だんだんと春めいてきているとはいえ、まだ風の冷たさが残る3月。
学生たちが海と食のサステナビリティについて学ぶプログラム「The Blue Camp」の集大成、ポップアップレストラン京都店「KAJI – 舵 -」がコミュニティキッチン DAIDOKORO(京都市中京区)にて開催されました。プログラムに参加した8人の学生たちが料理を通じて伝えた「三つの選択」とは。
ポップアップレストラン開店! ちょっと緊張した面持ちのプログラム参加者たち
「The Blue Camp」は海の未来を考えるトップシェフチーム、Chefs for the Blueが2023年からスタートした、海と食のサステナビリティについて学び、実践する4ヶ月半のプログラム。3回目を迎え、これまでの卒業生は47人にのぼります。
プログラムは、ジャーナリストや水産庁職員などから食文化や資源管理についての座学あり、漁港でのフィールドワークあり、トップクラスのシェフのレストランではメニューやサービスづくりについて学ぶ研修あり、と大人も羨む内容です。「大人も」と書いたのは、このプログラムに応募できるのは、「『未来の当事者』となる、専門学校生、大学生」となっているため(大人のみなさん、残念!)。年々応募が増え、今年は16人の定員に対し全国から4倍の応募があったそうです。
「The Blue Camp」が実施される場所は東京と京都。今回、筆者が参加したのは、京都でオープンした1週間ほどの期間限定ポップアップレストラン。受付に行くと早速、おそろいのエプロンをつけた初々しいシェフたちが「ようこそー!」と元気よく出迎えてくれました。
イカの激減を知った時のショックを語る中西さんテーブルに置かれたかわいらしい棒付きの「イカ」(写真下)。何をするのかな?と疑問に思っているとプレゼンター、中西百夏さん(写真上)が「ではみなさん、このイカを大きく振ってくださーい」と一言。30人ほどの大人が言われるがままにイカを頭の上で振っていると、一人を除いて「今度はみなさんイカの棒を降ろしてください」。一体何が?

棒つきのイカを振る参加者たち(撮影:木寺紀雄)「みなさん全員がイカを振っている状態が2000年。そして今一人だけ振っている状態が今。スルメイカは2000年当時と比べて94%も獲れなくなりました。私はこれを5ヶ月前にこのプログラムで知ってショックを受けました」
かわいらしいイカが急に寂しく見えた瞬間でした。そうです。2000年に約30万トンあった漁獲量は2024年には9割以上減少し、約1.8万トンと記録的な不漁が続いています*。
「でも日々の選択を変えればこの現状を変えていくことができるはず。そこでこの間学んだことを活かして3つのテーマのメニューをつくりました。まずは楽しんでください」
大人の私たちが生み出してしまった重い現実。明るい未来をつくれるような「選択」ができるのか。いい意味で宿題を抱えつつ、料理がスタートしました。
濃厚なカニの旨みたっぷりのクリームとパイ生地のサクサク感がたまらない(撮影:木寺紀雄)一品目は、ベニズワイガニの身がどんと鎮座したインパクト抜群のヴォル・オ・ヴァン。
この選択のポイントは「誰が獲ったか」。「選択をする際、商品そのものを吟味するだけではなく『誰が獲ったか、育てたか』で選ぶ視点もあるのではないか」とプレゼンターの反町健志さん。
その観点で今回選んだ生産者は「豊漁を喜ばない」という福井県で唯一、ベニズワイガニ漁を営む山下富士男さん。嬉しいはずの「豊漁」なのに一体なぜ?
