「魚がいなくなれば全員負け」に対する答えを求めて – 第3回水産未来サミットレポート

「魚がいなくなれば全員負け」に対する答えを求めて – 第3回水産未来サミットレポート

2026年3月27日から28日、「第3回水産未来サミット」は、震災からの復興途上にある石川県七尾市、能登の地で開催されました。全国約30都道府県から約200人の水産関係者が集い、日本の水産業の現在地と未来を多角的に議論する場となりました。

開会にあたり、開催地である七尾市の茶谷義隆市長は、地震による港湾被害や観光業の停滞に触れつつ、「海に囲まれたこの地域にとって魚は不可欠な資源であり、未来の水産業をどう描くかが地域再生の鍵になる」と強調。風光明媚な和倉温泉が完全復活に向けて努力を続ける中、再び多くの来訪者を迎えるためにも、水産資源の持続可能な活用が重要であると訴えました。

水産未来サミットは実行のはじまり

本サミットは単なる議論の場にとどまらず、「アイデアを実装する」ことを掲げる実践型の取り組みです。水産未来サミット実行委員長であり、株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング代表取締役社長である津田祐樹氏は、「この2日間で終わりではなくスタート」と語り、建設的な議論と具体的なアクションの創出を参加者に求めました。

まず、キーノートスピーチでは東京海洋大学 准教授の松井隆宏氏がデータをもとに日本の水産業の現在地を整理し、参加者の目線合わせを行いました。

水産資源のうち良好な状態の海域は2割にとどまることを示す図(松井隆宏氏提供)  水産資源のうち良好な状態の海域は2割にとどまることを示す図(松井隆宏氏提供)

それによると、日本の漁業生産量はピーク時の3分の1にまで減少。世界的にも海面漁業はほぼ頭打ちであるのものの養殖業の拡大により水産物供給が伸びる中で、日本は「一人負け」とも言われる状況にあります。その要因としては、日本周辺において資源水準の状況が「高位」にある水産資源の系群は2割にとどまることや、海洋環境の変化、漁業者の減少・高齢化が複合的に影響しています。一方で、違法・無報告・無規制(IUU)漁業由来の水産物が国内流通の3〜4割を占める可能性も指摘され、制度面・流通面の課題も浮き彫りとなりました。

どうやって魚を増やすか

こうした課題に対し、議論の焦点として提示されたのが「どうやって魚を増やすか」というシンプルであるものの本質的な問いです。津田氏は、某スポーツメーカーの広告コピーを水産版に置き換え「魚がいなくなれば全員負け。逆に魚が増えれば多くの問題は解決する」と語り、資源管理を目的化するのではなく、資源回復そのものに立ち返る必要性を訴えました。

1日目の特別ディスカッション「テーマ:魚が増えればみんなハッピー~資源回復に向けての課題と展望~」の内容。(グラフィックレコーディング:長崎県対馬からご参加された吉野由起子さん) 1日目の特別ディスカッション「テーマ:魚が増えればみんなハッピー~資源回復に向けての課題と展望~」の内容。(グラフィックレコーディング:長崎県対馬からご参加された吉野由起子さん)

現場からの報告も示唆に富んでいました。能登のイカ漁業を担う小川栄次氏は、「漁船数の減少や外国船の増加により資源と安全保障の両面でリスクが高まっている」と指摘。EEZ内での操業監視という側面も含め、漁業が国防的役割も担っている現実が共有されました。

一方で、希望となる動きも各地から報告されました。「シン・漁村」をテーマとしたパネルでは、北海道や三重などで移住者や学生を受け入れ、教育や観光と結びつけながら漁村の価値を再定義する動きが広がりつつある事例が紹介されました。参加者からは「漁村は漁業だけで成り立つものではなく、文化や教育、コミュニティの価値を含めて再設計すべき」との意見が出され、水産業だけにとらわれない視点の多様性が強調されました。

シン・漁村」をテーマに議論。(右から保志弘一さん(保志漁業部 副代表)、 小笠原宏一さん(INAKABLUE 代表)、橋本純さん(友栄水産)) 「シン・漁村」をテーマに議論。(右から保志弘一さん(保志漁業部 副代表)、
小笠原宏一さん(INAKABLUE 代表)、橋本純さん(友栄水産))

