台湾の沿岸警備隊での仕事からIUU漁業に関心を持ち、アメリカ留学を経てNGOに転身したホートゥ・チャン(Ho-Tu Chiang)さん。西洋発と受け取られがちだった水産物サステナビリティの活動で、東洋に合った広げ方を手探りしてきました。Part1ではその模索と、特に台湾で注目される人権問題の突破口となる電子モニタリングシステムの紹介についてお聞きしました。Part2では今年、2026年に予定されている東アジアでのサステナブル・シーフード関連活動とその目標について、またアジアの文化を尊重した、腰を据えた取り組みが語られます。
――サステナブルシーフードに取り組む組織の連合体であるCASS(Conservation Alliance for Seafood Solutions、水産物ソリューションのための保全連合)では2026年の1年間、EAX(East Asia Exchange Program、東アジア交換プログラム)を実施します。ここでもコアメンバーとして動かれていますが、EAXの東アジアにとっての意味をどのようにお考えですか?
私たちには多かれ少なかれ、サステナビリティについては西洋の方がレベルの高い議論をしている、という思い込みがあると思います。その中で、EAXはアジアに注目してもらい、自分たちも意識を高めるよい機会です。全世界の水産物の70%はアジアで生産されています。そして水産業をサステナブルにするには、地域の消費者も含めて、サプライチェーン全体がサステナビリティについて同じように理解する必要があるからです。
またこのプログラムは、一連のイベントで日本、中国、韓国、台湾の関係者が集まる点でも貴重な機会です。地域の主要メンバーが顔を合わせて、東アジアにおける課題や可能性を議論できることは、本当にエキサイティングな機会です。
――どのようなインパクトを期待されますか?
いつも企業パートナーと話していると、彼らはサステナビリティについて、地球の裏側で議論されている話だと感じています。自分たちホームグラウンド、ここアジアで集中的な議論が起きることで、彼ら自身がサステナビリティの主人公だと感じ、受け身ではなくみずから責任を持って、有言実行をしていく側であるという意識を持てると思います。
世界中で行われている遠洋漁業のうち、中国と台湾が6割、日本、韓国、スペインの各国がそれぞれ約1割、計5か国で9割を占める(右の説明文)。グラフは養殖を含まない漁業水揚高(トン)、右肩上がりの青線が東アジアと太平洋地域。データは国連食糧農業機関、世界銀行(2025年)他による(画像はOcean Outcomes)――EAXプログラムがめざしている成果は何でしょうか?
短期的には、東アジア地域での活発な議論の熱量を上げること自体が目標です。そのハイライトとなるTSSSは、最新の考えを交換する場としての役割に加えて、今年はこのEAXプログラムの集大成となります。そこへ向けての年間プログラムを通じて、互いに求めるものを探し、出会い、課題や経験をテーブルに出して活発な交換が起きること、より多くのパートナーシップやコラボレーションが生まれることが、私たちにとっても重要です。
そして私としては、共に活動しているパートナー企業のみなさんと、東京で開催されるサステナブルシーフード・サミット(TSSS)に参加して、アジアのサステナブルシーフードをめぐってこれだけの活発な議論が起きていることを、自分の目で見てもらいたい。そして現地参加できない仲間たちにも、多くの情報を持ち帰りたいと思っています。
専門性の高い仕事をしていると、大きな全体の中で自分の役割が見えづらくなることがあります。それを互いに共有することで、全体としての力が高まることはもちろん、お互いの活動に光を当て、個々の仕事の価値が意味づけられます。そして長期的には、サステナビリティについてEUやアメリカ市場だけでなく、日本や中国でも高い水準が求められ、持続可能な水産物についての理解が東アジア全体に浸透することが目標です。
からまった漁網をほどいたり、海中の状況を確認するために、みずから海にもぐって直接確認することもある(写真・Ocean Outcomes)――こうした長期的な目標は、O2の東アジアでの活動目標とも重なりますね。
そうです。現在の私たちの活動はサプライヤーとの取り組みが中心で、サプライヤーがバイヤー側の要求に応えられるように、情報提供や支援プログラム、研修などの形でサポートしています。ですが本来、バイヤーとサプライヤーはパートナーです。そこで私たちは、たとえばバイヤーの求める条件をサプライヤーに伝える、コミュニケーションをサポートするといった形で、変化を促そうとしています。
また別の例で、CASSが立ち上げているさまざまな動きの中に、エシカル・ツナ・コラボレーション(Ethical Tuna Collaboration)があります。マグロ・カツオ類のサプライヤーとバイヤーが、望ましいサプライチェーンのあり方や条件をめぐって議論する場です。これを私はアジアの企業何社かに紹介し、参加を勧めました。
ビジネスパートナーとの情報共有や、ソリューションについての議論は、これまで欧米のバイヤーとそのサプライヤーの間にはありましたが、これがアジアの企業同士の間で生まれたらと思います。
――そうした状況をアジアでつくり出していくには、何が必要なのでしょう?
