セリ人・MSCを経て「おさかな小学校」から広める海の学び(Part 2)

セリ人・MSCを経て「おさかな小学校」から広める海の学び(Part 2)

一般社団法人 日本サステナブルシーフード協会 代表理事
おさかな小学校(Fish Elementary School) 校長
東京海洋大学 特任助教
鈴木 允

漁師見習い、築地市場のセリ人を経て、東京大学大学院農学生命科学研究科で学びながらMSC 日本事務所で活動を始めた鈴木 允さん。MSCでは日本各地を奔走しながら認証取得のために尽力しました。

その後独立し、2019年に「日本漁業認証サポート」、2021年に「一般社団法人 日本サステナブルシーフード協会」を設立。漁師と消費者の双方をサポートする独自の活動を展開し、消費者への啓蒙の一環として「おさかな小学校」を運営しています。

昨年のEXPO 2025 大阪・関西万博の民間パビリオンの一つ、「BLUE OCEAN DOME(ZERI  JAPAN)」で行われた「選んで守るサカナの未来 Week」で特別授業も行った鈴木さんに、独立の経緯やおさかな小学校の授業内容、鈴木さんが思い描く海の未来などについて語っていただきます。 

MSCで流通の「源流」へ。認証取得のために奔走

——大学を卒業後、築地市場でセリ人として8年働いた後に、MSCに入られた鈴木さん。同じ海の仕事とは言え、だいぶ環境が変わったのではないでしょうか。

MSCでは築地市場よりさらに流通の源流に近づいた感覚はありました。築地では主に水産会社の出荷担当者や仲卸の方とやり取りをしていたのが、MSCでは水産会社の経営者や、漁協、漁師の方とやり取りをするようになり、日本各地で随分と生産現場のことを勉強させていただきました。

現場では、漁師さんが独自の方法で資源管理をしていて、「自分たちこそが持続可能な漁をしている」と自負している地域もあります。ですが、欧米からMSCの審査員が来て審査をすると、「資源量を把握できていない」「網にサンゴがかかっている」など、全く違った視点で指摘を受けることになります。私もそれまで日本の漁業しか知りませんでしたから、MSCという国際的な基準で日本の漁業がどう見えるのかということには大きな関心がありました。

MSC時代、欧米から来日した審査員と MSC時代、MSC認証を取得したイギリスの小規模漁業の漁業者と。

MSCの審査を受けるには数百万円もの費用がかかりますから、海外のファンドや日本の農林水産省などの支援を受けながら、北海道や三重、長崎、鹿児島など日本各地で認証取得に向けた審査に対応しつつ、日本の漁業の強みと弱みを学びました。その内容は、専門家に分析していただき、Mirine Policyに投稿されました。

独立し漁業者と消費者の双方をサポート。海洋教育のための「おさかな小学校」を開校!

——MSCに6年間在籍した後、2019年に独立されたのですね。

はい。漁業者が自力でMSCの認証を取るのは難しく、海外でも専門のコンサルタントが入ることが少なくありません。私も認証取得を目指す日本の漁業者をサポートしたいと思ったのですが、MSCの職員の立場ではそれができませんでした。ですので退職して、個人事業として「日本漁業認証サポート」を立ち上げ、MSCの厳しい基準や指摘に対応しながら審査の伴走支援をおこない、MSC認証の取得につなげてきました。

さらに、海のことや日本の漁業のことを消費者に伝え、消費者としてできることを皆さんと考える「一般社団法人 日本サステナブルシーフード協会」を2021年に設立しました。漁業者のサポートを「日本漁業認証サポート」で行い、消費者に伝える活動を「日本サステナブルシーフード協会」で行うというのが現在の私の活動です。

——それからどのような思いで「おさかな小学校」をスタートしたのでしょうか。

もともと消費者向けのプログラムを作ろうと思っていたのです。でも、子どもたちに海の生き物や海の問題について伝えるプログラムをつくれば、その親である大人もそのプログラムを見て考えてくれるのではないかと考えました。それで始めたのが「おさかな小学校」です。おさかな小学校は毎週土曜日の朝9時から30分間、オンラインで行なっています。4月はマグロ、5月はタイ、6月はサンゴ、というふうに毎月テーマを決めて、特別授業では漁師さんや水族館スタッフ、研究者などのゲストを招きながら、1年間で海について学んでいきます。

オンランでも子どもたちが退屈せず学べるように、実物を見せたり、クイズを出したりといった工夫をしています。例えば1月のサメの授業では、サメの骨やぬいぐるみ、手づくりの模型などを使って授業をしています。実際のサメを捌いて体の構造を見せたり、自分で捌いてみたいという子どもにはサメを送り届けたりもします。そして、漁獲の際、フカヒレの原料であるサメのヒレを切り取って胴体を生きたまま海に捨てる「シャークフィニング」という問題があることを手づくりの人形でわかりやすく説明するなどして、海の問題も考えてもらっています。

