ラテンアメリカ・サステナブルシーフードサミットに参加して【Part1】 〜メキシコ・メリダで出会った双子のムーブメント〜

ラテンアメリカ・サステナブルシーフードサミットに参加して【Part1】 〜メキシコ・メリダで出会った双子のムーブメント〜
600余名の参加者が集まったメリダの国際会議場にて

フードジャーナリストであり、一般社団法人Chefs for the Blue 代表理事佐々木さんにメキシコ・ユカタン州のメリダで開催された「ラテンアメリカ・サステナブルシーフードサミット」のレポートを執筆いただきました。このコラムで紹介しきれかなったエピソードを4月16日開催するイベント、Seafood Legacy Times Meet Upでお話します。ぜひご参加ください!

2025年12月3日から5日の3日間、メキシコ・ユカタン州のメリダで開催された「ラテンアメリカ・サステナブルシーフードサミット」に参加してきました。終始会場を包んでいた熱気と、そこで交わされていた議論の先進性に大きな刺激を受けました。

本サミットの主催者はCOMEPESCA(メキシコ水産・養殖業振興協議会)。2003年、メキシコ水産物の国内消費促進を目的に、漁業者、養殖事業者、流通事業者、水産コンサルティング事業者など約40の法人会員によって設立された水産業界基盤のNGOです。同組織の理事長であり、生物学者、さらにトラウト養殖事業者でもあるシトラリ・ゴメス・レペ氏によると、団体は当初、国産水産物の価値向上と市場拡大を主軸に活動してきたそうですが、2017年に彼女が団体代表に就任したことを機に、大きな転機を迎えたと言います。

筆者(右)の隣の女性がレペ氏。シーフードレガシーの花岡CEO(左)と一緒に。 筆者(右)の隣の女性がレペ氏。シーフードレガシーの花岡CEO(左)と一緒に。

レペ氏はCOMEPESCAの運営を引き継ぐにあたり、水産業の持続可能性向上こそが産業の未来を支えると考え、消費者が魚を選ぶ際の基準に「サステナビリティ」が組み込まれることを目指す取り組みをスタートさせました。そして立ち上がったキャンペーンが「#PescaConFuturo(未来のための漁業)」です。飲食業界の水産物調達を変えることを目的としたこのキャンペーンは、その後急速に広がり、今ではメキシコ全土で約250名のアンバサダーシェフが賛同する大きなムーブメントへと成長しています。シェフたちが主導し、シーフードウォッチの指標に従った国産のサステナブルシーフードを調達し、料理を通じて海の未来を語る。水産物の選び方が自国の海の未来を左右するというメッセージを、市場と消費者に直接届けているのです。

日本の海と食文化を守ることを目的にChefs for the Blueを2017年に立ち上げ、オンラインコミュニティ上のメンバーを含めると約200名の料理人と活動を続ける私は、この#PescaConFuturoの存在を知って、ただ驚くしかありませんでした。立ち上がった年が同じ、抱く危機感も同じ、そして「海を変える」という同様の志を持つシェフチーム。広い太平洋を間にして向かい合う、まるで双子のような存在です。今回レペ氏とCOMEPESCAからお招きを受け、このサミットで登壇の機会をいただいたことには、強いご縁を感じずにはいられませんでした。

COMEPESCAについてのプレゼンテーションに臨むレペ氏。COMEPESCAについてのプレゼンテーションに臨むレペ氏
魚がずっと未来につながることを意識してデザインされたロゴ。 魚がずっと未来につながることを意識してデザインされたロゴ

さて、会議の冒頭、自身も養殖事業者であるレペ氏が挨拶のために壇上に話したのは、次のようなメッセージでした。

「私たちは今、漁業という産業システム全体の変革が必要な局面にあります。自ら動き、持続可能な海をつくるための解決策を探さなければなりません。そのためには多くのステークホルダーとの協働が不可欠です」

2019年にスタートしたラテンアメリカ・サステナブルシーフードサミットは、昨年12月で開催5回目。メキシコ、チリ、コロンビア、ブラジルなど中南米を中心に、17カ国から集まった参加者は600余名。会場にはユカタン州知事をはじめ、政府機関、研究機関、漁業団体、金融機関、流通事業者、市民団体、メディア、そして多数のシェフが一堂に会していました。登壇者もさまざまな分野から150名を超えており、漁業・水産業の先につながる社会の多様さ、ひいてはレペ氏の言う「協働」をなしえる人々の輪を体現していたと思います。

