2025年で11回目を迎えたサステナブルシーフード・サミットは、初めて東京を離れ、サステナブルシーフード・サミットin 大阪(TSSS2025)が、10月1日、2日に開催されました。開催週には大阪・関西万博会場のパビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」でも、連携イベント「選んで守るサカナの未来 Week」が行われました。
TSSS2025の開会にあたり、主催者を代表して、日経BP専務取締役の浅見直樹さんとシーフードレガシー代表取締役社長の花岡和佳男が行った特別対談の中で、浅見さんが、「IUU(違法・無報告・無規制)漁業」という言葉の日本国内での認知度の低さを問題提起。ウェブ(Google)上での検索数が、英語では月に数千から1万件に達し、しかもこの2~3年で急増しているのに対し、日本語では月にわずか100~300件程度にとどまるという現実を示しました。花岡は現実を受けとめつつ、「サステナブルシーフードを主流に」という2030年目標の達成に向けた様々な取り組みと、その先に描く社会のビジョンを語りました。

初日は基調講演を皮切りに、各国のIUU漁業対策、人権侵害と企業の責任、気候危機時代の資源管理、小規模漁業の未来など多岐にわたるテーマを、国内外から集まった官民の水産業関係者が議論しました。
基調講演では、日本の水産庁、カナダの漁業海洋省、サラヤ株式会社が、海の問題への近年の取り組みを語りました。また、NIKKEIブルーオーシャン・フォーラムの提言について、トークセッションが行われました。
水産庁 藤田仁司長官
水産庁は、漁業が将来にわたり社会的・経済的な役割を継続的に発揮するための「漁業強靭化計画」を策定しています。この計画は、海洋環境の急激な変化を捉える資源調査・評価の推進、漁業規制の見直し、新たな操業の推進など国内の水産業への取り組みに加え、IUU漁業を阻止するための輸入管理措置なども含みます。
水産庁長官の藤田仁司さんは、「今後この計画を着実に実施しつつ、養殖業や水産加工業、水産業全体についても強靭化計画を策定し、強い水産業と豊かな浜の実現を目指す」と述べました。
基調講演では、水産庁の藤田仁司長官が、漁業強靭化計画の拡大とIUU漁業対策に向けた日本の取り組みを紹介カナダ漁業海洋省 戦略政策担当 上級次官補 ニーアル・オディー博士
カナダは海洋資源の保全と持続可能な利用に尽力。地域漁業管理機関(RFMO)における漁業活動を統制し、IUU漁業に対処するための規則の策定を支持しています。そして今年も、IUU漁業対策のための多国間ミッション「Operation North Pacific Guard」で空中・公海のパトロールを実施。また、パートナー諸国が自国海域で違法行為を監視・摘発できる「Dark Vessel Detection」を展開しています。
カナダ漁業海洋省のニーアル・オディー博士は、「IUU漁業対策の国際協力を強化し水産業を保護するために、IUU漁業アクションアライアンス(IUU Fishing Action Alliance)の存在が重要だ」と強調しました。
サラヤ代表取締役社長兼大阪・関西万博パビリオンブルーオーシャンドーム名誉館長 更家悠介
日本の長崎県対馬市に漂着するごみの問題解決に向けて「対馬モデル(循環経済モデル)」研究開発連携協定を結んだサラヤ株式会社は、2024年に株式会社ブルーオーシャン対馬を設立し、漂着ごみの資源化などの取り組みを行っています。
大阪・関西万博ではパビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」を出展。TSSSの紹介などを行った「選んで守るサカナの未来Week」をはじめ、さまざまなフォーラムや展示を通じて海の問題を幅広く発信しました。サラヤ代表取締役社長の更家悠介さんは「さらに2030年に向けて、自社商品に再生プラスチックを使うなどの取り組みのほか、モーリタニアでの持続可能な漁業に向けた活動なども展開している」と紹介しました。
<登壇者>
・東北大学教授 兼 日経ESGシニアエディター 藤田香
・公益財団法人笹川平和財団 理事長 角南篤