また、産学官連携による技術開発や人材育成の取り組みも共有されました。たとえば福井県小浜市では高い海水温による養殖魚の大量死を受け、酒粕で育てる「よっぱらいサバ」の完全養殖*を推進。給食などを通じて次世代に海を伝える試みも紹介されました。

*人工ふ化した親魚から卵を採り、その卵をまた人工ふ化させて次の世代へとつないでいく、天然資源に一切頼らない養殖方法のこと。

政策提言の動きも加速しています。2025年2月には、サミット発のプロジェクトとして水産予算のあり方を見直す提言を自由民主党の水産総合調査会に対して行い、資源管理関連予算が増額の後押しになった成果も生まれました。2025年9月にも、農林水産省の小泉進次郎大臣(当時)と藤田仁司水産庁長官を訪問し、科学者と漁業者の対話の重要性や、透明性の高い資源管理の必要性についても提言しています。

どんなものであれば「サステナブル」?

2日目は、1日目にディスカッションした内容やプロジェクトごとの成果発表をグラフィックレコーディング(模造紙にまとめられたイラスト。写真参照)で振り返りつつ、プロジェクトごとのグループに分かれてディスカッション。国への政策提言、サステナブルシーフードの普及・啓発、資源管理ゲームなど、あらゆるテーマが共有されました。

1日目の資源管理事例集プロジェクトによる成果発表では、各地域の資源管理の成功事例をまとめた事例集を発表しました。(グラフィックレコーディング:長崎県対馬からご参加の吉野由起子さん)
1日目の資源管理事例集プロジェクトによる成果発表では、各地域の資源管理の成功事例をまとめた事例集を発表しました。グラフィックレコーディング:長崎県対馬からご参加の吉野由起子さん)

私が参加したのは「サステナブルシーフード普及啓発プロジェクト」。
養殖業者、大学生、人材関係者など、さまざまな立場の参加者が集まり、「サステナブルシーフードをどのように普及していくべきか」について話し合いました。

まず議論になったのは、「そもそもサステナブルシーフードとは何か?」という問いです。私は日々、サステナブルシーフードの推進について考える立場にいるからこそ、人によってその定義が異なる時があると感じていました。そのためまず議論を始める前に「どのような水産物であればサステナブルだと考えますか?」と参加されていた漁業者を含むメンバーに問いかけると、さまざまな意見が返ってきました。例えば、環境に配慮して生産された水産物であっても、遠く離れたアフリカなどから日本へ輸入される魚は、フードマイレージの観点からは本当にサステナブルと言えるのか。あるいは養殖業者の方からは、養殖の餌は代替飼料が普及しつつある一方で、高値では販売しにくい魚のアラや頭などを国内で再活用し、餌として循環させる仕組みこそサステナブルではないか、という意見もでました。また、国内で養殖をされているからこその視点でとても新鮮な議論でしたが、こうした多様な視点から投げかけられる問いに、改めて考えさせられました。
また、サステナブルシーフードの普及には消費者への啓発が重要であることはもちろんですが、なかなか欧米に比べると消費者意識を上げていくことは昨今の物価高もあり、なかなか一筋縄ではいかないことも日々の中で感じていました。だからこそ、水産物が消費者の手元に届くまでの過程で、漁業者とつながる仲介業者、卸売、小売など、サプライチェーン全体で後押ししていくことの重要性についても議論されました。

資源管理の重要性をを自ら体験

次に参加したのは、サステナブルシーフード協会代表理事の鈴木允さんが開発した「資源管理ゲーム」。

「資源管理に関する難しいワードや仕組みを楽しく学べる」と聞き、実際に体験してみることに。コインを魚に見立て、たくさん魚のいる海から自分の持っているカゴ(船)に順番に獲っていきます。毎年、海に残った魚と同じ数だけ魚が増える仕組みになっており、「獲る」と「増える」を5年間繰り返しながら、5年間の総漁獲量が最大になるように漁を行います。そして、チーム内で最も総漁獲量が多かった人が勝ちというルールです。

グループの中で競いながら、資源のバランスを考えつつゲームを楽しみました グループの中で競いながら、資源のバランスを考えつつゲームを楽しみました

実際のゲーム詳細は、ぜひ皆さんにも体験してほしいのでここでは伏せますが、ゲームの中では、自分が漁師の立場で漁をするだけでなく、他の参加者(=他地域の漁師)が多く獲っている様子を見ることで、「他の地域に獲られる前に自分たちが獲ろう」といった声も自然と上がり、人間の本能的な行動が垣間見える場面もありました。