その理由は漁獲量激減にありました。山下さんは、漁獲量を回復させるべく小さなカニを海に戻したり、漁獲記録をつけるなど「多く獲らない努力」を地道に続けています。そこには息子さんに継がせたい、という想いもあります。
「でもこうした努力は消費者には伝わりづらい。生産者の努力を知って食べることで応援できればと思います」と反町さんは語りました。
反町さんの説明に聞き入る参加者たち(撮影:木寺紀雄)
左下にある黄色っぽいものは鱗。クリスピー感たっぷりでやわらかい刺身との食感の組み合わせが楽しい。(撮影:木寺紀雄)二品目はニゴロブナのデクリネゾン。天然のクレソンの香りとフナの卵の鮮やかな山吹色が食欲を誘います。ニゴロブナは関西圏では比較的馴染みがあるものの、最近は昔ほど売り場で見かけることは少なくなりました。食べる機会が減れば、その魚を獲る漁師も減ってしまいます。そこをなんとか食い止めようとがんばっているのが琵琶湖の漁師であり、水産卸「有限会社ヤマサ水産」の4代目でもある、西居 希さん。
「なんとなく泥臭さそう、という印象だけで貴重な食文化が消えてしまうのはもったいないと思います。西居さんのフナは一匹ずつ締めているので臭みが全くなく、丁寧な仕事が味の良さにつながっています」。西居さんのフナを食べて衝撃を受けたというプレゼンターの田淵 和希さんがその感動を熱く語ってくれました。
今回、フナの刺身が使われているのも注目ポイント。一般的にはめずらしいのですが、「西居さんの締め技の素晴らしさと琵琶湖の水がきれいなおかげで生でも食べられるんです」。人と環境が織りなす貴重な味わいを感嘆と共にいただきました。
料理の背景にあるエピソードを熱心に語る田淵さん(撮影:木寺紀雄)
クロダイのポワレ。魚のだしでつくったソースが白身にぴったり。(撮影:木寺紀雄)三品目のテーマは「選ばないことを選ぶ」。まるで仏教の「問答」のようなテーマ。一体どういうこと?
「漁獲量が減って今まで獲れていた魚が獲れなくなる中で、選ぶのではなく、ここはあえて『選ばず』、あるものをいただく、という選択があるのではないかと思いました」。プレゼンターの反町さんはこう熱く語りました。
提供された魚は魚は福井県・小浜の定置網で獲れたクロダイかサワラのポワレ。「獲れたもの次第」なので、参加者によって提供される料理がどの魚になるかはテーブルに到着するまでのお楽しみ。私がいただいたのはクロダイ。ふんわりとした白身と皮のパリパリ感がずっと楽しめる一品でした。
「あるものをいただく」となると、料理する人や消費者は獲れたものに併せて料理を考える必要、いや、楽しみが生まれるというべきですね。「選択することで未来をつくる」とはよく聞きますが、あえて「選ばずに未来をつくる」。逆の発想を楽しみました。
参加者に話しかける松島 海七美さん。学生と参加者の会話もこのレストランの魅力(撮影:木寺紀雄)
鮮やかなオレンジが特徴のスープドポワソン。(撮影:木寺紀雄)最後は、これまで紹介された3つのテーマ、Empathie(オンパシー)、 Bâton(バトン)、Ce qui est là(セキエラ)の中から、参加者が心に残ったテーマ一つを選んで、それにあった一品が提供されました。
私が選んだテーマはCe qui est là(セキエラ)。このテーマにあわせた最後のメニューは色鮮やかなスープドポワソン。明石浦漁港で水揚げされた未利用魚を「インディーズ魚」の名称で提供している浜仲買「つる一」の鶴谷真宣さんから提供されたさまざまな魚を使ったスープでした。臭みは全くなく、驚くほどすっきりとした味わい。それでいて深みのある旨み。お腹にじんわり染みわたるおいしさでした。
Empathie(オンパシー)につながる一品。激減する貴重な明石のタコ。金楠水産株式会社 樟陽介さんのタコをハーブを混ぜ込んだご飯にのせたタコ飯。(撮影:木寺紀雄)
bâton(バトン)につながる一品。福井の伝統料理、国産マサバの「へしこ」をつかったお茶漬け。(撮影:木寺紀雄)「買い物は未来への投票」と言われるように「食の選択は未来への投票」でもあります。ただ、選択するためには自分が選ぼうとしているものについて知る必要があり、時には「大変だな」と思うことがあっても不思議はありません。
今回いただいた三品は、そんなちょっとしたしんどさを吹き飛ばし、選ぶことの楽しさを思い出させてくれるものでした。生産者で選んだり、食文化を残していくという視点で選んだり、あえて「選ばない」という選択をしたり。持続可能で豊かな未来をつくる選択はもっと自由で楽しいはず! 美味しさと共に春風のような軽やかなメッセージが心に残りました。
今回の店の名前である「舵」は「船の進路を決めるもの」を意味します。生産者への共感 ー Empathie(オンパシー)、次世代に食文化を残す ー bâton(バトン)、選ばないことを選ぶ ー Ce qui est là(セキエラ)。
水産業界にはまだまだ課題が山積していますが、学生のみなさんが考えてくれた三つのメッセージを持続可能な未来をつくる「舵」として、食を楽しみながら「選択」を続けていきたいと思います。
文/Chief Communication Officer 有川 真理子
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