ペルーから世界へ、養殖を支える海産原料のサプライチェーンを持続可能に(Part 1)

ペルーから世界へ、養殖を支える海産原料のサプライチェーンを持続可能に(Part 1)

世界の養殖業の急速な成長を支えるには飼料の調達が欠かせません。その飼料の原料となる魚粉や魚油などを製造する海産原料産業の持続可能性を保証するのが、魚粉工場などの基準を定めるマリントラスト認証です。 

このマリントラスト認証を運営する企業であるMarine Ingredients Certifications Limited(通称はMarinTrust、以下、マリントラスト)のCEOを務めるフランシスコ・アルドンさんに、養殖飼料における海産原料の戦略的な重要性と、マリントラスト認証が果たす役割について、お話を伺いました。

 

フランシスコ・アルドン(Francisco Aldon)

海産原料分野で15年以上の経験を持ち、2020年よりマリントラストのCEOを務める。IFFO(海産原料機構)の研究員としてIFFO RS(現マリントラスト)の初期開発段階から参画し、組織の管理・科学業務を担当してきた。海産原料のサプライチェーンにおける責任ある調達、持続可能な生産慣行、デジタルトレーサビリティに関する専門家として、GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)の監督委員会、GSSI(世界水産物持続可能性イニシアチブ)の運営委員会メンバーを務める。ペルーのラ・モリーナ国立農業大学で水産工学の学位を、クイーン・メアリー・ロンドン大学で海洋生態学および環境管理の修士号を取得。

パズルのピースがはまるように海産原料の世界へ

――一貫して海産原料の仕事に携わって来られましたが、そもそも漁業分野に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

私は、ペルーのカヤオ(Callao)の出身です。首都リマの西部に位置する、国内最大の港町です。海の近くで育ち、海洋科学に興味を持ちました。海への好奇心からですね。自然や動物への愛から始まったんです。

カヤオはペルーの輸出入の大部分を担う国内最大の港湾都市 カヤオはペルーの輸出入の大部分を担う国内最大の港湾都市

――大学で漁業工学を学ばれたのは、その延長だったのですね。

はい。私は魚が大好きです。魚を守りたい。でも食べ続けたいとも思っているんです。それが学んだ理由です。これから先の人たちのためにも魚が存在し続けるようにしたいんです。動物は大好きですが、食べるのも好きなんです(笑)

――ペルーの大学を卒業後、イギリスで学ぶことにしたのはなぜですか?

外国に行くことは、異なる考え方の枠組みを与えてくれるからです。文化的な認識、他の人々の生き方を理解することは、専門家としても人間としても、成長する上で重要です。 

それに、後に妻になったイギリス出身の彼女と一緒に行きたかったという理由もあります。大学卒業後、地元ペルーの観光業で働いていた時期がありました。英語を学んで実践するために最良の方法だったのです。そこで彼女と出会いました。 

イギリスの大学院を修了して仕事を探していたら、私の履歴書を見た人が、「あなたの履歴書、面白いね。連絡してみよう」と言ってくれたんです。そこで紹介されたのが国際魚粉魚油機構(IFFO)でした。 

当時、IFFOでは研究員を探していました。海洋生物学と漁業を学んだことがあり、海産原料の実態にも理解があり、スペイン語が話せて、特にペルーの事情に通じている人材を求めていました。 

――まさにぴったりの人材だったのですね。

ええ、パズルのピースがはまったような感じです。それで海産原料の仕事を始めることになりました。

 

養殖業を支える海産原料は戦略的に重要 

――そもそも、海産原料とは何ですか? 

海産原料というのは、海洋生物から得られる栄養価の高い天然製品のことで、魚粉と魚油があります。例えばペルーのカタクチイワシ、オキアミなどは全て魚粉と魚油をつくる目的で漁獲されます。 

養殖産業を支える海産原料(資料提供:マリントラスト)

養殖産業を支える海産原料(資料提供:マリントラスト)

海産原料のもう一つの大きな供給源は、魚の副産物です。人間が食べる魚を加工する際に出る頭、内臓、皮、ヒレといった未使用部分も魚粉や魚油の生産に使われます。マグロのような天然漁獲の副産物もあれば、サーモン、ティラピア、パンガシウスなど養殖の副産物もあります。

――魚粉と魚油について、もう少し詳しく教えてください。

魚粉は粉末で、最高のタンパク質の一つです。非常に消化しやすいからです。魚粉を与えると、魚はより早く、より良く成長します。

魚油は抽出物です。生産工場で魚を調理すると、圧搾され、固形分から魚油を含んだ液体が抽出されます。固形分は魚粉の生産に回され、抽出された液体は遠心分離機にかけられて水と魚油に分離されます。 

魚粉や魚油をつくる海産原料生産工場(写真提供:マリントラスト)

魚粉や魚油をつくる海産原料生産工場(写真提供:マリントラスト)

――なぜ海産原料が重要なのでしょうか? 

