金融機関を経て、環境学の博士課程在学中から国際NGOの日本代表を担い、社会課題やサステナビリティを長期的な投資の判断に組み込んでいく必要性について、日本への認知と導入を先導してきた森澤さん。Part 1では、政治の大きな動きとあいまって日本でも金融の考え方が変化し、ESG投資が浸透してきた経緯をお話しいただきました。(Part 1を読む)
続けてPart 2では日本の水産業と、ESG投資や企業情報のフレームワークの関係についてうかがいます。
――いろいろな業界の話題に触れられる中で、水産業に関してESG投資の浸透や意識について、どのように感じられていますか?
ご存知のようにEUには「EUタクソノミー」というものがあって、「環境的に持続可能とはどういうことか」を定義し、投資や企業の情報開示につなげています。タクソノミーとは分類のことですが、環境配慮を6項目に分類して、これらへの取り組みによってサステナブルな経済活動であるかどうかを評価する基本構造です。
EUタクソノミーの、環境目的6項目(図はEU公式サイトより再編・和訳 出典はこちら)6項目のうち、気候変動の関連は日本でもかなり話題に上り、気にかける動きが起きています。水産について言えば、「水と海洋資源(図の3)」「サーキュラーエコノミー(4)」「生物多様性と生態系(6)」など複数の項目が関わってきます。それを考えると「気候変動」以外についても、日本でもっと声が上がってくるべきだと思っています。
日本でもEUタクソノミーのようなものが必要だ、でもEUタクソノミーそのままでは日本に合わない、という意見もあります。それなら日本で新しいものを作ろう、どうせ新しく作るならEU版を超えるものを、と考えたい。
シーフードって日本では昔から獲って、料理して、食べてきたものですよね。私などは「日本もっとがんばれ!」と思ってしまいます。いま現在、お米についてすごく議論になって、そこから日本の農業の課題も話題になっています。でも農業だけではない、漁業だって課題がある。
これを好機として、水産業界でも活用できるとよいのではないでしょうか。指標として取り組み項目がはっきりしていれば、取り入れやすいし、外から見てもわかりやすくなりますよね。日本に合った、日本ならではの、水産にもフォーカスしたタクソノミーが必要ではないでしょうか。
EUタクソノミーの4つの判定基準。6項目のどれかに貢献するだけではなく、他の項目において大きな害がないこと、労働者の人権などの基礎的な安全性などを求められる(図はEU公式サイトより和訳 出典は上図と同)――水産にフォーカスして、投資家にも企業にも使ってもらえる新たな指標を、日本でつくって発信できたら、それは変化を加速する力になりそうです。
そうです。日本の水産企業には、気候変動に積極的に取り組まれているところもあります。でも気候変動だけでなく、自分たちの本業にかかわる取り組みだってあるはずです。企業の方々だけでなく、投資家にもそういう見方をしていただくように変えていく……そのためにはやはり、日本でもタクソノミーが必要ではないかと思います。
――日本でも情報開示の状況はかなり変化してきたと思います。PRIも間違いなくそれを支えられてきたのではないでしょうか。
外部に伝わる情報開示が必要だという認識は、すでに日本の企業や投資家にも根づいています。昔なら「なんでそんなことを開示しないといけないの」「そんなたいへんなことをして、何のメリットがあるの」から始まっていたところです。今は日本でも、財務報告書の中で「サステナビリティ報告」を開示することも普通になってきています。一足飛びには行きません。でも土台はかなりできています。
今、せっかく「食べもの」の生産供給に注目が集まっているのを、シーフードにも動きを起こすチャンスにしたい。そのためにも、サステナブルシーフードとは何か、どういう概念なのかを、みんなで議論しながら理解を広げていくことが必要ではないでしょうか。
シーフードについては特に、日本が中心になって世界で使われる項目を作れたらいいのにと、ずっと思っています。インバウンドで日本のシーフードに触れる人がいるだけでなく、世界に水産物を輸出している日本企業もあるし、食のサービス業化、六次産業化など、つながりは広いです。これは日本にとって重要なことではないでしょうか。
TSSS2024では金融をテーマとするセッション「水産業の持続的成長産業化にESG投融資を呼び込む:環境や人権におけるデューデリジェンス体制の構築とディスクロージャーの動き」を開催、森澤氏もパネリストとして登壇(左から2人目、アーカイブ動画はこちら)――サステナブルシーフードに関しては今も課題が山積していて、ー筋縄ではいきません。こうした巨大で複雑な問題を乗り越えていく上で、アドバイスはありますでしょうか?