サメがヒレを切られたまま捨てられてしまう深刻な問題「シャークフィニング」を分かりやすく教える様子サメがヒレを切られたまま捨てられてしまう深刻な問題「シャークフィニング」を分かりやすく教える様子

おさかな小学校で教えていることは、普段通っている小学校や中学校の授業では学べない内容だと思います。授業では質問も受け付け、私も一緒に考えながら皆で海への理解を深めています。その結果、授業を受けた子どもたちから「自分も海を守る仕事をしたい」という声をもらうこともあります。EXPO 2025 大阪・関西万博でシーフードレガシーと共催した特別授業では、普段オンラインでおさかな小学校の授業を受けている子どもが会場まで会いに来てくれたりもしたのですよ。

大阪・関西万博での特別授業「親子で知ろう!サステナブルシーフード」にて 大阪・関西万博での特別授業「親子で知ろう!サステナブルシーフード」にて

——現在は東京海洋大学でも仕事をしているそうですね。

昨年10月にUmios(旧マルハニチロ)、セブン&アイHD、伊藤謝恩財団の寄附により、東京海洋大学に水産サステナビリティ寄附講座が開設され、特任助教として着任しました。これから5年間、大学院で教育研究の活動をします。MSC認証をはじめとする国際認証の専門的な知識や、消費者向けのコミュニケーションなど、今まで自分が経験してきたことを学生や社会人のみなさんに伝えていきたいと思っています。

ソーシャルデザインで、ひとりひとりができることから海を変える

——大学時代に漁師の世界に飛び込み、築地市場、MSCを経て漁業者・消費者の双方に寄り添いながら海の問題に取り組み続ける。その行動力を支えているものは何なのでしょうか。

地球の環境を考えると、問題が大きすぎて自分には何もできないという無力感に襲われることがありますよね。環境問題に興味をもちはじめた10代の頃から、楽しく環境問題に向き合うにはどうしたらいいのかをなんとなく考えていました。「海と魚」というテーマのよいところは、海は壮大で美しく、魚は美味しいというところです。みんなでおいしい魚料理を囲みながら、環境や資源の使い方について楽しく語り合うことができます。前編でお話しした『ナショナルジオグラフィック』を見たときに、そんな未来が思い描けたのです。

日本サステナブルシーフード協会の立ち上げも、入居しているシェアオフィスのキッチンで私が魚を捌いて皆で食べようという集まりを始めたことがきっかけで人とのつながりができ、実現できたことです。まず自分が楽しめるかどうかを考えながら行動することが大事だと考えています。ソーシャルデザイン(社会的な課題を自分事として楽しみながら創造的に解決し、新しい価値を創出すること)の考え方で、自分ができること・したいことから始めるのが良いのではないでしょうか。

——最後に、鈴木さんは海の環境について、どんな未来を思い描いていますか?

もちろん豊かな海があって、おいしい魚が食べられて、プラスチックごみやサンゴの白化などの問題が解決する未来が望ましいと思っています。そして、そういった大きな目標に向かって、私は海洋教育をもっと広げていきたいと思っています。地球の表面積の7割は海が占めており、陸地に住む私たちの暮らしにも密接に関わっています。例えば近年頻発する豪雨や洪水は、海水温の変化と関係があります。北極海に面したグリーンランドの氷河氷床の融解が進むと、地球全体の気候にも大きな影響を与えます。人間の未来、日本の未来を守るためにも、私たちは海について学ばなければなりません。ですが、多くの小学校・中学校で海についてほとんど学んでいないのが現状です。そこを少しずつでも変えていきたいですね。

シーフードレガシーが目標に掲げるように2030年までにサステナブルシーフードを主流にしていくためには、消費者がサステナブルシーフードを選ぶだけでは不十分で、例えば藻場を回復したり、珊瑚礁を維持したり、海のごみを減らしたり、海と山の関係を考えたりなど、各地域でできることから地球の自然を回復させる取り組みを広げる必要があると考えています。ひとりひとりが豊かな海の未来を思って、目の前の現実に向き合い、行動していく社会になっていってほしいと思います。

 

鈴木 允(すずき まこと)
1980年、東京都生まれ。京都大学総合人間学部在学中に漁師見習いの生活を体験し、大学卒業後は水産卸売会社のセリ人として築地市場で8年間働く。さらに東京大学大学院農学生命科学研究科で学びながら、非営利団体MSCの日本事務所に入り、認証プログラムと海のエコラベルを広める活動に尽力。その後独立し2019年に「日本漁業認証サポート」、2021年に「一般社団法人 日本サステナブルシーフード協会」を設立。魚を獲る人と食べる人をつなぐ活動の一環として、子どもたちに向けたオンライン授業「おさかな小学校(Fish Elementary School)」を開講中。2025年より東京海洋大学水産サステナビリティ寄附講座の特任助教

 

取材・執筆:河﨑志乃

デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。ライフスタイル、飲食、医療などあらゆる分野で執筆を行う。

 

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