・シーフードレガシー 代表取締役 花岡和佳男
2023年に設立されたNIKKEIブルーオーシャン・フォーラムは、2025年6月に開催された第3回国連海洋会議(UNOC3)や大阪・関西万博で提言を発表しました。
ファシリテーターを務めた東北大学教授 藤田香さんとこれまでの歩みや提言の特徴を紹介、笹川平和財団 理事長の角南篤さんは「グローバルなメディアである日経のプラットフォームで海洋問題に全面的に取り組み提言を行ったのは画期的だ」、フォーラムの水産資源分科会のリーダーを務めるシーフードレガシー代表取締役社長の花岡は「世界の水産システムの中で日本が主要な市場国としてどう貢献できるかを意識できた」と述べました。
IUU漁業は、過剰漁獲や環境破壊を引き起こして資源管理に悪影響を与えており、さらに労働者の人権侵害の温床にもなっています。モデレーターを務めたWWFジャパンの植松周平さんは、「IUU漁業の規模は年間1~2.5兆円に達し、日本の輸入水産物の約3割がIUU漁業由来との研究結果もある」と警鐘を鳴らし、IUU漁業由来の水産物の流入を阻止するEU、米国、日本、韓国の輸入管理制度について、各パネリストが報告しました。
<登壇者>
・EU IUU連合 コーディネーター トム・ウォルシュ
・Oceana キャンペーン・ディレクター兼シニア・サイエンティスト マックス・バレンタイン
・水産庁 漁政部加工流通課 水産流通課適正化推進室長 古川智香子
・韓国海洋水産部 遠洋漁業課 政策アナリスト イ・ジュヨン
・WWFジャパン 自然保護室 海洋水産グループ IUU漁業対策マネージャー兼 水産資源管理マネージャー 植松周平(モデレーター)
EU IUU連合のトム・ウォルシュさんは、2008年にEUがEU IUU規則の採択を通じて世界に先駆けて打ち立てた「EU漁獲証明制度」について説明。EU漁業管理規則の改正に伴い、2026年1月からEU漁獲証明書で求めるデータが拡充され、また、EU漁獲証明制度に関わるすべての生産者を管理するためのデジタルシステム「CATCH」が稼働します。ウォルシュさんは、2025年に発行された新しい報告書に基づいて日韓欧米の輸入管理制度を比較し、制度間の調和が取れていないことが「IUU漁業で漁獲された水産物が世界市場に入り込むリスクを高める」と警告しました。
Oceanaのマックス・バレンタインさんは、米国でのIUU漁業対策のために、困難な道のりを経て、2016年に導入された水産物輸入監視プログラム(SIMP)について説明。その後もSIMPに反発する業界団体からプログラムの廃止を求める訴訟を起こされたり、廃止を含む包括的な見直しの提案が出されたりしました。そのような危機を乗り越え、2024年にはSIMPの改善に向けて全魚種への拡大などを盛り込んだ行動計画が発表されました。バレンタインさんは、現政権下の米政府機関の稼働状況に懸念を示しつつも、「この行動計画が前進することを期待している」と述べました。

水産庁の古川智香子さんは、2022年施行の水産流通適正化法を紹介。現在4魚種を対象とし、17の主要データ要素(以下KDE)のうち12を収集している同法の下、輸入管理制度の効率的・効果的な運用のための検討を進める古川さんは、「円滑な生産物流通の維持と制度の運用の両立を図る必要がある」と述べました。
韓国海洋水産省のイ・ジュヨンさんは、2024年10月に改正された漁獲証明制度(CDS)について報告。「新しい制度により、韓国は17のKDEの収集を求めるEU IUU連合の推奨を満たす最初の市場国となった」と述べたイさんは、さらに韓国で進めているAIやビッグデータを活用したスマート版漁業監視システムの開発も紹介しました。
パネルディスカッションでは、すべてのステークホルダーが対話のテーブルに着くこと(バレンタインさん)や消費者の理解(古川さん)も必要であることが指摘され、なにより各国制度間の調和(=ハーモナイゼーション)の重要性が強調されました。ウォルシュさんは「パッチワーク状の制度体系は違法操業者が悪用できる抜け穴を残す」と指摘し、イさんも「統合され相互運用可能なシステムが必要」と述べました。
