日本生協連とWWFが6年の協働で実現。インドネシアでの認証取得の舞台裏(Part 1)

日本生協連とWWFが6年の協働で実現。インドネシアでの認証取得の舞台裏(Part 1)

日本生活協同組合連合会 ブランド戦略本部 サステナビリティ戦略室 松本 哲
(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン) 海洋水産グループ 吉田 誠

2025年に開催された第6回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード(JSSA)。コラボレーション部門で「インドネシア・エビ養殖業改善プロジェクト(AIP) 第三期」が特別賞に選出されました。

日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)が、現地エビ加工会社や世界自然保護基金(WWF)ジャパン・同インドネシアと協力し、環境や社会に配慮した持続可能なブラックタイガー養殖をめざす取り組みで、2018年7月に開始され、現在第三期が進行中です。認証取得に届かなかった第一期から8年間にわたり改善を続けてきた粘り強い継続の姿勢が評価され、2019年の第1回JSSAでもコラボレーション部門のチャンピオンに選出され、今回が2度目の受賞となりました。

そこで、日本生協連の松本さん、WWFジャパンの吉田さんとこれまでの取り組みを振り返り、長年の取り組みの中でのご苦労や改善の手応えなどについてお話しいただきました。

 

松本 哲(まつもと さとし)1988年 日本生活協同組合連合会入職。物流管理、商品営業、商品開発・企画などコープ商品(PB)事業に関わる業務を経験。2010年〜共同開発推進部部長、2012年〜東北支所支所長、2014年〜水産部部長、2016年〜生鮮原料事業推進室室長、2017年〜商品本部・本部長スタッフを経て、2022年よりブランド戦略本部 サステナビリティ戦略室で水産分野を中心にサステナビリティへの取り組みを担当。

吉田 誠(よしだ まこと)
WWFジャパン海洋水産グループ所属。南米、東南アジア、中国などで、日本が輸入・消費している水産物(シーフード)の持続可能な生産と、現地の自然保護活動のコーディネートを担当。海外のWWFスタッフとも協力し、多くの生物が息づく海の自然と、漁業・養殖業、流通、消費のサプライチェーンを結んだ視点で活動に取り組む。

困難な養殖分野で反省と改善を繰り返し歩んだ

——このプロジェクトは、エビの中でもブラックタイガーの養殖が対象となっています。なぜブラックタイガーなのでしょうか。

松本さん日本生協連では1970年代から、東南アジアのエビの在来種であるブラックタイガーを日本で熱心に普及してきました。その結果として、現在もブラックタイガーは日本生協連の水産部門で戦略的な主力商品と考えています。しかし近年、東南アジアではブラックタイガーの養殖生産量が減少傾向にあります。

また、私たちは、長年「安全・安心でおいしいエビ商品」を消費者に届けることを第一に取り組んで来ましたが、プロジェクトを検討する前まではエビ産地の環境に配慮した取り組みは十分ではありませんでした。2015年の国連のSDGs採択を受け止め、日本生協連で商品事業におけるエシカル消費対応の取り組みを強化する方針が策定されたことから、その具体化の一つとして今回のプロジェクトがスタートしたのです。

 

——2018年からの第一期、2021年からの第二期、2023年からの第三期と、長年にわたりこのプロジェクトを続けてこられました。これまでの歩みをどのように捉えておられますか?

松本さん:このプロジェクトはASC認証の基準を指標にしながら、現地の養殖場の現場を改善していく取り組みとして始まりました。第一期はインドネシア南スラウェシ州でスタートしましたが、ASC認証の基準の約90%まで適合できたものの、コロナ禍で現地とのコミュニケーションが十分に取れなくなったこともあり、認証取得には至りませんでした。この“合意形成と関係構築の不足”が最初の大きな壁でした。

①スラウェシ島南スラウェシ州 (ASC基準にもとづく養殖業改善)
②ジャワ島中部ジャワ州 (ASC基準にもとづく養殖業改善)​
③スマトラ島アチェ州 (親エビ資源の保全と持続可能な漁業への転換)

第二期では、この教訓を踏まえ、2017年から取引のあった中部ジャワ州のミサヤミトラ社とも協働をスタートしました。南スラウェシ州でも対象の養殖場を変えて取り組みを継続しましたが、気候に大きく左右され、雨が降らないため干ばつになったり、降りすぎて養殖池が水浸しになったりと、厳しい状況の中で苦戦していました。

第三期も、南スラウェシ州では気候の不安定さから、養殖池に入れた稚エビの生残率を上げることができず、改善してもなかなか結果につながらない時期が続きました。一方、中部ジャワ州では苦労しながらも現地での取り組みが進み、2024年3月には中部ジャワ州の養殖池でASC認証を取得、同年10月から日本でラベル付き商品の販売を開始することができました。

