マルハニチロ(株) 代表取締役社長 池見 賢
(株)シーフードレガシー 代表取締役社長 花岡 和佳男
2026年3月に社名を「Umios株式会社」に変更し、本社の移転も予定しているマルハニチロ株式会社。その背景には、海の課題を解決することをビジネスにつなげることを一例に、ソリューションカンパニーとして、新たな時代に向けて日本の水産を牽引し続ける意思を世界に示したいという想いがありました(前編リンク)。
さらに、マルハニチロは、2025年10月にシーフードレガシーが設立した「責任ある水産物調達ラウンドテーブル(JRSR)」への参画を表明。環境や人権に配慮した水産物調達やトレーサビリティの確保に向けて、マルハニチロ含め大手7社で取り組みを進めます。
2026年の年初を飾る、マルハニチロ株式会社 代表取締役社長の池見 賢さんと、株式会社シーフードレガシー 代表取締役社長 花岡和佳男の対談。後編では、養殖への取り組みやJRSRについて、また、それぞれの今後の展望を語り合います。
花岡:
サステナブルなフードシステムを構築する上では、養殖もひとつの選択肢として欠かせません。今後、業界はどのように養殖の拡大、サステナビリティに取り組んでいけば良いでしょうか。
池見:
養殖業は漁業を上回る勢いで急激に伸びていますが、養殖も簡単ではありません。まず気候変動の影響があります。私たちは大分県や鹿児島県でブリの養殖をしていて大分県の漁場では2018年にASC認証も取得しています。しかしながら、鹿児島県の漁場では年々海面水温が上がっており、ブリの生簀を沈下式にして、海中深くに沈めるなどの対策をとっています。日本では海面使用権が定められているので、簡単には生簀の場所を動かすことができません。養殖は魚が育つまで運転資金もかかりますし、日本の食料安全保障の観点からも行政がもっとフレキシブルに協力してくれると良いのですが。

年々上昇する飼料代の問題もあります。そのような中で食料残渣を活用した取り組みも行っています。異物混入や安定供給などの課題はありますが、魚を余すことなく使い切るという点では食品廃棄物削減につながる可能性はあります。養殖はとにかくハードルが高いですね。

花岡:
シーフードレガシーは2025年10月、「責任ある水産物調達ラウンドテーブル(JRSR)」の設立を発表しました。御社をはじめとする国内の水産関連大手企業7社に参画を表明していただきました。ここでは、環境や人権に配慮した水産物調達やトレーサビリティの確保に向けて議論していきます。一般的には自社のサプライヤーやお客様を競合他社と共有することに抵抗があるかと思いますが、御社はJRSRや、SeaBOSにも参画し、競合他社と積極的に連携しておられます。連携にオープンである理由を教えてください。
池見:
民間企業として、戦うところは戦わなければならないのは当然ですがこれからの時代、協調すべきところは協調しなければなりません。流通の分野でも競争ばかりではなく、共同運送システムを構築するなど協調が始まっています。私たちも変わる時が来ているのだと思います。JRSRは特に、株式会社セブン&アイ・ホールディングスのようにトレーサビリティの川下に当たる販売事業者も参画していることが大きいですね。生産者だけが集まっていくら認証をとっても、それを買ってくれるところがなければ意味がない。ですから、JRSRの取り組みは素晴らしいと思います。
花岡:
御社では2023年度から、サステナビリティ戦略に掲げる「環境価値」「社会価値」のKPIを人事評価と連動させる仕組みを導入しました。サステナビリティに取り組むことがキャリアアップにつながる素晴らしい仕組みだと思いますが、この仕組みを始めるのは大変ではありませんでしたか?
池見:
私たちの企業価値は経済価値だけでなく環境価値・社会価値も含まれますから人事評価にもこの仕組みを導入したのですが、今年度はさらに、経済価値に関する観点の割合をぐっと減らして環境価値・社会価値に加えて、挑戦と共創の項目をメインに人事評価することにしました。一部署の利益を上げるために社内で張り合う時代は終わり、部署間で連携して企業価値を上げるべき段階にきています。さらには、いかに社内外と共創して新しいことに取り組むかを考えてもらいたい。そうしなければ会社は変わりません。
私たちは今年3月から本社を高輪ゲートウェイに移転し、ソリューション型企業に生まれ変わります。ソリューション型企業へ向けた取り組みとしては2024年5月から、JR東日本と東京大学との共創で「プラネタリーヘルスダイエット」を生み出す取り組みもスタートしています。「プラネタリーヘルスダイエット」は人だけでなく地球にも優しく持続的で楽しい未来の食を生み出そうというプロジェクトで、魚食のあり方を改めて見直しているところなんですよ。
新しい評価制度の下、社内で評価する立場のものは皆悩んでいると思いますが、企業変革に関する事項ついては時間がかかっても悩んでほしいですね。
花岡:
シーフードレガシーはサステナブルシーフード・サミット(TSSS)で「2030年までにサステナブルシーフードを主流に」という目標を掲げています。これを達成するためには何が必要だと思いますか?