戦略的な材料だからです。魚粉と魚油の生産量の約75%は養殖に使われていますが、養殖だけでなく、ペットフード、サプリメント、化粧品にも使われます。

魚がそのままサーモンやエビの餌になると思っている人も多いのですが、飼料をつくるには、魚粉をつくり、魚油をつくり、それから包装、保管、取引へと進んでいく。そのすべてのプロセスで管理が必要なんです。 

――養殖飼料の中で、海産原料はどのくらいの割合を占めているのですか?

実は、一つのペレットには魚粉が約2〜3%含まれており、残りは主に植物性タンパク質、小麦やトウモロコシなどの穀物です。海産原料は非常に少量ですが、それは戦略なのです。海産原料はよりコストがかかり、限りのある資源でもあります。魚粉と魚油の生産量は横這いです。カタクチイワシなどの場合、主にエルニーニョ現象(*1)が4~7年ごとに周期的に起こって生産量が下がります。だから魚粉と魚油は養殖にとって非常に貴重なのです。

養殖飼料の原料となる魚粉(写真提供:マリントラスト)

養殖飼料の原料となる魚粉(写真提供:マリントラスト)

一方で養殖は拡大しています。そのため、飼料への魚粉と魚油の配合率は減少しているわけです。2000年には約20%でしたが、今は約8%まで減少しています。

(*1) エルニーニョ現象:南米沿岸など太平洋赤道域の海面水温が平年より高く、その状態が1年程度続く現象のこと。

 

代替原料は海産原料よりもサステナブルなのか

――最近は養殖飼料メーカーが、海産原料だけでなく、ブラジルの大豆など植物由来の原料も使っていると聞きます 

正直に言うと、人々がなぜ、植物性のものを使う方が魚よりもサステナブルだと言うのか、私にはわかりません。たとえば大豆の環境負荷を考えてみましょう。大豆はどれだけの土地を使うのでしょうか。育てる時にどれだけの水を使うのでしょうか。化学肥料を使うことでどれだけの生き物を殺すのでしょうか。その結果どれだけの毒物が土地に入るのでしょうか。

魚なら、大豆のような形の環境負荷はありません。さらに、今では多くの政府が漁業に関して多くの規制を設けていますし、禁漁期間を設け、魚を理解し、資源管理し、それを維持するためのテクノロジーがあります。

2025年10月、サステナブルシーフード・サミット in 大阪(TSSS2025)に 参加するため来日中のアルドンさんに大阪でインタビュー。

2025年10月、サステナブルシーフード・サミット in 大阪(TSSS2025)に
参加するため来日中のアルドンさんに大阪でインタビュー。

――ほかの代替原料もありますか?

はい。例えば、藻類オイルや昆虫ミールなどが今、注目されています。ただし、私たちはそれらを代替原料ではなく、補完的な原料と呼んでいます。その生産量は飼料メーカーが求めるレベルには達していません。そのため、海産原料を完全に置き換えることはできないのです。飼料メーカーは、昆虫ミールと魚粉があったら、魚粉を買います。魚粉や魚油が手に入らないか、非常に少ない時に、そういった原料の購入を増やすんです。

 

マリントラスト認証の誕生

――マリントラスト認証はどのようにして始まったのですか? 

15年ほど前、いくつかのNGOがサケの養殖を、海洋の生物多様性や生態系への脅威として問題視し、養殖サーモンの生産者、さらに飼料となる魚粉の生産者を対象に、改善の取り組みが始まりました。それとは別に、中国でメラミン(*2) を魚粉に混入する不正が起きたのです。海産原料産業の評判がダメージを受けました。でも、IFFOの会員である多くの魚粉生産者は、「いや、我々はちゃんとやっているので、それを示す必要がある」と主張しました。こうして、海産原料の基準を開発することになり、マリントラスト認証(旧IFFO RS)が創設されたのです。 

(*2) 見かけ上のタンパク質量を多く見せかけるために混入された。大量に摂取すると腎臓結石や腎不全を引き起こし、人体に有害があるとされる。

――どのようにして基準を作ったのですか?

IFFOが主導してサプライチェーンの様々な関係者を集めました。魚粉生産者、商社、飼料メーカー、小売業者、養殖業者、NGOなど、16人ほどが議論してIFFO RSという基準を作ったんです。

IFFOは魚粉と魚油の生産者のための会員組織ですが、内部で認証プログラムをやっているように見えてはいけないので、2014年に名称をマリントラストに変更し、認証組織として独立しました。 

――そして、マリントラスト認証を運営する会社のCEOに就任したということですね? 

