アジアで持続可能な水産業を実現する「新メタ・コアリション」構想

アジアで持続可能な水産業を実現する「新メタ・コアリション」構想

水産資源の減少に伴う水産コミュニティの衰退。この課題を解決するには、法律の規制と市場のインセンティブの両輪が不可欠です。しかし、これまでアジアの生産現場の改善を支えてきた欧米市場は今後大きな成長が見込めず、また、関税障壁などでアクセスが困難になっています。

シーフードレガシー代表取締役社長の花岡和佳男は、「アジア自身の市場でサステナビリティを追求し、水産現場の改善を支援していくモデルを緊急につくる以外ない」と危機感を語り、アジア各国で活動するプラットフォーム同士が連携する「新メタ・コアリション(連合の連合)」を提唱します。

2025年10月1日、2日に開催されたサステナブルシーフード・サミットin大阪(TSSS2025)の2日目最後のセッションでは、この新構想について、アジア各国のエキスパートを招いて多角的に議論しました。

 

登壇者
・株式会社シーフードレガシー 取締役副社長 山内愛子
・青島マリーン・コンサベーション・ソサエティ(QMSC) 創設者兼会長  ソンリン・ワン
・ヌサンタラ自然保護財団(YKAN) 漁業シニアマネージャー グラウディ・ペルダナハルジャ

モデレーター
株式会社シーフードレガシー 創立者 / 代表取締役社長 花岡和佳男

東アジア地域に根ざしたツールキットを創造する

(青島マリーン・コンサベーション・ソサエティ(QMCS) 創設者兼会長 ソンリン・ワンさん)

青島マリーン・コンサベーション・ソサエティ(QMCS) 創設者兼会長  ソンリン・ワンさん

青島マリーン・コンサベーション・ソサエティ(QMCS) 創設者兼会長 ソンリン・ワンさん

中国、日本、韓国の東アジア3ヶ国は、世界の水産物生産の40~50%を占め、互いに最も活発な貿易パートナーです。

3ヶ国それぞれで漁業管理が前進しています。日本は漁業法を全面改正し、EUのIUU(違法・無報告・無規制)漁業の規制や米国の水産物輸入監視プログラム(SIMP)に匹敵する輸入管理制度を導入しました。韓国はTACの段階的導入や電子モニタリング導入を進めています。中国では漁業法の全面見直しが進行中で、IUU漁業への対応強化、環境に配慮した養殖業の発展やトレーサビリティ改善が期待されています。

3ヶ国の政府が定期的に情報交換を行い、互いに学び合っているように、市民社会組織(CSO)や産業・市場関係者、水産コミュニティも、同様の協力関係を築くべき時期に来ています。私たちは隣国であり、重要な貿易パートナーであり、多くの水産資源を共有しているのですから。今こそ、アジア地域で市場ベースのプラットフォームを共に構築すべきです。

既存のエコラベルや評価制度など、欧米発の国際的なツールを使いつつも、アジアの経済的、文化的な文脈に即した、本当に意味のあるツールキットを創造し、効果的な協力のメカニズムをつくることを願っています。

データ収集と記録システムで効果的な漁業管理を

(ヌサンタラ自然保護財団(YKAN) 漁業シニアマネージャー グラウディ・ペルダナハルジャさん)

ヌサンタラ自然保護財団(YKAN) 漁業シニアマネージャー  グラウディ・ペルダナハルジャさん
ヌサンタラ自然保護財団(YKAN) 漁業シニアマネージャー グラウディ・ペルダナハルジャさん

マグロ漁業で中心的な役割を果たすインドネシアでは、約240万人がこの業界で働いています。生息地を守る、種を守る、そして人を守るということが求められています。

過去10年間、私たちは効果的な漁業管理の障壁の一つである、データと情報の不足という課題に取り組んできました。私たちは乗組員が操作するデータ記録システム(CODRS)を開発しました。このシステムでは、漁業者がすべての漁獲物を撮影し、スポットトラッカー(盗難防止装置)が漁場の位置と漁獲が行われた時刻を記録します。収集された魚種、体長、漁場に関する情報は、より良い漁業政策や管理に活用されています。

CODRSは成功を収めたものの、より広範な普及には課題が残ります。専任の担当者が必要であり、時間もかかるため、時には物流上の困難を伴います。そこで私たちは解決策として、AIを活用して魚種の識別やサイズの計測を行う最新の技術であるFishFaceの導入を進めています。しかし、インドネシア近海は生物多様性が高く、漁獲魚種が極めて多様であるため、技術開発は容易ではありません。

データ収集への意識は高まっていますが、サメや海洋哺乳動物の混獲記録などの情報が欠けているという課題があります。電子モニタリング技術を用いて情報を集め、デッキで何が起こっているのかを把握することで、モニタリング、透明性、安全性の向上につなげ、水産資源とそれに関わる人たちの持続可能性も推進できると考えています。

