア諸国でも、人権DD法制化に向けた動きは始まっており、今後も世界的に拡大していくと思われます。


企業の調達方針整備

企業もサプライチェーンにおける現代奴隷を排除するため、人権方針、調達方針を整備し、事業における人権への悪影響を特定し、予防・軽減させ、対処方法を説明する、人権デューディリジェンスに取り組む企業が増えています。

前述の通り、強制労働の86%は民間で発生していることから企業が問題の解決のために果たす役割は多大です。

企業活動における現代奴隷リスク

現代奴隷は企業にとって、さまざまなリスクをもたらします。ここではどんなリスクがあるのかご紹介します。

 

レピュテーションリスク、投資損失リスクなど

企業にとって、複雑かつ長いサプライチェーンにおいて現代奴隷を排除することは大変ではありますが、発覚した場合は、レピュテーションリスクになることはもちろん、取引や投資にストップがかかるなどのリスクをはらんでいます。

そのため、企業の場合、単発的に現代奴隷の有無を確認するのではなく、企業活動における人権への悪影響を特定し、予防・軽減させ、対処方法を説明する、人権デューディリジェンスに長期的に取り組むことが重要です。

 

水産分野における現代奴隷問題をもっと知るなら

ここでは、水産分野における現代奴隷問題について理解を深めるために役立つ記事や映画、ダウンロードできる資料をご紹介します。

 

おすすめ記事、映画紹介

現代奴隷の問題は深刻化かつ複雑ですが、解決の糸口がないわけではありません。継続的に情報を収集し、理解を深め、撲滅に取り組んでいくことが重要です。

ここでは、理解促進に役立つ記事や映画を紹介します。

 

  • なぜマグロ漁の背景で人権侵害が起きるのか ーサプライチェーンのブラックボックス化(韓国漁船の事例から)

韓国のマグロ漁船で現代奴隷状態で働かされている移民。韓国で漁獲される刺身マグロの約4割を消費する日本も決して無関係ではない。複雑なサプライチェーンの背景にある問題を浮き彫りにし、政府や輸入企業が取り組むべきことを提案している。

【前編】https://times.seafoodlegacy.com/tuna_supplychain_blackbox_1/
【後編】https://times.seafoodlegacy.com/tuna_supplychain_blackbox_2/

 

  • 【2025年新春対談】 ILOと考える人権課題:企業だからこそできる サプライチェーンへのアプローチ

国際労働機関(ILO)の田中竜介さんとシーフードレガシーの花岡和佳男との対談。企業が人権デューディリジェンスに取り組む意義、企業だからこそできることについて熱く語るインタビュー。

【前編】https://times.seafoodlegacy.com/2025_new_year_special_jp_1/
【後編】https://times.seafoodlegacy.com/2025_new_year_special_jp_2/

 

  • 水産業界はどう取り組む? もう見過ごせないサプライチェーンでの人権侵害

水産サプライチェーンにおける人権侵害の実態、企業における人権デューディリジェンスの取り組みの実践例やツールを紹介している。

https://times.seafoodlegacy.com/column_supplychain_humanrights/

 

  • 映画「ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇」

水産業における現代奴隷問題を描いたドキュメンタリー映画。被害者の救出や労働者の権利向上に取り組む、タイの労働保護ネットワークの創設者パティマ・タンプチャヤクルさんを通して実態を描く。水産業界における現代奴隷問題を知りたい方には必見の映画。
https://unitedpeople.jp/ghost/

 

  • その魚はどこから来たのか? 水産業に潜む現代奴隷を救う命懸けの旅路

映画「ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇」に登場する、タイの労働保護ネットワークの創設者パティマ・タンプチャヤクルさんのインタビュー。「この魚はどこから来たのか?」と問い続けてほしいという言葉が意味することとは。

【前編】https://times.seafoodlegacy.com/patima_tungpuchayakul_jp_1/
【後編】https://times.seafoodlegacy.com/patima_tungpuchayakul_jp_2/

 

取材協力:Panyarak Roque, Dignity in Work for All

 

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