Part1では「積丹方式」が実現するまでの半世紀におよぶ実践について伺い、廃棄ウニ殻を肥料化する際のポイントや、極寒の海での施肥作業の様子も教えていただきました。
Part2では、Jブルークレジット認証によって発展した事例や、株式会社SHAKOTAN海森学校の小山彩由里(おやま さゆり)さんにも同席していただき、同校のコンセプトや、今後の展望などについても伺います。
ー藻場再生が成功した後、もう1つの効果であるブルーカーボンに着目されました。Jブルークレジット※の認証は、プロジェクト内外にどのような影響を与えましたか?具体的な変化などがありましたら教えてください。
企業の株式会社積丹スピリットをまとめた「北海道積丹町におけるブルーカーボン創出プロジェクト協議会」を設立しました。これによって、以前より活動が組織的で一体感あるものになったと思います。また、Jブルークレジットの認証が正式に承認されたことで、さらに積丹町の取り組みが脚光を浴びるようになりました。これまで漁業関係者が中心だった活動に、建設業や製造業、金融関係など異なる業界からも「地域の漁業者と藻場造りを通じて温暖化対策に貢献したい」「協働の方法を教えて欲しい」と声がかかるようになりました。
また、小樽市にあるゴム製品メーカーと連携して、海藻養殖用肥料を開発して特許も取得しました。これは、大手企業が特許を取って製品化してしまうと、高値がついて普及していかなくなる懸念があったからです。
ー2025年、循環型藻場造成(積丹方式)プロジェクトから派生した社会教育・地域創生プロジェクトとして、「株式会社SHAKOTAN海森学校」を設立されました。どのような思いで運営されていますか? 大切にされていることがありましたら教えてください。
小山さん:SHAKOTAN海森学校では、一般の方から企業の方までさまざまな層に向けて環境教育や企業研修、地域体験ツアーなどのプログラムを提供しています。
SHAKOTAN海森学校が開催している神威岬エコツアーでは、小山さんがガイドを担当毎回いろいろな立場の方が参加されますが、人とのつながりが一番大切ですね。地元の漁師さんや組合の方にも協力いただいて、漁師さんが自ら説明したり、料理人さんに参加者の目の前で魚をさばいてもらうこともあります。私たちはもっぱら地域の方が主役になれるような体験プランをコーディネートしています。
積丹には珍しい生き物や特別な環境資源もあるわけではありませんが、身近な自然にあふれています。私たちは、当たり前にある自然を体力や年齢に関係なくだれもが無理なく楽しめる方法を提供したいと考えています。中でも大切にしたいのは、親子で楽しむこと。子ども向けのプログラムだと親が物足りなさを感じたり、大人向けだと子どもがちょっと置いてきぼりになったり、バランスがとれないことがあります。SHAKOTAN海森学校では、お父さんお母さんも子どもも、みんなが満足できる体験をつくっていきたいと思っています。
水鳥さん:SHAKOTAN海森学校を通して、数字では表せない自然の恩恵を感じて欲しいですね。森・川・海のつながりと、その流域に存在する豊かな自然資源の存在が、私たちの生活や経済活動ともつながっていることを体感・体験できる学校になるといいと思っています。
積丹町の水産をテーマにした「ウニの学校プロジェクト」より、秋は町のブランドブリである「鰤宝(しほう)」を味わうツアーを開催ーいま「積丹方式」が全国から注目されています。今後どのような展開が可能だとお考えですか?具体的な計画などがありましたら教えてください。
水鳥さん:ウニ殻肥料については、試験的な活動段階を終了し、地域全体でウニ殻を回収する体制とウニ殻肥料の製造事業化が整いました。今後は積丹町以外の地域へウニ殻肥料を販売したり、そこからウニ殻の回収も視野に入れています。さらに、アマモ場の再生に有効なウニ殻肥料の開発も検討中で、藻場再生の技術を広く共有できるような仕組みをつくりたいと考えています。
事業全体としては、漁村や漁業の多面的な機能を活かし、次世代が安心して漁業に携われる環境づくりと、国民の漁業に対する関心を高めていきたいと考えています。そのために、海森・半島アドベンチャーツアーなど、漁港を基軸としたリジェネラティブ水産業(再生型水産業)の構築を目指していきます。積丹で始まったこの挑戦を町の創生事業となる『海業(うみぎょう)』として、さらに広げていきたいと思います。
ーサステナブルシーフードを主流化させるために必要なことはどんなことだとお考えですか?具体的な課題やご意見などありましたら教えてください。
水鳥さん:持続可能な漁業を成立させるためには、漁業対象種を増やすだけでは不十分で、一次産業を支える自然環境を育てるところから始めなくてはいけないと思います。生態系や食物連鎖の底辺(土台)となる藻場を増やして、多様な生物が生存可能となる豊かな海を保全することが不可欠です。
藻場の造成は一次産業と直接関係がない企業も参画できます。例えば、製造業が資金援助という形で環境問題に参画する仕組みを作ることができます。現在、積丹ではその仕組み自体をひとつの地域活性化モデルとして企画しています。

このような取り組みの軸となるのが人と人とのつながりです。単なる経済活動としてではなく、趣旨に共感し、志を共有する人たちの集まりになることで、物事の進み方は格段に早くなります。積丹では、10年以上にわたり築き上げてきた役場と漁業者の強い信頼関係があったからこそ、提案が自然に受け入れられ、事業を円滑に進めることができました。他の沿岸地域でも、積丹と同様な取り組みができるよう、情報発信をしながら「積丹スピリット」を伝えていきたいと思っています。
定年退職後に積丹町へ戻った水鳥さん、櫻井さんは北海道で学生時代を過ごし、当時お世話になった積丹町の漁師さんの紹介でプロジェクトに参加、小山さんは自然を求めて北海道へ移住し、積丹の魅力に魅了されたそうです。皆さんのお話には、積丹愛と漁師の方への敬意があふれていました。
執筆:中川僚子
大学で市民向け環境学習講座の実践・研究補佐を務めた後、2023年よりフリーランス。地域がつながるさかなの協同販売所「サカナヤマルカマ」スタッフ。科学読物研究会会報編集部。理科教育、環境教育に関わりながら執筆活動を行う。
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