パネリスト
・FAIRRイニシアチブ 生物多様性・海洋研究 自然・海洋プログラム統括責任者 マックス・ブッシェー
・グローバル・ダイアログ・オン・シーフード・トレーサビリティ エグゼクティブ・ディレクター ヒュー・トーマス
・みずほフィナンシャルグループ 兼 みずほ銀行 サステナブルビジネス部 GCSuO補佐(サステナビリティ&インパクト) 末吉 光太郎
・三井住友トラスト・アセットマネジメント スチュワードシップ推進部 シニア・スチュワードシップ・オフィサー 和田 健
・立教大学 社会デザイン研究科 特任教授 河口 眞理子
モデレーター
・東北大学グリーン未来創造機構・大学院生命科学研究科教授、兼、日経ESGシニアエディター 藤田 香
水産関連企業が、投融資機関から求められる環境や人権に関する情報開示に応えるには、フルチェーントレーサビリティの構築が欠かせません。サプライチェーン全体を可視化することで、IUU(違法・無報告・無規制)漁業や人権侵害等のリスクを排除し、いかにサステナブルファイナンスを呼び込むかを考える必要があります。
2025年10月2日の「サステナブルシーフード・サミットin大阪(TSSS2025)」の2日目に行われたパネルディスカッション「サプライチェーンの見える化で導く、新たな資金調達」では、金融に関わる5名の方をお招きしてパネルディスカッションを実施。
それぞれの取り組みを発表した上で、金融機関の中でのネイチャーポジティブや海洋問題の位置付けなどについて議論しました。

食品セクターの持続性に関するリスクと機会を評価するために生まれた機関投資家のグローバルネットワーク FAIRRは、世界の420社以上の投資家が参加し、90兆ドル以上の共同資産を有しています。そして、水産物のトレーサビリティ改善にも取り組み、2024年には日系企業4社を含む7社の評価の報告書を発表。そして2025年には、2026年に発表予定の世界の大手上場水産企業20社を対象としたサステナビリティ基準「Coller FAIRR Seafood Index」の作成を開始しました。
この基準により、金融機関は水産関連企業が業界特有のリスクと機会に対応するための準備状況を把握することができます。企業は気候や社会・健康・機会など16の項目で評価されます。投資家はこのSeafood Indexによって企業の取り組みを包括的に理解し投資手法を統合して、企業と関わることができます。FAIRRイニシアチブのマックス・ブッシェーさんは、「投資家の間でもサステナビリティやトレーサビリティの財務的重要性の認識は高まっていて、企業と協力して適切な対応策を模索している」と話しました。

グローバル・ダイアログ・オン・シーフード・トレーサビリティ(GDST)は、サプライチェーンの透明性で新たな資金調達を確保する世界共通の水産物トレーサビリティ基準をつくるために設立された企業間プラットフォームです。トレーサビリティの確立にはデータの共有が実用ですが、一貫性のないデータや完全ではないデータも標準化することで共有することができます。
GDSTは2025年9月現在で112のパートナーが参加し、データを標準化させるためにどんなデータを収集すべきか、いつ収集するか、どのようなデータ形式にするか、どうやって共有するかなどを議論しています。そして、標準化のために現在重要視しているのがデータのデジタル化で、GDSTの ヒュー・トーマスさんは、「デジタル化は企業や政府のデータ管理に革新をもたらし、効率的な共有と高度な分析を可能にする。大切なのは、全ての関係者が異なるシステムからでもデータにアクセスでき、相互運用できる(人が介入せずにデータを交換・解釈できる)互換性があることが大切だ」と述べました。