モデレーターの植松さんは「規制のハーモナイズだけでなく、ステークホルダー全員の思いや考えもハーモナイズしていかないと進まない」とセッションをまとめました。
台湾の遠洋マグロ漁船で働くインドネシア人労働者は、8〜10ヶ月も船上でWi-Fiにもアクセスできず助けを求めることもできず、週に1人の割合で命を落としている――そんな現実に衝撃を受けたセッションで、モデレーターを務めたヒューマンライツ・ナウの小川隆太郎弁護士は、企業の人権デューデリジェンス(DD)の重要性を強調しました。各パネリストは、台湾マグロサプライチェーンにおける人権侵害の実態、労働組合の役割、そして企業に求められる対策を報告しました。
<登壇者>
・Global Labour Justice シニア・シーフード・キャンペーン・コーディネーター ザカリ・エドワーズ
・Forum Silaturahmi Pelaut Indonesia(FOSPI) アフメッド・ムドザキル
・日本生活協同組合連合会 ブランド戦略本部サステナビリティ戦略室 松本哲
・Dignity in Work for All シニア・法律・政策アドバイザー ウィリアム・グティエレス・ラガマット
・認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局長 小川隆太郎(モデレーター)
インドネシア船員フォーラム(FOSPI)元会長のアフメッド・ムドザキルさんは、台湾の遠洋マグロ漁船で働く労働者の人権侵害の実態を証言し、漁船員シクリさんの悲惨な例を紹介しました。網を上げては下ろす長時間の労働に耐え、適切な休憩もなく、病気になっても船長は陸に戻ることを拒否し、使用期限切れの薬しか与えられなかったシクリさんは、乗船して7ヶ月目に、船上で28歳の若さで亡くなりました。
「もし、その船にWi-Fiの設備があったならば、他の船員もしくは本人が、我々、もしくは台湾の他の機関、団体に、このような医療の問題が起きているということを報告できたはず」とムドザキルさんは訴えます。
台湾では現在19,700人の外国人労働者が漁業に従事し、その大部分がインドネシア人です。雇用主の一存で契約破棄や職を失うリスクがあり、給料未払いや虐待の問題も放置されます。Wi-Fiにアクセスできず、家族とも連絡が取れません。2022〜2024年に63件の死亡事件が発生し、うち33人が海上で行方不明になりました。ムザドキルさんは、Wi-Fiを設置するだけでなく、実際にアクセスできることが重要だと強調し、「船員たちを海の中で孤立させてはいけない」と繰り返しました。

Global Labour Justiceのザカリ・エドワーズさんは、企業の人権DDは、「人権侵害が自社のビジネスに与える影響を評価」するのではなく、「自社のビジネス活動が人権に与える影響を評価」すべきだと指摘。そのためには労働組合と法的拘束力のある協定を結ぶことが最も効果的であり、具体策として、漁船で働く労働者の権利のために今すぐWi-Fiを求めるキャンペーンを紹介しました。
台湾の漁船でWi-Fiにアクセスできる労働者は2%以下とみられます。自主的な設置では不十分で、行政院農業委員会漁業署による強制法か、企業との法的拘束力ある合意が必要です。エドワーズさんは、「日本企業はウェブサイトにグリーバンス・メカニズムがあると説明するが、船上でWi-Fiにアクセスできなければ意味がない」指摘し、「日本は、台湾からの最大のマグロ輸入国として、Wi-Fi設置の要求を実現する大きな影響力を持っている」と訴えました。
日本生活協同組合連合会の松本哲さんは、2023年に人権方針を策定し取引先1,200社にCSRアンケートを実施していると報告。しかし、「マグロのサプライチェーンは調達国が多岐にわたるため、トレーサビリティの確保が難しく、国の施策や業界全体で声を上げることが重要だ」と述べました。
Dignity in Work for All (DIWA)のウィリアム・グティエレス氏は、水産業における強制労働、債務による束縛、過度な労働時間など多岐にわたる人権問題を指摘。「企業の管理システムは製品や品質には存在するが、人権の管理システムは初歩的で、より積極的な労働者中心のアプローチが必要だ」と結論づけました。