吉田さん:第一期でASC認証の取得ができなかった原因のひとつは、プロジェクト開始当初に生産者と十分な関係構築ができなかったことがあります。その教訓から第二期では、中部ジャワ州の生産者と当初から関係構築に努めたことが、第三期でのASC認証の取得につながった最大のポイントだと思います。

ASC認証の基準に基づいて養殖を改善していくプロセスは、時間もかかりますし、現地の小規模零細の生産者にとっては手間や費用など大きな負担がかかります。そのため、最初の段階で生産者に取り組みの意義を理解いただき合意を得ることが重要でした。

また、このプロジェクトを通じて、小規模零細の養殖業や漁業の改善では、現場だけで国際認証を目指すのは非常に難しいということも改めて実感しました。現在は日本生協連の松本さんや水産部の担当者の方が一緒に年に一度は現場を訪れ、さらにオンラインでの進捗会議にも参加してくださっています。商品の買い手である日本生協連が密にプロジェクトに関わっているということが、現地のミサヤミトラ社や生産者のモチベーションにもつながり、認証取得という成果を生みました。

プロジェクト対象となった養殖池 プロジェクト対象となった養殖池

20名だった協者が4名に。課題は生残率10%を25%へ

——中部ジャワ州でのASC認証取得まで、実際にどのようなご苦労がありましたか?

松本さん:現地での取り組み当初は20名ほどの生産者が集まったのですが、試験的に養殖を行ったところ、生残率と収穫量も想定より低く、参加を断念する方が相次ぎ、最終的に残ったのは4名でした。プロジェクトに参加する生産者を集めることが最初のハードルだったと思います。

第三期でASC認証を取得できたことで今年は参加者が増えてはいますが、認証の維持も大変ですし、認証取得を他の養殖現場へ拡大していくことの難しさも感じています。

吉田さん:インドネシアでは、近年ブラックタイガーの養殖が非常に難しくなっていて、生産者の間ではバナメイエビや他の魚種への切り替えが進んでいます。そうした背景から、最初に試験的な養殖を行ったのですが、病気が発生しほとんどのエビが収穫まで育ちませんでした。

その状況でWWFインドネシアのスタッフやミサヤミトラ社の担当者が生産者一人ひとりと対話を重ね、それを理解し合意してくださった4名の生産者とともに、なんとか改善の取り組みをスタートさせることができたんです。

——現地生産者との協力関係を構築しスタートしたASC認証取得の取り組み。その後もご苦労があったそうですね。

吉田さん:インドネシアのブラックタイガー養殖で行われているような粗放養殖の場合、ASC認証を取得するには生残率25%が必要ですが、当初の生残率は10%前後しかありませんでした。養殖池に水を張ったまま水を換えずに生産を重ねると、土壌や水質が悪化し、プランクトンが発生しにくくなったり病気が発生しやすくなったりします。そのために、過去に比べ生残率が大きく下がってしまっていました。

こうしたことを改善するため、稚エビを池入れする前に池の水を抜いて天日干しをすることで土壌の状態を整えました。池入れ後も、塩分濃度や溶存酸素などの測定を通じて、エビの成育に適した環境になっているかをモニタリングしながら水質管理を行いました。また、定期的にサンプリングしエビの状態のモニタリングも行いました。こうした取り組みを重ねたことによって、生残率を10%前後から20%程度にまで引き上げることができました。

——ASC認証取得のためには生残率20%から、さらに25%まで引き上げる必要があったわけですね。

吉田さん:はい、そこで行ったのが、「養殖密度を下げる」という対策です。1つの池に入れる稚エビの数を減らして、1尾ずつが育ちやすい環境を整えることで生残率を上げ、ASC基準で求められている25%を超えることができました。

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2024年3月に中部ジャワ州のブラックタイガー養殖池でASC認証を取得し、同年10月から日本でラベル付き商品の販売を開始した

松本さん:しかし、これは難しい課題もありました。生産者にとっては、密度を下げることで生残率は上がったとしても、最終的な収穫量が減ると収入が減ってしまいます。生産者にとって最も重要なのは生産量ですから、「生残率が下がったとしても、稚エビを多く投入して生産量を増やしたい」という思いがあるのは当然です。今回は、WWFの皆さんが生産者と丁寧に対話を重ね、目的と意義を理解してもらいながら進めてくれました。このプロセスがあったからこそ、このような難しい状況の中で目標を達成することができたのだと思います。

いくつもの困難を乗り越えて、インドネシアでASC認証取得を達成することができた「インドネシア・エビ養殖業改善プロジェクト(AIP)」。Part2 では、マングローブの再生活動やアチェ州での親エビ漁業の改善活動、さらに今後の展望についても伺います。

 

 

取材・執筆:河﨑志乃

デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。

 

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