マリン・トラスト
CEO フランシスコ・アルドン
マリントラスト認証を運営する企業のCEOを務めるフランシスコ・アルドンさん。Part 1では、養殖飼料における海産原料の戦略的な重要性と、マリントラスト認証が果たす役割について伺いました。
Part 2では、わずか10年で世界の海産原料生産の48%をカバーするまでに成長したマリントラストの戦略に迫ります。その成功の鍵は、世界最大の生産国ペルーにありました。そして今、日本市場への期待が高まっています。わずか9人のチームで37カ国をカバーする組織運営の哲学、そして故郷ペルーへの想いを語っていただきます。
――2014年以来、約10年間で、世界の海産原料生産の48%がマリントラスト認証を取得しています。マリントラスト認証を世界的に広める際、最初からうまくいったのですか?
はい、最初からうまくいきました。なぜだかわかりますか?

世界の主要生産者が認証を望んだからです。まず最初に、ペルーに行きました。ペルーは世界の魚粉と魚油の生産量の最大20%を占めています。ペルーはこの分野では世界最大の生産国なんです。素晴らしいカタクチイワシ漁業があり、年2回の漁期があります。魚粉と魚油を作るために、1漁期に約160万~250万トンのカタクチイワシが漁獲されています。
ペルーのほか、米国、デンマーク、アイスランドで始めました。それだけで初年度に23%を達成しました。翌年、イギリス、チリ、ノルウェーも加わって38%。その後タイ、モロッコ、エクアドルなどの国々が加わって、48%に到達したのです。鍵はペルーのカタクチイワシです。

――ペルーの生産者にマリントラスト認証を取得するよう説得するのは難しくなかったのですか?
いいえ、逆です。彼らのほうで望んだのです。責任を持って調達していること、正しいことをしていると証明するために。そして今、BAP、GLOBAL G.A.P.、ASC飼料基準など、マリントラストを認めている他の認証基準のおかげで、より多くの魚粉工場が参加してきています。私が「マリントラスト認証を取得しなければならない」と言っているわけではないんです。飼料メーカーの側が、海産原料を調達する際に、購入先にマリントラスト認証の取得を求めているのです。
――私たちはたくさん魚を食べていますが、現在のところ、日本は約80%が天然漁業で、養殖が占める割合は20%程度です。
しかし、世界的な生産量では養殖が増加しています。51%が養殖で、今や漁業を上回っています(*3)。
――そうですね。日本にはまだマリントラスト認証を取得した魚粉生産者はいないということですが、今後、日本の海産原料産業にどのように参入していく方針ですか?
マリントラスト認証を得るために、最初に評価される必要がある要素は漁業です。日本の漁業は、5年ほど前に漁業評価のプロセスを経験したところです。
しかし、日本の魚粉工場には言語の壁などの課題がありますし、仕事の仕方も異なります。使った魚の種類や量などについて欧米のように記録をしっかりとつけていません。日本の魚粉工場は、認証取得に向けて、まだまだ準備段階にあります。
――そして今年、国際魚粉魚油機構(IFFO)の年次会議が初めて東京で開催されます。この会議に何を期待していますか?(*4)
私たちが期待しているのは、IFFOメンバーが日本の状況を理解することです。というのも、IFFOは日本のメンバーを会員に迎えたいと思っているからです。現在、ニッスイ、三井物産、兼松などの日本企業がIFFOのメンバーです。これらは飼料も扱う大手のグローバル企業ですが、IFFOが望んでいるのは、より多くの日本企業、とくに魚粉生産者をメンバーに迎えることです。
――それは双方にとって良い機会ですね。
その通りです。まさに日本の魚粉工場にとっても、世界が何を要求しているのか、グローバルな状況を理解する機会になります。
2025年11月、初の東京開催となったIFFO年次大会に登壇したフランシスコ・アルドンさん――マリントラストでは何人働いているのですか?
9人です。
――9人で37カ国ですか! 小さなチームでグローバルに多くのことを組織するコツは何でしょう?
システムです。会社内にシステムを構築することです。社員がやるべきことができるように、手順を整え、ガイダンスを用意しておく必要があります。システムというのは、機械があるということではありません。人々が自分の役割を理解し、自分が何をする必要があるかを理解し、説明責任を持つということです。
彼らは一人ひとり、自分が何をする必要があるかを知っていますし、他の人が何をしているかも知っています。自分の役割がどこでつながるかを理解しており、全員がうまく連携しています。それがマリントラストのあり方なんです。