気候危機により、種の分布の変化などが予測され、海洋生態系、水産業、地域社会にこれまで以上に大きな影響を及ぼすことは必至です。これを踏まえ、国際水域における水産資源管理はどうあるべきかを議論しました。
<登壇者>
・ソロモン諸島国立大学学長 トランスフォーム・アコラウ教授
・モルディブ共和国 漁業・海洋資源省 フセイン・シナン
・農林水産省顧問 よろず水産相談室代表 宮原正典
・ウーロンゴン大学 オーストラリア国立海洋資源安全保障センター クエンティン・ハニッチ(モデレーター)
ソロモン諸島国立大学のトランスフォーム・アコラウ教授は、「気候危機により越境漁業(国境を越える漁業)の管轄が複雑になる中、インド太平洋地域にはデータ収集や監視の能力を持たない国も多く、国家間の資源格差の拡大が予想される」と指摘。
この地域ではマグロ漁業の漁業管理における協力に関する「ナウル協定」があり、「太平洋諸島フォーラム漁業機関」による資源監視などが行われていますが、教授は「これらの取り組みを世界的に応用し、変化に適応する法制度、国家・分野横断的な協力、持続可能な資金の確保によって資源の回復を目指すべきだ」と述べました。

モルディブ共和国では、漁業が輸出を牽引して外貨をもたらし、国家経済において中心的役割を果たしています。多くの雇用を提供し、就労者の5人に1人が漁業者で、EEZ(排他的経済水域)で伝統的な一本釣り漁法を用いたマグロ漁を行っています。
気候変動の影響拡大について、モルディブ共和国 漁業・海洋資源省のフセイン・シナンさんは、2024年から顕著になった海面水温の上昇が、生き餌の入手可能性やマグロの回遊パターンの変化に影響を与えていることを強調しました。「この事態を回避するため、データの共有によるマグロの移動予測、気候変動対策の持続的進化に加えて、伝統的漁法を変革させる必要性もある」と述べました。
日本周辺は世界平均に比べて海面水温の上昇率が高く、サンマ、スルメイカ、サケなど沿岸の漁獲量が大きく減少。マサバやマイワシも再生産能力の減少が進み、資源悪化に歯止めがかからないことが危惧されています。
農林水産省顧問の宮原正典さんは、「このような問題に対する解答がまだないことが一番の問題である」と指摘。日本周辺の海は国境が明確でない中、「今何が起きているか」を知るためのデータを緊急に収集した上で、近隣の公海漁業国と問題を共有し、協力することを求めました。
モデレーターを務めたウーロンゴン大学のクエンティン・ハニッチさんは国際水産管理の専門家として、「気候変動による種の分布の変化が予測される中で、越境漁業に適応する管理が重要である。有限な海洋資源の持続性を確保するためには、主権国家間・企業間の効果的な協力が不可欠だ」と締めくくりました。
東・東南アジアで、食料安全保障や地域経済維持の観点から小規模漁業の重要性が高まる一方、その脆弱性が課題になっています。小規模漁業の持続可能性、さらにはその特長である多様性をいかに高めていくか。デジタルトランスフォーメーション(DX)とサステナブルファイナンスの活用を含め、小規模漁業と地域社会を活性化させるための道筋を考えなければなりません。
初日のしめくくりとなったこのセッションでは5名のパネリストを招いて、日本の小規模漁業の現在と、次の世代への継承に向けた課題への取り組みについて表し、日本の小規模漁業の現在と、次の世代への継承に向けた課題への取り組み方について議論しました。
<登壇者>
・フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長 津田祐樹
・UMINEKOサステナビリティ研究所代表 粂井真
・古野電機 舶用機器事業部 DX推進部 水産DX推進課課長 狭間拓人
・笹川平和財団 上席研究員 小林正典
・International Pole and Line Foundation Foundation (IPNLF) 専務取締役 マーティン・パーべス
・シーフードレガシー代表取締役社長 花岡和佳男(モデレーター)
セッション登壇者全員で、持続可能な漁業の実現をアピールしたお魚パネルで記念撮影
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