社会的公正、トレーサビリティ、気候変動適応を軸に展開された20のパネルセッションでは、「水産市場におけるデジタル・トレーサビリティの実践」「持続可能な漁業への投資案件」「気候危機とバリューチェーンの脱炭素化」など、実務と未来を結ぶテーマがずらりと並んでいました。高所得者層をターゲットにしたメディアや各界インフルエンサー、ラジオパーソナリティーなどを集めた「水産分野以外のサステナビリティ推進ムーブメントから、私たちは何を学べるか」というパネルも、多くの参加者を集めていました。それぞれのパネルでの議論は抽象論にとどまらず、具体的な方法論や改善策、投資スキームにまで踏み込んでいたことが印象的でした。

登壇者はエコブロガー、ラジオパーソナリティ、社会貢献のためのフィランソロピー財団、ラグジュアリーメディアなど。登壇者はエコブロガー、ラジオパーソナリティ、社会貢献のためのフィランソロピー財団、ラグジュアリーメディアなど。

「シェフが語る水産物の新たな可能性」というテーマで登壇した10人のシェフによるパネルで上がっていたのは、次のような意見です。

水産物がどこから来るか、誰が獲ったのかを知ることが大切。それがシェフとしての責任だ」

「魚は野生の生き物。調達時のサイズ指定は難しいことを理解しなくちゃ」

「シェフが意識してメキシコの魚を食べ、使うことが国の水産業を支える」

「スタッフやゲストが自分と同じサステナビリティへの向き合い方を持っていない場合、諦めずに伝え続けなければ変わらない」

実はこれらはすべて、Chefs for the Blueのシェフたちの口からも日々聞いてきたことばかり。志ある料理人の思いは、太平洋の向こう側でもやはり同じなのだな、と改めて確認できたセッションでした。

大規模ホテルの厨房を預かる料理人から個店のオーナーシェフまで、広いメキシコ中から集まった#PescaConFuturoのアンバサダーシェフたち。大規模ホテルの厨房を預かる料理人から個店のオーナーシェフまで、広いメキシコ中から集まった
#PescaConFuturoのアンバサダーシェフたち。

さて、海に関する国際会議は毎年各地で開催されていますが、それら多くの会議の主催者は環境NGOや国際機関、政府機関やメディアです。そんな中、ラテンアメリカ・サステナブルシーフードサミットは水産業界基盤のNGOが主催し、漁業者が中心となって海のサステナビリティを推進するための国際会議であり、参加者の約半数を占めるのも漁業者や養殖事業者です。だからこそメキシコの水産業界では、海を守るのは環境のためであることはもちろん、「産業を未来へつなぐため」という認識が自然と根付いてきたのかもしれません。それはきっと、COMEPESCAが#PescaConFuturoの動きを主導しながら、社会にメッセージを届け続けてきたことの影響も大きいのでしょう。

メキシコは零細沿岸漁業者が圧倒的多数を占める国であり、その構造は日本と驚くほど似ています。大規模資本下にある企業体だけでなく、小規模漁業者がいかに持続可能な漁業・経営へと移行できるか。市場、金融、政策、消費者をどう巻き込み、トレーサビリティをどう担保するか。そこに日墨共通の課題と未来があるように感じました。

Chefs for the Blueは今後、COMEPESCAとの連携を深め、さまざまな情報を随時共有しながら日本の海の未来に向けた学びと実践を重ねていきたいと考えています。双子のように歩み始めた二つのムーブメントが、太平洋を越えて真に共鳴するとき、新しい海の未来が見えるように思うからです。

筆者が登壇したパネルは、フードエディターやジャーナリストなどの食メディアが中心のパネル。登壇を終えての一枚。筆者が登壇したパネルは、フードエディターやジャーナリストなどの食メディアが中心のパネル。登壇を終えての一枚。

 

<後編は…>

後編では、ユカタン半島の名産であるタコの話題をはじめ、メキシコの海と沿岸漁業について見聞きしてきたこと、考えたことをお伝えしたいと思います。

 

佐々木ひろこ(ささき ひろこ)
フードジャーナリスト/一般社団法人Chefs for the Blue代表理事
ガストロノミーと食のサステナビリティをテーマに国内外で取材、執筆するジャーナリスト。広いネットワークを活かし、食の社会課題解決を目指したソーシャルデザイン活動も展開する。2017年、日本の海の危機的な状況を前にChefs for the Blueを立上げ、トップシェフ達とともに日本の水産資源を守り、食文化を未来につなぐための啓発活動をスタート。農林水産省 水産政策審議会特別委員、同省「日本食普及の親善大使」選考委員など歴任。

 

 

メキシコ・メリダから日本に馳せた想い
シーフードレガシー CEO 花岡和佳男のメキシコレポート

 


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