ひとつ言えることは、文化を尊重することです。たとえば西洋では、最初に目標を設定していっせいに走りだし、誰が最初に星をつかむか、みんなで競うような形が見られます。アジアの組織は、これとは少し違うと思うのです。まず自分たちのキャパシティを確認して、みんながついて来れることを確認し、安心して次へ進みたいのではないでしょうか。どちらが正しいということはなく、文化が違うのです。
これはまさに、今年のEAXで私たちが議論しなければならないことでもあります。ここアジアでどんな取り組みが効果的か、話し合っていく必要があります。
――とても興味深いです。東アジアでの活動を進めていく上で、他にもお考えのことがありますか?
ひとつ、ぜひ長期的にやりたいと思っているのが、業界全体をエンパワーすることです。自分たちが求めるサステナブルシーフードとはどんなものなのか、水産の当事者や企業がみずから考え、議論する力をつけられたら、と思います。課題やリスクをみずから発見し、理解し、実践的に議論して解決を探る力を。
そして東アジアの水産物が「きちんと管理されたサステナブルな製品」として認められ、アジアの水産業界が、自分たちの影響力や責任をよく理解していると、世界に認知されることが、私たちの目標です。

――水産物のサステナビリティを実現する上では、多くの複雑で巨大な問題があります。そうした困難を乗り越える上でのカギは何だと思われますか?
こうした問題は、誰か一人が解決するにはあまりに複雑すぎます。一発解決はありません。だからこそ、コラボレーションが有効なのです。これは業界としても大事なことだと思います。長期的にはビジネス面でも、協働するほうが合理的だからです。みんなが参加して、安定した変化をつくることが大事です。
――最後の質問です。一昨年のTSSS2024で、シーフードレガシーは「2030年までにサステナブルシーフードを主流にする」という目標を掲げました。主流化のために必要なものは、何だと思われますか?
私が必要だと思うのは、共同で取り組むことに加え、全体としての効果を考えるコレクティブ思考です。
コレクティブとは、全体として一貫した、合理的な動き方をするということでもあります。複数のプレイヤーが協働する中では、仕事の重複や繰り返しが発生することもあります。私たちNGOもいわば、それぞれ異なる視点や専門性を持ちながら「持続可能な水産業」という大きな目的に取り組む個別の部門のように、全体としての成果をめざすべきだと思います。
そして「主流化」ですが、私は「主流」とは公式で、構造的で、組織的なものだと思います。現状ではまだ、水産物サステナビリティへの取り組みは、自発性や善意に頼っています。主流化ということは構造としてのインセンティブや、組織的なフレームワークがあって、それがマネジメントや市場のシステムを支える状態でしょう。それが長期的に維持されて、はじめて主流と言えるのではないでしょうか。かなり野心的な目標ではありますが、そこへ向けて自分たちは進んでいると思います。
――ありがとうございました。全体としての成果をめざす、という言葉が印象的でした。O2は最近、私たちシーフードレガシーともパートナーシップを結びましたね。
日本は台湾が獲ったマグロの8割を購入する巨大市場でもあり、ビジネス面では日本、台湾、韓国の3国は非常に強く結びついています。つまり共通のトピックも課題も、たくさんあるはずなのです。日本のバイヤーと台湾・韓国のサプライヤーがそれぞれ複数いる中で、互いに相手によって条件が変わるのは、本当は筋が通りません。共通の基準があることで、全員がスムーズに仕事をする助けになるはずなのです。
――一筋縄では行かない、時間のかかる目標だというお話が何度か出てきましたが、先行きについてはどのくらい楽観していますか?
全体としてはポジティブな気持ちです。私自身はこの業界と接してまだそれほど長くありませんが、その中でもすでに、変化の兆しが見えてきているからです。
海で魚を獲るということは、世界最古のビジネスのひとつです。そして今も人間が、みずからの手で直接、天然資源を利用できる、数少ない業種のひとつでもあります。それを考えれば、変化に時間がかかるのはあたりまえです。大勢が関わって、ゆっくりと前進していくことでよいのです。速度が遅いということは、うまく行っていないこととは違います。ゆっくりした変化の方が、安定しています。人々に認められながらの変化だからです。そう考えると、多くの人が取り組み始めていることが、すでに明るい兆しです。

ホートゥ・チャン(Ho-Tu Chiang)
台湾の沿岸警備隊での勤務を経て2023年にO2に参加。台湾での漁業改善プロジェクトで計画・調整・研究・技術支援を担当する。また台湾漁業局、農業委員会、その他のステークホルダーと連携し、漁業に関する会議やワークショップの運営を支援。中央警察大学 水上警察学科卒、米ニューヨーク市立大学ジョン・ジェイ刑事司法大学 国際犯罪・司法修士。
取材・執筆:井原 恵子
総合デザイン事務所等にて、2002年までデザインリサーチおよびコンセプトスタディを担当。2008年よりinfield designにてデザインリサーチにたずさわり、またフリーランスでデザイン関連の記事執筆、翻訳を手がける。
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