そうですね。やっぱり明確な知見とその共有が必要です。私もまだまだ足りませんが、そもそも何が課題なのか、どういう問題が山積みなのか──セクターによる違いもあると思いますが、その理解が共有できているのかどうか。
企業が自分たちを省みるにも、投資家を動かすにも、まず「何がどうだったらよいのか」を明確にしなくては。投資家は企業の何を見ればよいのか。企業は何をして、どの項目を開示すればよいのか。そういうことが指針として明確に共有されていれば、これから着手するところも目標にできるし、進めやすいのではないでしょうか。
――課題を、企業や投資家にとっても具体的で明確な形に、見える化するということでしょうか。
そうです。特にTNFDなどでとらえきれない、サステナブルシーフードにつながる部分について、もう少しわかりやすくなればと思います。TNFDでは土地利用のことをかなり重視していますよね。でもシーフードにフォーカスしたら、もっと他の重要な視点があるかもしれない。専門の方々から「こういう項目があったらよい」というのを出していただきたいです。
TSSS2024で、金融テーマのパネルに登壇したメンバーで(左から3人目)――シーフードレガシーでは「2030年までにサステナブルシーフードを主流化する」という目標を立てています。主流にしていくためには、何が必要だと思われますか?
先ほどの話と重なりますが、まず「サステナブルシーフードとは何か」の定義。そして、そのためには何が必要かを、明確にしていくことではないでしょうか。
それと最近の個人的な体験から、シーフードについては天然と養殖の組み合わせ方も大事だと思いました。先日福島へ行ったとき、天然のフグがあると聞いて食べに行くと「今日は天然フグが獲れました」と言う。言われてみれば、天然ものなら獲れない日もありますよね。でも「今日は獲れなかった」では店の看板に出せない。となると養殖との組み合わせが必要だなあ、と。
養殖も、どういうやりかたならサステナブルなのか。気候変動で海の環境も変わる、海流も変わる、すると新しく養殖を始めるところもあるでしょう。そのとき「サステナブルな養殖のしかた」が、専門家だけでなく幅広く浸透している状態だといいですよね。
――魚も、本当はお米と同じような騒ぎになってもおかしくないくらい減っていますが騒動にはなっていません。魚は毎日食べるものではない、という違いがあるのでしょうか。
水産物のことは、本当に日本が世界の先頭を切ってやらなければいけないと思います。そのためにお金の流れを変えることも必要ですし、それには国民全員が「関心を持つ」ことが重要だと思います。
――国民が、自分たちのお金がどこでどう扱われているかを意識する必要がある、というお話も、本当にそうだと思います。
私たちみんながつながっているんですよね。他人事ではなく自分たちのお金であるということ、加えて、農業や漁業は私たちの食べもののことですから、関心を持つべきだし、私たちが関心を持つことで政治家も動きやすくなると思います。
今まで岩盤規制と言われ、動かないと言われてきたお米の扱いがこれだけ動き始めているのも、国民の関心が高いからですよね。今の状況を見ると、水産にも期待したいです。そこへ向けて理解を拡げていく活動には、喜んで参加させていただきます。
森澤 充世
PRI事務局シニアリード、環境学博士。シティバンク等で金融機関間の決済リスク削減等に従事の後、東京大学大学院で環境学を研究。CDPの世界的な拡大にともない、大学院在学中の2005年から2023年2月までジャパンディレクターとして、企業の環境への取り組みや情報開示の促進を担当。2010年、PRIの日本ネットワーク創立にあたり、CDPのジャパンディレクターと兼務でPRIジャパンヘッドとなる。2022年より現職。
取材・執筆:井原 恵子
総合デザイン事務所等にて、2002年までデザインリサーチおよびコンセプトスタディを担当。2008年よりinfield designにてデザインリサーチにたずさわり、またフリーランスでデザイン関連の記事執筆、翻訳を手がける。
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