そうです。運営会社の正式名称は、Marine Ingredients Certifications Limitedですが、通称はマリントラストを使っています。

――MSCやASCなど、他にも多くの認証がありますね。マリントラストはこれらの認証とどういう関係にあるのですか? 

養殖のバリューチェーンの中で、それぞれの認証プログラムが何を認証するのかを見るとわかりやすいです。たとえば、MSCは漁業を認証します。マリントラストは海産原料工場や取引など、飼料メーカーより前の段階を認証します。そして、飼料メーカーと養殖場を認証するのは、ASC、BAP、GLOBAL G.A.P.で、彼らはマリントラスト認証を認めています。

マリントラスト認証は、セクター間の架け橋(資料提供:マリントラスト)

マリントラスト認証は、セクター間の架け橋(資料提供:マリントラスト)

――お互いを認め合っているのですね。

はい、協力することは重要です。なぜなら、私たちは皆、同じ目標を持っているからです。一つの基準ではすべてをカバーできないので、カバーできない部分は協力し合わなければならないんです。 

様々なプラットフォームとの協力関係

――マリントラストはGSSI (Global Sustainable Seafood Initiative; 世界水産物持続可能性イニシアチブ)にも参加していますね。 

GSSIの下には多くの基準があります。それぞれを個別に認証するより、GSSIという一つの団体を通じて認めるほうが、認証の利便性が高まるので、マリントラストはGSSIを承認しています。 

私がGSSIの運営委員会に参加しているのは、マリントラストがGSSIとその下の基準を承認している以上、それらが継続的に改善されていることを確認する責任があるからです。 

――GSSIがマリントラストを承認しているのかと思っていましたが、逆なんですね。 

GSSIはマリントラストを承認できないのです。GSSIの対象は漁業と養殖で、マリントラストはそのどちらでもなく、魚粉工場を認証しているからです。私たちはすでにMSCを承認していますが、他のすべての認証を認めるために、戦略的にGSSIを承認しているのです。 

2025年10月に開催されたサステナブルシーフード・サミット in 大阪(TSSS2025)に登壇したフランシスコ・アルドンさん(中央)。「責任ある養殖飼料調達で拓く養殖の未来」セッションのパネリストたちと。

2025年10月に開催されたサステナブルシーフード・サミット in 大阪(TSSS2025)に登壇したフランシスコ・アルドンさん(中央)。「責任ある養殖飼料調達で拓く養殖の未来」セッションのパネリストたちと。

――GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)の監督委員会のメンバーでもいらっしゃいますね。 

GDSTは、水産物のトレーサビリティの国際標準をつくるために設立された企業間のプラットフォームです。相互運用性を持たせることを目指しています。

例えば、ペルーの漁船から魚粉工場への情報は問題なく伝わります。でもノルウェーの飼料会社に販売する際には、魚種、漁場の場所、漁船の名前など膨大な情報を求められます。それを未だにエクセルシートやPDFに手入力していて、何週間もかかることがあります。


GDSTが行うのは、魚粉工場のシステムと飼料メーカーのシステムがGDST基準に調整されれば、データを直接取得できるようにすることです。マリントラストがGDSTに参加しているのは、魚粉生産者がテクノロジーを構築して力を得られるようにしたいからです。 

魚粉工場にこう言ってもらいたいんです。「うちはマリントラスト認証を持っている。それは良い基準で、魚粉を売るのに役に立つ。バイヤーはマリントラスト製品を買いたがるから」と。実用的なんです。この世界ではすべてが商業的です。魚粉工場はサステナビリティに費用をかけていますが、その努力をしても魚粉が売れなければ、何の意味がありますか? 

だから私たちは認証を得た魚粉生産者の魚粉が売れるように助けているのです。飼料メーカーが「あの会社はマリントラスト認証を持っているからその製品を買いたい」と思うような状況をつくりたいと思っています。

 

Part2では、わずか10年で世界の海産原料生産の48%をカバーするまでに成長したマリントラストの戦略と、日本市場への期待について伺います。また、少人数のチームでグローバルに展開する組織運営の哲学、そして故郷ペルーへの想いを語っていただきます。

 

◾️TSSS2025セッション「責任ある養殖飼料調達で拓く養殖の未来」アーカイブ動画はこちら

TSSS2025セッション「責任ある養殖飼料調達で拓く養殖の未来」アーカイブ動画バナー

 

 

取材・執筆:井内千穂

主に科学技術と文化に関する記事を日本語と英語で執筆。中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2024年、法政大学大学院公共政策研究科サステイナビリティ学修士課程修了。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。

 

 

サステナブル・シーフード用語集 JAPAN SUSTAINABLE SEAFOOD AWARD 歴代チャンピオン紹介

KEY WORD

サステナブル・シーフード用語集

水産分野の専門用語や重要概念を解説。社内説明やプレゼンにも便利です。