一般社団法人 大日本水産会
専務理事
高瀨美和子
1984年に農林水産省に入省し、以来約40年間、日本の水産振興のためにあらゆる役割を果たしてきた高瀨美和子さん。前編では、日本は一度決めた制度を頑なに守る一方で、新しい取り組みを受け入れ、制度をつくるまでに時間がかかることなど、課題もあることを指摘しました。
その中でも、日本は漁業先進国として引き続き世界をリードしていかなければならないという考えのもと、現在は大日本水産会の専務理事として国内外で活動を続けています。(Part 1を読む)
サステナブルシーフード・サミット2025にも登壇いただく高瀨さんに、Part2では大日本水産会でのお仕事や、その中で新たに感じた課題、「サステナブル・シーフードを主流に」するために必要だと思われることなどをお話しいただきます。
——大日本水産会についてお聞かせください。これまでどのような取り組みをしてきたのでしょうか。
大日本水産会は明治15年(1882年)に設立されました。そして1982年に国際海洋法条約が採択され、各国が排他的経済水域(EEZ)を設定するようになった際には、大日本水産会が主体となって、日本の漁業の操業を維持するための取組みを行ってきました。EEZにより漁獲量が制限され、途上国が漁船の隻数を伸ばしていく中で、日本の漁船がいかに操業を維持するかということに長年腐心してきたと思います。
これまで混獲対策が強化されたり、特定の漁法が禁止されたりする中、日本の漁業者は政府の外交力不足ゆえに自分たちが国際社会の中でジリジリと追い詰められているという意識を持っていたのではないでしょうか。IUU漁業についても、自分たちは苦しい思いをして規制を守っているのに他の国には守らない漁業者もいる、そんな被害者意識と資源管理という大義がないまぜになって、IUU漁業排除の流れが強まったように思います。
ですが、現在はそういう時期を乗り越え、資源管理は自分たちのためにするのだという理解が高まっていると感じます。そしてこれからは、新たな「資源評価」という理論を理解することが課題になっています。
——資源評価など難しい課題を理解するためには、どのような姿勢が求められるでしょうか。
資源評価については、見たことのない記号や普段使わない数式が出てきたりして、理解するのが大変です。まず私たちの立場から言うと、それを皆さんに説明するためには、自分たちが十分に理解しなければなりません。用意した資料をただ読み、難しい言葉を並べるだけでは相手の心に響きませんから、難しいことをやさしく噛み砕いて説明する努力が必要です。
一方、漁業者からは「あなたは現場を知らないだろう」と言われることもあります。ですが、そのように門前払いをされては前に進むことができません。お互いに、相手がわからないことで煙に巻いたり門前払いしたりせずに、歩み寄る姿勢が求められると思います。

——そのほか、現在の仕事の中で課題だと感じていることをお教えください。
農水省ではあまりなかったこととして、大日本水産会では流通・加工業者の方々とのやり取りも増えています。その中で特に、大手流通業者は自社で漁業を行なっていないところが多いため、漁業者と考え方のずれが生じている部分があり、そのギャップを埋める必要があると感じています。例えば、大手企業は株式会社として認証の問題など世界の動向に敏感ですが、漁業者の中には「自分が獲った魚が輸出されるかどうかもわからないのに、それでも認証を取らなければならないのか」と考える方もいます。
認証は必ずしも輸出のためだけに必要なのではなく、自身の漁業が持続可能であることをアピールするのにも役立つのだということを理解してもらう必要があります。そのためには流通業者にも話し合いの場に入ってもらうべきだと思います。
日本では2018年に漁業法が改正され、ステークホルダー会合(資源管理方針に関する検討会)が開かれるようになりました。これは漁業者だけではなく、関係者全員で資源管理を理解するために開いているものです。ですから、漁業者に加えて流通事業者の皆さんも積極的に参加して発言していただきたいです。

「漁業者が魚を獲りすぎたから資源が枯渇している」という意見もありますが、漁業者が魚を獲るのは売れるから、買う人がいるからです。農水省に入った当初、マグロ漁に関わる仕事をしていた時に、環境保護団体の方々などから「高級な刺身が高い値段で売れる限り魚は獲り尽くされる」とよく言われていました。ならば買う側にも責任があります。生産者から消費者まで、関係者全員で責任を分担していかなければなりません。
——TSSSは昨年、「2030年までにサステナブルシーフードを主流に」という目標を掲げました。この目標を達成するためには何が必要だと思いますか?
単にサステナブルシーフードを増産するだけなら、漁業者と政府が努力をすればそれでいいのかもしれません。ですが、消費者がサステナブルかどうかを意識しなければ「主流になった」とは言えないでしょう。持続的な資源管理に基づいた製品が扱われ、それを買うことが当然だという価値観が社会全体で共有されなければならないのです。そのためには漁業者・流通業者・消費者に向けた情報の提供や教育が必要だと思います。
——サステナブルシーフードを主流化するためにはIUU漁業などの問題を乗り超えていかなければなりません。改めて、どのようにしてこのような難題を乗り越えていけば良いのでしょうか。
まずはそういう問題があるということを消費者が知らなければなりません。知らないと興味もわきませんから。「今、世の中でこんなひどいことが起きているんですよ」「こんなことをしていると将来魚が食べられなくなりますよ」と危機感を煽ることも必要かもしれません。問題意識を共有できる機会を増やして、関心の無い人にも情報をプッシュしていくのが最初の仕事ではないでしょうか。
流通業者がサステナブルや資源管理の重要性を訴えることも大切です。流通業者は漁業者に対しては消費者の言葉を代弁する立場ですから、その流通業者が声を上げることで、漁業者の意識も変わると思います。
高瀨 美和子(たかせ みわこ)
広島大生物生産学部を卒業後、1984年農林水産省に入省。2017年水産庁増殖推進部漁場資源課長、2019年同部研究指導課長を経て、2021年資源管理部審議官に就任。中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)や北太平洋漁業委員会(NPFC)などで日本代表を務めた。2023年農林水産省を退職し、一般社団法人 大日本水産会の専務理事に就任。大日本水産会初の女性の専務理事・常勤役員就任となった。
取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌のほか、飲食、医療、住宅など、あらゆる分野で執筆を行う。
KEY WORD
水産分野の専門用語や重要概念を解説。社内説明やプレゼンにも便利です。