給食会社だからこそできるサステナブル・シーフードの橋渡し(前編)

給食会社だからこそできるサステナブル・シーフードの橋渡し(前編)

パナソニックの社員食堂で月に1回提供されるサステナブル・シーフード(※)を使ったメニューを考案し食材を提供しているのが、給食事業者のエームサービスです。パナソニックの取り組みに協力してMSCASC認証を取得した水産物を取り扱うため、2018年に給食事業者としては日本初のCoC認証を取得しました。

企業の社員食堂をはじめ、食堂受託運営で業界大手のエームサービスは、スポーツ施設や国際大会での飲食サービスにも長い実績を持っています。

食堂でのサステナブル・シーフードの推進に、給食会社はどのように取り組んでいるのでしょうか。エームサービスでCoCをはじめとする認証事務局として社内外へのSDGsの促進や支援を行っている吉岡正登さんにお話を伺いました。

(※)「第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」(2019)にて、イニシアチブ・アワードを受賞

 

給食会社として日本初のCoC認証を取得

―― 吉岡さんは、2018年に給食会社としては日本初となるCoC認証取得を担当されたのですね。

はい。仕入れ部門に異動した頃のことでした。

2018年にスタートしたパナソニックの社員食堂でのサステナブル・シーフードの導入(写真提供:パナソニック)

 

―― きっかけはパナソニック(以下、パナ社)の社員食堂(以下、社食)でのサステナブル・シーフードの導入だったわけですが、パナ社から「CoC認証を取ってください」というような打診があった(※)時、吉岡さんとしては、どのように受け止められましたか。

(※)サステナブル・シーフードとしてMSC・ASC認証商品を導入するためには、社食を運営している給食会社を含め、サプライチェーン全部がCoC認証を取る必要がある。

以前は品質管理業務をやっていたので、認証取得自体に抵抗感はありませんでしたが、規格の要求事項を理解するのに苦労し、毎日のようにMSC日本事務所(現:MSCジャパン)へ問い合わせながら認証取得につなげたことを覚えています。

―― そもそもサステナブル・シーフードの調達は、社内的にどんな取り組み状況だったのでしょうか。

当社でも、サステナブル・シーフードの存在自体は以前から認識していましたが、受託業務ということもあり、なかなかお客様に対して提案ができていませんでした。あの時、パナ社の企業市民活動担当の喜納厚介さんからお話をいただいたことが良いきっかけとなり、頑張ってやりましょうというところからスタートしました。

その後は、喜納さんがいろいろな場面で、「消費者でもある従業員にサステナブル・シーフードの認知度を上げ、『消費行動を変える=社食や社外でサステナブル・シーフードを選ぶ』ようになることでSDGsへの貢献につながる」というスキームをパワフルに発信されたことで大きな反響があり、当社も数十社の企業から問い合せを受けました。

―― パナ社の取り組みから始まった社食でのサステナブル・シーフードメニューの提供というのは、コロナ禍でも続いているのでしょうか。

社食の営業自体を休止している拠点を除いては、感染状況によって食数の増減がありながらも、定期的に提供を続けております。月に1回イベント的に提供しています。また、パナ社では週に2回定番のメニューで使用している拠点もいくつかありますね。

 

エームサービスが受託運営しているパナ社の社食で提供されているサステナブル・シーフードを使った料理の例(写真提供:パナソニック)

 

CoC認証をめぐる意識のギャップ

―― MSC・ASC認証の商品を扱うためにはCoC認証を取る必要があるというところは、クライアントに納得してもらえるのでしょうか。

みなさん、社食という空間で、社内のSDGs浸透や社会への発信、最終的な意識や行動の変容という意義には賛同いただけるのですが、どうしても認証費用、エコラベルのロイヤリティがかかるというところで、「そこまでやらなくても、認証品を扱えるのでは?」という声もあります。

でも、それではエコラベルのロイヤリティなどを運営資金としているMSCやASCの活動自体が持続できなくなります。やはり、賛同するのであれば、CoC認証を取得して提供するというスタンスを当社としては出したいところでもあり、そこのご理解をいただくところが一番苦労しているところですね。

やはり、水産資源の実情やサステナブル・シーフードを選ぶべき理由をエンドユーザーに伝え切れていないというところが課題です。それに、グローバルなシーフードの認証であるMSCやASCが日本ではあまり認知されておらず、MSCやASCがどのような活動をしているかご存じでない方々も、まだまだいらっしゃいます。

携わっている人間からすれば、このままでは次世代は食べたい魚が食べられなくなるという認識があるんですけど、一方で「別に食べられなくなるわけじゃないでしょ?」と思われている人たちもいるのは事実なので、そういう人たちに対して、社食という空間で何ができるかですね。今までは知ってもらうために定期的にサステナブル・シーフードをメニューとして発信してきたのですが、ちょっとアプローチの仕方を変えていく必要があると思っています。

 

エンドユーザー向けの情報発信が必要

―― 水産資源の実情やサステナブル・シーフードの意義をエンドユーザーに伝えるにはどうすればいいと思われますか。

興味がない人たちにも振り向いてもらうようなことをしなければいけないのかなと思っています。パナ社の喜納さんに教わったのは、ほかの企業も真似したくなるようなことをやっていかないと、意義だとか目的を含め、なかなか大きなムーブメントになっていかないということです。

認証費用やエコラベルのロイヤリティだけでなく、食材のバラエティやコストに関しても、やはり、流通量が増えないと解決できません。自社の商品・サービスの売上を伸ばすビジネスで考えれば、インフルエンサーに訴えかけてもらうようなことを考えればいいんですけど、サステナブル・シーフードの流通量を増やすといったキャンペーンは、一企業ではなかなかできません。

MSCジャパンは消費者向けに毎年サステナブル・シーフード月間をやっていますが、エンドユーザーには十分に届いていないような気がします。私としてはエンドユーザーとコミュニケーションをもっと取ってもらえると有り難いと思っていたところ、今年初めてMSCからCoC認証についてのアンケートを受けました。

そこで、まさに生の意見として、「MSCからもエンドユーザー向けに情報発信をしていただき、まず興味を持ってもらえるようになる必要がある」ということを伝えました。社食での取り組みをより大きなムーブメントにつなげていけるように、一緒にやっていきたいという思いで、MSCジャパンやASCジャパンと日々やり取りさせていただいています。

東京サステナブルシーフード・シンポジウム2019で印象に残っている場面があります。脳科学者の茂木健一郎さんが登壇されて「こんなところでリテラシーが高い人たちと生産者の人たちだけで水産資源を語っていても何の意味もないよね」と発言されたのです。場内がざわつきましたが、言われてみるとご指摘の通りだなと同意するところもありました。確かに、危機感を持っている人たちだけで盛り上がっても、大きなムーブメントにはつながらないかもしれません。

東京サステナブルシーフード・シンポジウム2019より、脳科学者の茂木健一郎さんが登壇したセッションの様子。

 

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吉岡 正登 (よしおか まさと)
1977年京都府生まれ。大学では生化学を専攻。食品商社での勤務を経てエームサービス株式会社に入社。同社では品質管理および食材の購買業務に従事し、MSC・ASC・CoC認証に係る取り組みを推進。2018年に給食事業者として初めてとなる認証を取得。現在は環境マネジメント室に所属し、認証事務局として社内外へのSDGs促進・支援を行っている。

 

取材・執筆:井内千穂
中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2016年〜2019年、法政大学「英字新聞制作企画」講師。主に文化と技術に関する記事を英語と日本語で執筆。