日本市場の変容とアジア連携への期待

(株式会社シーフードレガシー 取締役副社長 山内愛子)

株式会社シーフードレガシー 取締役副社長 山内愛子
株式会社シーフードレガシー 取締役副社長 山内愛子

日本の主要企業30社の公開情報を元にシーフードレガシーが行った分析によると、環境面での取り組みは少しずつ進んでいますが、人権方針やトレーサビリティの具体的な取り組みは遅れています。

日本企業の強みは、サプライヤーとの深い関係性にあります。この10年間、調達改善や生産現場の改善プロジェクトを経験し、昨今は人権デューデリジェンスも加わって、サプライチェーンを通じたアジア連携は拡大の兆しを見せています。

日本では約束したことは達成すべきだというプレッシャーが強いため、出口が見えない取り組みに企業単体で取り組むことが難しいハードルがあります。また、サプライチェーンの複雑さは中国でもインドネシアでも同様で、ビジネスの文化や言語の違い、リソース不足も課題です。

こうした課題に対し、本日、日本国内の水産物関連企業7社が参加する「責任ある水産物調達ラウンドテーブル」の立ち上げを発表しました。個社の努力だけでは解決が難しい課題に対し、企業間の協働による解決を目指すものです。

また、ここ1、2年、シンガポールのアジア・シーフードEXPO、釜山のOur Ocean Conference、インドネシアのTuna Dayなど、アジア地域で様々な協働の機会があり、互いを知り、理解を深め合いながら、協力の可能性について話し合える良い機運が生まれています。

【ディスカッション】アジアのプラットフォームで課題解決へ

株式会社シーフードレガシー代表取締役社長の花岡和佳男(左)をモデレーターに、課題解決に向けたアジアのプラットフォームについてパネルディスカッション

モデレーターを務める花岡が「アジアのマーケットトランスフォーメーション」と「バイイングパワーによるサプライチェーン強化と生産現場支援でどう連携するか」という2つのテーマを提示し、ディスカッションが行われました。

ワンさんは、QMCSとシーフードレガシーが共同で取り組んだ、イカやウナギ製品のサプライチェーンに潜むリスク評価を例に挙げました。「東アジア地域全体で調査を行ったところ、主要な多国籍企業でさえ、GDSTの原則をわずかしか遵守していない」実態があり、「日本のバイヤーが改善を求めていないため、サプライヤーは現状のやり方で十分だと考えている。市場からの動機付けがない」と、需要側の課題を指摘しました。花岡は、「国境問題も抱える東アジアでは、政府間で規制を作る前に、まず市場や企業が自主的に動きを起こしていくアプローチが戦略的」と応じました。

山内は、日本のバイヤーが中国やインドネシアのサプライヤーと改善プロジェクトや認証取得に協働で取り組んでいることに触れて、「一緒にやろうと言ってくれるワンチームがすごく大事。ゴールを達成して喜ぶ経験を、この地域でもっとシェアしていけるといい」と協働の価値を強調。花岡も、「基準を満たしていくまでのプロセスを一緒に歩んでいくのが、アジアらしさ。関係を切ってしまうと、サポートを得られないサプライヤーは基準を満たさなくても売れるマーケットを探すことになり、問題の本質的な解決にはならない」と述べました。

ペルダナハルジャさんは、インドネシアのマグロ・コンソーシアムを例に、科学者、小規模漁業関係者、市場評価者、サプライヤーなど国内の多様な関係者による協働の重要性を強調しました。しかし、「インドネシアは生産国として日本や中国などアジアの大きな市場に依存しており、そこからの価格の下押し圧力が強い中で、インパクト投資と漁業従事者の収益維持を両立させるのは容易ではない」と課題を指摘。「記録システムや電子モニタリングシステムなどのインフラへの投資によって透明性とトレーサビリティーを向上させ、責任ある取り組みを進めていく必要がある」と述べました。

さらに、プラットフォームに必要な要素として、ワンさんは、小規模漁業への対応も挙げ、「小規模なコミュニティには、高額な国際エコラベル認証を取得する能力や資源がないが、プラットフォームを整備すれば、そうしたコミュニティを特定して支援できる」と提案しました。

会場からは、中国の漁獲量に圧倒される中で複数国が水産資源を共有する際の利害の衝突について質問が寄せられ、ワンさんは「難しい質問だが、中国の新しい漁業法に期待し、中国政府の建設的な協力を信じる」と応じました。

花岡は、「十数年前、日本は国際社会から獲り過ぎ、食べ過ぎと叩かれていましたが、その圧力と国内の前向きな力のバランスで変化してきた。その経験をシェアするのも大事」と述べ、「もちろんアジアだけで解決できるものでもなく、世界中の力を集結して解決していく必要があるが、課題があるだけの地域といつまでも思われていないで、アジアもみんなで一歩前に出ていこう」と、前向きなメッセージで締めくくりました。

 

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