【連載】第4回 国の一括管理で全体最適化を-これからの日本の水産資源管理を考える

【連載】第4回 国の一括管理で全体最適化を-これからの日本の水産資源管理を考える

【シリーズ これからの日本の水産資源管理を考える】
第4回は、有限会社泉澤水産 代表取締役、泉澤宏さんに寄稿いただきました。泉澤さんは、岩手県釜石市の漁場を中心に、宮城県、静岡県、北海道など全国10ヶ所の漁場を経営し、各地で日本伝統の漁法、定置網漁業を行う他、釜石ではASC認証を取得したサクラマスの養殖などにも取り組んでおられます。また、70年ぶりの漁業法の改正議論もリードされるなど、日本の水産業を代表する生産者として注目され続けています。

1.日本の水産資源管理の問題点

資源評価と実態が乖離 漁業者の疑問が増加

資源管理の基礎となるTAC魚種の漁獲可能量は、研究機関の資源評価を踏まえ行政が決定します。科学的根拠に基づいた適切な漁獲可能量の設定が望まれますが、実際には研究者が推奨する漁獲数量を上回る漁獲枠が設定されている魚種が存在します。国は研究機関の資源評価だけを参考に数値目標を設定するのではなく、生産者団体や学識経験者、政治家や地方行政等の意向を総合的に考慮し、漁獲可能量を決定しています。しかしそのことが漁獲可能量の信頼性を低下させる原因となり、科学的根拠よりも民意的要素を重視しているとの批判につながっています。また一部の地域ではTAC魚種の資源評価が実際の来遊量(サバやイワシなどの魚群が、沿岸域に接近してくる数量(尾数や重量))と大きく乖離し、生産現場では漁獲抑制を強いられることから、資源評価の精度と漁獲可能量の妥当性を疑問視する漁業者が増加しています。

効率優先の漁獲枠配分が地域特性や季節性を損なう

漁獲可能枠は、漁業区分(大臣許可、都道府県知事許可)で大別され、さらに都道府県毎に毎年配分されます。クロマグロの漁獲配分は当初、算定基準年の漁獲実績だけに基づいた初期配分が行われ、資源悪化を招いた過去の過剰漁獲に対する評価や、地域や漁法の特性に対する配慮が十分でなかった等の指摘があります。全国の漁村から、地域特性や季節性、魚種の多様性など、多岐にわたる魚介類を集約し、鮮魚流通する消費形態こそが、日本の多様な食文化を支えてきました。高効率の漁法が漁獲枠を先取りすることで、多様な魚種を生産する地方の小規模漁業者が、水揚げ停止に陥る事例が発生しています。

地方行政の作業負担の重さ

生産者は漁業経営継続のため、漁獲枠の配分を多く獲得すること、限られた漁獲量で売上の最大化を図ることに努力を払います。都道府県は配分を受けた漁獲可能枠を所属する漁法や団体ごとに配分を行いますが、多くの作業がコンセンサス重視の方法に限られ、行政担当者の負担は大きいものがあります。またTAC魚種の資源評価が変動し、漁獲可能量の都道府県枠が増減する中での合意形成は、極めて困難です。国内の漁業における生産者の権利義務を明確にするとともに全国共通のルールを国主導で策定し、都道府県による漁業調整作業の円滑化を図ることが必要です。

(写真:泉澤水産提供)

(写真:泉澤水産提供)

2.今後、日本の水産資源管理はどうあるべきか

科学的根拠に基づいた資源評価を

令和2年12月施行の改正漁業法では、水産資源を持続可能な資源水準に向けて、維持回復を図ることが決定されました。魚種別に資源管理目標を定め、科学的根拠に基づいた資源評価を行い、適切な漁獲可能量を設定することで資源回復と持続的利用を図るものです。この基本政策に基づき、研究機関が資源評価を踏まえて提案する漁獲可能量を尊重し、民意的要素によって内容を変化させないことが最も重要です。

漁獲枠の配分方法にテクニカルコントロールの追加を

大規模沖合漁業と零細な沿岸漁業、運用漁具と固定漁具など、漁法の特性等を考慮せず資源管理を行うことは不可能です。各種の漁業は競合するものではなく、距離をおいて棲み分けることで互いの長所を生かすことが可能です。アウトプットコントロールだけではなく、網目の大きさ制限、禁漁期・禁漁区の設定といった漁具や漁法を制限するテクニカルコントロールを加えた規制を新たに設け、漁獲機会の均衡を担保する漁獲枠の配分が必要です。

データの一元管理で資源評価精度の向上を

資源評価のための各種データの充実とスマート化、リアルタイム化を図る必要があります。TAC魚種が増える中で、適切な漁獲報告、データの集計や解析作業の期間短縮等で精度の高い資源評価につなげていくことが重要です。そのためにはデータの一元管理が重要です。現状でも調査船による観測データや都道府県の定点観測など資源評価に有用なデータが収集管理されていますが、執行機関や予算目的による縦割り管理が存在しデータが散在しがちです。国による一元管理によってデータ解析の精度向上をはかる必要があります。

漁村を守るために伝統漁法を守る

地方では、古くから続く伝統漁法に生活を依存し存続している集落があり、漁村の存続、水産業の振興のためには伝統漁法を守る必要があります。漁業の多様性と食文化の伝承を資源管理とともに実現することが重要です。地方には経済的な合理性にこだわらず手間をかけることで商品価値を向上させてきた産地ブランドが存在します。残すべきものを意図的に守り、地域の漁村を存続させる政策が重要なのです。

国直接資源管理で全体最適化を

資源管理は広域的取組により実現可能であり、資源管理型漁業の実践には都道府県の枠組みを超えた地域連携が必須です。TAC魚種においても都道府県により漁獲量に格差が生じ、地域ごとの意見集約や合意形成は困難です。変動するTAC魚種の資源状況に応じた迅速な採捕計画を確実に実行するためには、国の直接管理が必要です。さらに、都道府県知事による許可漁業や漁業権漁業、遊漁等も総合して国の許可対象とし一括管理することが重要です。したがって、農水大臣許可と漁獲可能枠付与で全体を最適化し、そのうえで漁業資源の管理を国が直接行うべきと考えます。

 

泉澤 宏(いずみさわ ひろし)
有限会社泉澤水産 代表取締役
幼い頃から家業としての定置網に親しんできた。自らの代で岩手県外にも拠点を広げ、現在は宮城県女川町を中心に、北海道、岩手、宮城、静岡、高知での10か所の定置網の経営と、生鮮水産物の販売を行なっている。水産庁水産政策審議会や漁業法改正にまつわる規制改革推進会議にも参加するなど、定置網漁の第一人者として知られる。

 

泉澤宏さんのインタビュー記事はこちら
知られていない、定置網の本質。選択的な漁獲ができる沿岸漁業の未来


<過去の連載>
【連載】これからの日本の水産資源管理を考える
第1回:日本の水産資源減少の理由と必要な4つの施策
第2回-海のステークホルダーで議論を
第3回-食文化を未来につなぐために- -これからの日本の水産資源管理を考える

 

 

 

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