SDG14「海の豊かさを守ろう」の達成には年間で25兆円の資金が必要だと言われている中、2022年のブルーエコノミー関連の融資総額はわずか4,400億円でした。水産企業が金融機関から融資を受けるためには、事業の実現可能性のほかリスクを適切に管理できるかどうかが問われ、トレーサビリティやデータの開示が重要になります。さらに、水産分野のトレーサビリティはコストがかかるため、環境に良い取り組みをしていても収支が取れているか厳しく見られます。
水産分野のトレーサビリティ確保のための取り組みは、IUU漁業排除などの観点から重要性が高まっていますが、中小事業者には負担がが大きい実態があります。課題はコストとインセンティブのあり方で、知恵を持ち寄りコスト分担や価値創出の仕組みを活用したモデルの展開が期待されます。みずほフィナンシャルグループ 兼 みずほ銀行の末吉光太郎さんからは、金融の事例として、、大手事業者であるバイヤーの売掛債権を買い取ることでサプライヤーである中小事業者が早期に現金を回収できる、「サプライチェーンファイナンス」という資金調達の仕組みを活用してサプライチェーン全体で取り組むことの共有がありました。また、「ブルーボンドはグリーンボンドよりも投資規模の成長が4倍以上速いというデータもあり、今後もブルーファイナンスに積極的に取り組んでいきたい」と話しました。

投資運用を手がける三井住友トラスト・アセットマネジメントは、自然資本の分野では水資源、森林保護、海洋プラスチック、サプライチェーン上の人権問題などが重点項目となっています。その中で、三井住友トラスト・アセットマネジメントの 和田健さんがエンゲージメントしたタイの天然ゴムプランテーションは、水産業界と同じように児童労働や人権侵害、移民労働者への人権侵害などさまざまな問題があり、マルチステークホルダーに働きかけることで企業の行動変更につながると考えられるものでした。
和田さんは、「近年、水産業を含む自然資本分野での株主提案が海外で増加している。それを受けて私たちは、企業のフルチェーントレーサビリティへの取り組みを後押しし、トレーサビリティへの企業側の責任を求めていく。2025年11月には私たちも加盟するPRI(責任投資原則)の総会がブラジル・サンパウロで行われ、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が同国・ベレンで開催される。これらを通じで多くのアセットマネージャーやアセットオーナーが自然資本分野に関心を持ち、水産業に対する注目も増していくものと思っている」と述べました。

4名の発表を受けて、立教大学の河口眞理子さんは、「投資家による投資の対象は基本的に上場企業であり、大手の銀行は大手企業であるバイヤーのバックアップがなければ地元の中小事業者に直接融資することが難しい構造上の問題がある」と指摘しました。特に海に関わる事業は何をどうやって評価するかが極めて難しいため、陸上以上にトレーサビリティが整っていなければならず、GDSTやFAIRRのような仕組みが重要になると述べました。
東北大学教授 兼 日経ESGシニアエディターの藤田香さんからは、「今なぜ金融機関の中でネイチャーポジティブが注目されているのか、その中で海はどのような位置付けにあるのか」という質問がありました。これに対して末吉さんは、「自然は機会とリスクの両方を提供する分野として金融機関の注目を集めている」と回答。「海の分野はカーボンクレジットと同じように環境価値を経済価値化できる可能性がある」と海の持つ将来性に触れました。また、和田さんは投資運用会社として気候変動に取り組む中で、海を含む自然資本に関連する企業に「CO2を削減してもらうことに関心を持っている」と述べ、気候変動の分野でも貢献できる可能性を示しました。
「アメリカでは反ESGの動きもある中、欧米の投資家のESG、生物多様性に対する本音は?」という藤田さんの問いに対してマックスさんは、アメリカをはじめ世界の政治的な動きは変わってきているものの、投資家がESGや生物多様性に対する取り組みにコミットするという点ではほぼ変わりがないと答えました。世界の人口や経済が伸びていく中で水産物は温室効果ガスの排出の少ない、ローカーボンな食料として注目されている反面、乱獲や安全性などの問題があり、金融機関がこれらの問題に対処する1つの方法は企業と協力することだと指摘しました。
ヒューさんは、5年前ほどに調査したイギリスの小売業者は当時からシーフードに関するサステナビリティの問題点が180ほどあり、サステナビリティへの需要が高まっている中でしっかりと見ていかなければならないと述べました。その一方で水産産業に対する世界市場での需要も高まってきているため、デジタル化による標準化が必要であり、ビジネスのチャンスでもあるということを強調しました。
このセッションでは、国際基準に則ったトレーサビリティの確立は金融機関にも注目されており、日本の水産事業者が国際社会で存続するために欠かせない要素であることが確認できました。
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