ファミリーレストラン業界では初めてロイヤルホストがMSC認証水産物を使ったメニューを発表するなど認証水産物の利用が年々拡大しています*1。とはいえ、導入の検討はしているものの、調達の安定性や製品の質、コストに不安を覚えている方も多いかもしれません。
そこで今回、2026年4月から、ランチメニューで使われる全ての水産物で認証水産物を使用するクロスホテル京都の取り組みをご紹介します*2。
クロスホテル京都は、オリックス・ホテルマネジメント株式会社が全国で展開している事業ブランド「ORIX HOTELS & RESORTS 」の14の宿泊施設の一つです。同社は、2023年8月にMSCとASCのCoC認証を取得の上、2024年4月から、全国の旅館・ホテルのビュッフェレストランでMSC認証水産物の提供を開始しました。宿泊施設として、複数の宿泊施設で認証水産物の提供を開始したのは同社が初となります*3。こうした取り組みが評価され、2025年8月に「MSCジャパン・アワード 2025」にて「特別賞」を受賞しました*4。
そして2025年、クロスホテル京都のレストラン&バー KIHARU Brasserieが冬のメニュー、新年のランチビュッフェに認証水産物を取り入れました*5。さらに、2026年4月からはランチメニューで使用する全ての水産物が認証水産物になりました*2。
加速度的に認証水産物を導入することができたカギは何なのでしょうか。
クロスホテル京都、料理長の菅原栄崇さんとホテルの購買部門などを管掌されているオリックス・ホテルマネジメント株式会社、施設運営部長の千葉陽二郎さん(写真下)にうかがいました。

認証水産物を取り入れやすかった理由として菅原さんがまず挙げたのが「本部の購買部門の協力」。
「一品だけ認証水産物を取り入れているところは多くありますが、全部揃えるとなると大変です。そこは本部の購買部門が頑張ってくれたので、現場としては素材を選ぶだけでした」
施設運営部長の千葉さんは「ビュッフェは特に量と安定供給が大事です。またクオリティーやコストも大事です。これらの要素を満たせるかどうか、サプライヤーとの調整にかなり時間をかけました」。シェフが自信を持って素材選びができる背景には購買部門の地道な努力がありました。
とは言え、最近は気候変動による影響で思ったように魚が獲れなかったり、魚種が変わるといった変化もあるのではと聞くと、「確かにいつも調達している魚が獲れなくなったり、質が変わったりすることもあるのでバックアップも用意しています」。
いい素材を用意するだけではありません。同社では年に2回、全国にある直営施設の全料理長と購買担当者を東京に集め、本部の購買部門とともに食材の展示会をやったり、MSCやASCなどの認証水産物についての勉強会をしたりしています。「こういう時代だからこそ直接会うことが大事」と千葉さん。丁寧なコミュニケーションが実行につながっていることを実感しました。
二つ目のカギは冷凍認証水産物の質の良さ。ひと昔前であれば、冷凍ものというと水分がでたり、臭みがあったりすることもありましたが、今は技術が発達し「とても使いやすい」と菅原さん。
「マグロでも獲ったその場でマイナス60度の冷凍にしているので、長い間冷蔵されたものよりすごくいいです。今はもう、冷凍=美味しくないという概念は払拭される時代だと思います」。
日本のMSC認証取得漁業の割合は世界全体のわずか4%未満。そのため、認証水産物を選ぼうとすると冷凍品が多くなりますが*6、冷凍品の品質が上がれば、選択肢が増え、メニューの幅が広がります。
「冷凍が使えると量が確保できるメリットもあります。朝は多い時だと400食ぐらい出るのですがそうなると一定の量が必要になります」
質と量。ホテルであれば当然、その両方を満たしていく必要がありますが、今や、認証水産物はその両方を満たすようになってきているというわけです。