――CEOとして、チームにどんな人を求めていますか?
機転が利く人です。いつも私のところに来て「何をすればいいですか?これは何ですか?」と聞いてくる人は要りません。問題があったら解決策を見いだして、私のところに2つくらいの解決策を持って来る。そしてどの解決策を採用するか議論する。解決策の決定はあなたがする。機転が利いて、積極的で、チームに合う人。それがとても重要なことです。
――あなたが初めて参加した昨年のTSSS 2024はシーフードレガシーにとって10回目のTSSSでした。そこで「2030年までにサステナブルシーフードを主流に」という目標を掲げました。この目標を達成するために何が必要だと思いますか?
バリューチェーンの異なる関係者の期待を適切に管理し、明確な道筋を共有することです。例えば、ペットフード業界からは、原料となる魚油の由来をすべての漁船まで遡って追跡したいという要望があります。これは重要な目標ですが、一度に実現することは困難です。
大切なのは、明確な目標と道筋を設定し、小さなステップで着実に進歩していくことです。「今すぐには難しいが、将来的には実現できるよう協力して取り組んでいこう」という姿勢で、関係者全員が同じ方向を向いて、段階的に前進していくことが、2030年の目標達成への鍵だと考えています。
——サステナブルシーフードを主流化するためにはIUU漁業などの問題を乗り超えていかなければなりません。改めて、どのようにしてこのような難題を乗り越えていけば良いのでしょうか。
マリントラスト認証は環境基準ですが、魚粉工場では人権を含む社会的側面もカバーしており、苦情処理メカニズムや労働者の法的地位などを確認しています。漁船レベルでも社会的側面への取り組みを開始していますが、要求が多すぎると実現が難しいのが事実でもあります。

そのバランスを取りながら、現時点で可能かつ現実的なことから始め、段階的に基準を強化していく方針をとっています。例えば、マリントラスト認証では常に基準を改訂し、要素を強化しています。そして、バージョン2からバージョン3へといった大きな見直しを、5年ごとに実施しています。環境の変化や新たな問題に適応しながら、基準を進化させ続けることが重要です。これは「適応のための変化」であり、基準を生き続けさせるために必要なプロセスなのです。

――仕事でペルーに行く機会はあるのですか?
毎年行っています。ペルーは私たちにとって非常に重要な市場ですペルーだけでなく、チリやエクアドルなど南米全体もそうです。それに、兄弟たちも父も住んでいますし、友人たちもいます。私は海外に住んでいて、マリントラストとしては世界市民です。でも、ペルー人として、同胞との良好な関係を保っています。ペルーは海産原料生産の大国ですから。
――ペルー人としてのアイデンティティも大切にされているのですね。
ペルーには3つの地域があります。海岸地域、アンデス、そしてジャングルです。だから良い魚がいるし、4,000種類のジャガイモと70種類ものトウモロコシがあります。ジャガイモはペルーから世界に広がりました。そして各地域に30種類の異なる料理があります。

ペルーは素晴らしい場所です。初めて仕事として、ペルーに帰った時に仕事面でも人間関係を築いて、それが今につながっています。このような形で母国を訪ねる機会があることは幸運です。それを自分で実現させたのです。ペルーの海の近くで育ち、魚が大好きで、魚を守りたい。でも食べ続けたいとも思っている。それが私の原点です。これから先の人たちのためにも魚が存在し続けるように、その思いを持ち続けていきます。
ペルーの海の玄関口である港湾都市カヤオから太平洋を望む。
フランシスコ・アルドン(Francisco Aldon)
海産原料分野で15年以上の経験を持ち、2020年よりマリントラストのCEOを務める。IFFO(海産原料機構)の研究員としてIFFO RS(現マリントラスト)の初期開発段階から参画し、組織の管理・科学業務を担当してきた。海産原料のサプライチェーンにおける責任ある調達、持続可能な生産慣行、デジタルトレーサビリティに関する専門家として、GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)の監督委員会、GSSI(世界水産物持続可能性イニシアチブ)の運営委員会メンバーを務める。ペルーのラ・モリーナ国立農業大学で水産工学の学位を、クイーン・メアリー・ロンドン大学で海洋生態学および環境管理の修士号を取得。
◾️TSSS2025セッション「責任ある養殖飼料調達で拓く養殖の未来」アーカイブ動画はこちら
取材・執筆:井内千穂
主に科学技術と文化に関する記事を日本語と英語で執筆。中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2024年、法政大学大学院公共政策研究科サステイナビリティ学修士課程修了。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。
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