現場から日本の水産業を変革する「水産未来サミット」の力(後編)

現場から日本の水産業を変革する「水産未来サミット」の力(後編)
鹿児島で開催した第2回水産未来サミットの議論内容をまとめたグラフィックレコーディング

 

第6回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード(JSSA)のコラボレーション部門でチャンピオンに選出たれた「現場起点で日本の海の未来を考える『水産未来サミット』」。第1回・第2回開催を通じて、多様な立場の参加者が本音で議論し、そこから政策提言や企業との協働、教育、資源管理の取り組みなど多数のプロジェクトが立ち上がりました。従来にない全国規模の共創の場を自立的に築き、現場から水産改革を動かす仕組みを作り上げてきました。

そして2026年3月、能登で第3回水産未来サミットの開催が予定されています。そこで、実行委員長である津田祐樹さんに、Part1に引き続きお話を伺います。

能登を次の開催地として選んだ思いや現地の反応、日本・世界の水産業をどのようにみているのかをお話しいただきました。

 災害の多い日本で、あるべき地域漁業のモデルケースを考える

——2026年3月27日・28日、能登で第3回の水産未来サミットを開催されます。開催地として能登を選ばれたのはなぜですか?

水産未来サミットは、日本全国の水産の現場を巡る形で開催したいと考えています。第1回は私の地元であり震災からの復興を経験した宮城県気仙沼市で開催しましたので、第2回は、宮城県からなるべく遠いところでやりたいと思っていました。そして、第1回の宮城県では気仙沼で開催したことから気仙沼の主力産業である遠洋漁業やIUUの課題が沢山議論に挙がりました。一方で日本の漁業の未来を考える上で重要になってくる魚類養殖の課題についてはあまり議論されていなかったということもあり、第2回目は魚類養殖が盛んな鹿児島で開催することにしました。

第2回水産未来サミットは鹿児島で開催。養殖業についても議論した

 

第1回・第2回と太平洋側での開催が続きましたので、第3回は日本海側、そして日本列島の真ん中あたりでの開催を考えていたところ、令和6年能登半島地震が発生しました。地震後、私は1〜2カ月に一度、現地へ足を運び漁業の復興支援が出来ないか模索を続けていますが、被災地の復興は思うように進んでいません。この現状を全国の水産関係者にも自分ごととして見てもらいたい、と強く感じたのです。

災害が頻発する日本においては、能登のように震災から復興が進みにくい地域は、日本の中にたくさんあるのではないかと感じています。「第2、第3の能登」がいつ現れても不思議ではない。そこで、能登で水産業再生と地域の再生モデルをつくることが、災害の多い日本における今後の地域漁業のあり方に直結する気がしています。こうした意味合いから、能登がそのモデルケースとして復興を進めるためにも、第3回を能登で開催することに決めました。

——能登の漁業者は今、何を求めていますか? また、第3回 水産未来サミットが能登で開催されることをどのように受け止めていらっしゃいますか?

能登の現状は複雑で、一言で「いま何が必要」というのは難しいかもしれません。例えば、輪島市では地震によって海岸は大きく隆起し、岸壁が4メートルも持ち上がった結果、水揚げそのものが困難になっています。一方、富山湾側の富山市沖では海底で大規模な斜面崩壊が起こり津波を引き起こしたと言われており、地形の変化や海況の乱れは地域ごとに異なります。

そのほかにも、道路が寸断され物流が難しくなってしまった地域もありますし、「こうすれば良い」という答えを導き出すのは簡単ではありません。私たちが東日本大震災で被災して復興していく時もそうでしたが、外部の水産関係者にも現地に来てもらい、そこから知恵や連携が生まれ、新しい流れができることを期待しています。

第3回水産未来サミットは、震災のあった能登での開催を予定している

能登の漁業者の方々は、地元で第3回水産未来サミットの開催をとても喜んで歓迎してくださっています。第2回の鹿児島開催では、能登の漁業者の方々をご招待しましたが、「勉強になった」とおっしゃってくださいました。その場で「第3回は能登で開催したい」とご相談したところ、すぐに快諾してくださいました。開催が地域の励みになるという声も多く、私も能登での開催を楽しみにしています。

——そんな能登で開催する第3回 水産未来サミットは、どのようなテーマを想定していますか?

具体的なプログラムはまだ検討中ですが、能登開催を機に「自然災害や人口減少が進む日本で、地域が自立した漁業をいかに確立するか」という議論ができればと思っています。

また、第1回・第2回は開催側がテーマを設定してパネルディスカッションを行いましたが、参加者から「自分の取り組みを発表したい」という声も寄せられるようになったので、参加者自身が登壇・発表できる場を用意したり、同じような課題に向き合う参加者同士が議論を深められるような場づくりも考えています。

日本の食料問題の鍵にもなりうる水産業を守る

——第3回 水産未来サミットは、日本の未来を見据えた内容になりそうですね。津田さんは今後の日本や世界の水産業にどんな変化や可能性を期待していますか?

私は、水産業は日本の「食料安全保障」に直結する問題だと思っています。世界の人口が増え続ける中で、現在は食料を輸出している国々も、いずれ自国の人口が増えれば当然輸出を控えて自国に食料を回すでしょう。そうなれば、食料自給率が低く輸入に頼っている日本にとって大きなリスクです。

それに、望ましい状況ではないもの、世界的に分断が起きかねない状況の中で、「自国の食料を自国で確保する力」を持つことは重要です。その点で、日本の海は、本来非常にポテンシャルの高い資源だと思うのです。日本の水産資源をかつての豊かな状態に戻すことで、国内供給を安定させるだけでなく、余剰分を世界に供給する責任を果たすことが可能になるのです。だからこそ、日本の水産業をどう再生し守っていくか、水産未来サミットでも、こうした視点を共有しながら、現場からできる具体的なアクションを形にしていきたいと考えています。

 

大切なのは「対話と調和」。お互いを理解することで、できることがある

——日本の水産業をどうやって守っていくか、多くのステークホルダーと考え行動していくために、津田さんが心がけていらっしゃることはありますか?

私たちが大切にしているのは、「対話と調和」です。水産業を変えようと活動をしていると、「旧体制を批判している」「対立しようとしている」と誤解されることも少なくありません。ですが、私たちが求めているのは立場を超えた理解と協力です。

そのため、水産未来サミットでも、「誰が悪い、何がいけないと批判するのはやめましょう」と呼びかけています。今はお互いの事情を知らないだけで、理解し合えば協力できることが必ず見えてきます。

そして、先ほどもお話ししたように、水産業は日本や世界の食料問題に対して高いポテンシャルがあると私は考えています。そのため、水産庁に限らず国の政策関係者、研究者にもこの対話に参加していただきたいと思っています。今後の水産未来サミットにも、より幅広い立場の方が参加し、共に日本の水産の未来を描ける場にしていきたいと思っています。

 

津田 祐樹(つだ ゆうき)

1981年、宮城県石巻市生まれ。グロービス経営大学院 経営学大学院修士課程修了。家業の水産小売・卸を営む中、東日本大震災に遭遇。地元水産業の後継者不足などの課題を解決するため、若手漁師ら数名と2014年に「一般社団法人 フィッシャーマン・ジャパン」を発足。2016年、フィッシャーマン・ジャパンの販売部門「株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング」代表取締役社長に就任。2024年より「水産未来サミット」を開催し、2026年3月には能登にて第3回開催を予定している。

 

取材・執筆:河﨑志乃

デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。 

 

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