そして三つ目のカギは全てを認証水産物にしてしまうこと。
認証水産物を扱うにあたっては、認証水産物と非認証水産物がまざらないよう管理されていることを証明するCoC認証を取得する必要があります。同社は2023年にCoC認証を取得しました。その後、クロスホテル京都のランチメニューで提供する魚介類は、すべて認証水産物になりました。
「多忙な厨房で認証水産物と非認証水産物がまざらないようにするのは大変です。全て認証水産物にすることによって手間が軽減できました」
スムーズに展開してきたように見えますが、現場で働くみなさんの抵抗感はなかったのでしょうか。
「会社全体で数年前から少しずつ取り組んでいたのでそういうのはなかったですね。扱う種類や量が増えたりしてきたな、というぐらいで困ることはなかったです」
導入、そして継続にあたっては、「思い」だけではなく、現場で実際に働く方々の負担感・抵抗感がないことが大切です。その障壁を、すべてを認証水産物にすることで軽減するという逆転の発想で工夫されたことで、導入・継続が実現できていることがうかがえました。

現場で認証水産物の導入をリードしている料理長の菅原さん
とはいえ、現場で認証水産物の導入をリードしている料理長の菅原さんの影響も大きいものがあります。
元々、北海道でシェフをしていた菅原さん。40代になり、大阪へ。函館のイカや根室のサンマなど年々、昔獲れていた魚が獲れなくなってきていることを厨房でひしひしと感じていました。そんな中、コロナ禍に。料理を通じて、何かできることはないか、と調べる中で東京のレストランがMSCやASC認証水産物を扱っていることを知りました。
その後、縁あってクロスホテル京都のシェフに。メニューを考える中で、認証水産物を取り入れることを思いつきます。
「東京ではサステナビリティに取り組むレストランは多くありますが、京都はまだまだ少ない。ぜひ地元、京都の皆さんにも認証水産物を知ってもらうきっかけになればと思います」
施設運営部の千葉さんにも今後の展望をうかがってみました。
「これからも全国にある「ORIX HOTELS & RESORTS 」の本部購買部門として、愚直に取り組むことで施設が選べる魚種を増やし、サステナブルシーフードをしっかり普及させていきたいです。日本の認証水産物はまだまだ少ないですが、今後は「国産」「認証水産物」というダブルの付加価値を提供していきたいと思っています」。
今回の取り組みについて、WWFジャパン 自然保護室 海洋水産グループの滝本麻耶さんは「『サステナブル』なものの提供や消費は、『環境』のためだけでなく、『安心・安全』も含まれているという考え方を、どう具現化していくかを丁寧に考え、またそれを一過性のものや高価でなかなか手が届かないものではなく、多くの人が手に取れる価格・場で継続していくことを実直に目指している取り組みだと思います。
日本では、MSC・ASCなどの認証ラベルの認知度は、徐々に上がってきているとはいえ、欧米に比べて認知度も普及度もまだまだ低い現状があります。そのような現状にあって、知られていないから、取り扱わないという選択になってしまう傾向がある中、知ってもらうために取扱いを増やし、またメニューや看板での表示を増やし伝えていくという選択を、オリックス・ホテルマネジメント株式会社ならびにクロスホテル京都ではとられています。このような取り組みが増えることで、消費者側の認知また選択を増やし、ひいては調達側の提供も増えていく、という社会全体で『サステナブル』な選択ができる場が広がっていくことが期待されます」と述べています。
認証水産物の導入は、もはや特別な取り組みではなく、ちょっとした工夫と連携によって“当たり前”にできる選択肢になりつつあります。クロスホテル京都の実践は、その一歩を踏み出すための具体的なヒントを私たちに示しているといえるのではないでしょうか。
今回ご紹介した取り組みに続く事例をご紹介できることを楽しみにしています。
クロスホテル京都公式サイト:https://cross-kyoto.orixhotelsandresorts.com/
取材協力:WWFジャパン
文/シーフードレガシー Chief Communication Officer 有川 真理子
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