池見:
これは1人で達成できる目標ではありません。水産に関わる全てのステークホルダーが同じ思いで盛り上げなければなりませんね。そして、具体的な数値の目標があれば、より進みやすくなるかもしれません。
花岡:
その通りですね。私のイメージは、消費者の皆さんが普段魚を手に取る時に、「認証がついているか」「この魚はサステナブルかどうか」を考えなくてもいい環境が「サステナブルシーフードが主流になっている」状態ですね。サステナブルシーフードを主流化していくにはIUU漁業や人権問題、生物多様性の喪失など解決すべき問題が山積みです。こうした難問を乗り越えていくにはどうしたら良いのでしょうか?
池見:
まさにJRSRでやっているように、競争分野ではない部分を明確にして協調の必要性を理解することが一番だと思います。今は水産業界全体にその認識が生まれていますから、不可能なことではありません。一緒に頑張っていきましょう。魚が獲れなければ戦えませんからね。やるべきことはシンプルなはずです。
花岡:
今回改めてお話しして、これまでとは形の違う、御社の力強いリーダーシップを感じました。日本の水産業も課題はたくさんありますが、良い方向に進んでいるのだと思います。最後に、今年の抱負をお聞かせください。
池見:
今年はなんといっても、企業変革の象徴と言える社名変更と本社移転を控えています。このビッグイベントにドキドキワクワクしていますし、この最大のチャンスをめいっぱい生かしたいと思っています。花岡さんの今年の抱負は何ですか?
花岡:
シーフードレガシーにとっても2026年は重要な一年になります。まず日本では、昨年設立したJRSRを良い形にしていくこと。そして、これまで日本をベースにしてきた活動をアジアに拡大していきます。日本ではサステナブルシーフードの考え方が浸透してきましたが、市場規模の成長が著しいアジアでこの考え方を共有していかなければ、これまでの日本での多くの皆様との協働による努力も水の泡になってしまいます。

池見:
私はタイで9年ほど仕事をした経験があるのですが、その経験から言うと政府も積極的にサポートしてくれますし、アジアでも問題の改善は不可能ではないと思います。花岡さんの取り組みを私も応援しています。
池見 賢(いけみ まさる)
1957年生まれ、兵庫県出身。1981年3月京都大学農学部水産学科卒業後、同年4月に大洋漁業(現マルハニチロ)入社。2008年マルハニチロ食品海外部長、2009年マルハニチロホールディングス海外業務部部長役を経て、2011年4月同社執行役員に就任。2014年4月マルハニチロ執行役員、2014年6月同社取締役、2017年4月同社常務執行役員、2017年6月同社取締役(現)、2019年4月同社専務執行役員を歴任し、2020年4月同社代表取締役社長に就任。
花岡和佳男(はなおか わかお)
1977年山梨県生まれ。幼少時よりシンガポールで育つ。フロリダ工科大学海洋環境学・海洋生物学部卒業後、モルディブ及びマレーシアにて海洋環境保全事業に従事。2007年より大手国際環境NGOの日本支部で海洋生態系担当、キャンペーンマネージャーなどを経て独立。2015年7月株式会社シーフードレガシーを設立、代表取締役社長に就任。環境持続性および社会的責任が追求された水産物を日本を中心としたアジア全域において主流化させるためのシステムシフトを牽引している。
取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。ライフスタイル、飲食、医療などあらゆる分野で執筆を行う。
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