一方で、魚を増やさなければ5年後に獲れる量は減ってしまいます。しかし、生計を立てるためには一定量を獲る必要があります。では、どのくらいの漁獲量が適切なのか。そんな問いを頭の中で考えながら体験する時間となりました。さらに、理解するハードルが高い資源管理のキーワードである「MSY」「TAC」「IQ(個別割当方式)」「再生産関係」なども、ゲームの流れに沿って学ぶことで、より実感を持って理解を深めることができました。

能登の漁業の現場を知る

3日目は能登半島全体の漁業者をめぐるツアーに参加。輪島から七尾までの各地をぐるっとまわり、震災後の漁業の今の様子を間近で見る事ができました。

石川県は石川県漁協のみで管轄しており、七尾には七尾支店があります。元々、七尾はナマコの底引き網が全体の漁獲量の79%と、多くを占めていました。

2023年末、震災2ヶ月前。七尾湾で漁業を営んでいたJF全国漁青連 副会長理事の竹内さんは、ナマコ資源の減少に強い危機感を抱いていました。七尾支所の漁師たちにとって、ナマコ漁は重要な生業であり、ナマコが獲れなくなれば漁業が成り立たなくなるという切実な現実が迫っていたといいます。

こうした状況のなか、「誰かが行動を起こさなければ、地域の漁業そのものが立ち行かなくなる」という思いから、竹内さんは牡蠣養殖の開発を行う梅津さんとつながりました。

当時、梅津さんが開発した日本初の牡蠣養殖システムはまだ試験段階にあり、実用化に向けた検証を進めている最中でした。しかし竹内さんは、「海の環境を改善し、ナマコが増える海を取り戻したい。そのために牡蠣養殖を新たな漁業として育てたい」と強い意志を示し、その思いに応える形で七尾湾への導入が決まりました。

海に浮かんでいる黒いかごの中に牡蠣を入れ養殖する流れを説明する様子 海に浮かんでいる黒いかごの中に牡蠣を入れ養殖する流れを説明する様子

しかし、その直後の2024年1月1日、能登半島地震が発生します。震災によって七尾湾は大きな被害を受け、漁協職員の数も大幅に減少しました。さらに地盤隆起によって地形が変わり、七尾湾ではナマコのみならず魚も減少。海底は起伏が激しくなり、ヘドロが堆積しやすい環境へと変化してしまいました。その深刻な現状は、今なお回復してはいません。

道路が途中から崩れている様子。能登半島をバスで走る中で何度も遭遇しました。道路が途中から崩れている様子。能登半島をバスで走る中で何度も遭遇しました。

漁港の損壊や住居被害によって、漁業を続けること自体が困難な状況が続くなか、奇跡的にこの牡蠣養殖システムは残りました。もしも震災前、ナマコ漁だけに頼り続けていたら、震災で全く獲れなくなったナマコの代わりに新しい漁業を模索するのは相当な厳しい道のりだったかもしれません。「昔からの漁業だけに頼り続ける漁業ではなく、地域の漁業を活性化させるために新しく変化をし続ける」ために竹内さんのとった行動が、七尾の漁業の未来を開くことになったのです。

震災後の能登の人々の漁業への向き合い方

震災によって元々の漁が難しくなり、地域の人口減少も進む。そうした深刻な状況にありながら、むしろその厳しい現実があるからこそ、新たな漁業の可能性を模索し続ける人々の姿がこの水産未来サミットにはありました。従来のやり方に固執するのではなく、海の環境そのものを見つめ直し、未来につながる産業を育てようとする挑戦には、地域漁業の強い意志と覚悟が感じられました。

能登町の小木漁港にてイカ釣り漁船を間近で見学。そこには能登町への熱い思いが。 能登町の小木漁港にてイカ釣り漁船を間近で見学。そこには能登町への熱い思いが。

震災後初めて能登の現地を訪れて、まだ震災の影響が色濃く残っていることに衝撃を受けながらも強く印象に残ったのは、単なる「復旧」ではなく、その先にある「再生」を見据えていることでした。失われたものを取り戻すだけではなく、これまで以上に持続可能で、次世代につながる漁業をつくろうとする姿勢です。その挑戦は、七尾湾という一つの地域の話にとどまらず、変化する海と向き合う日本各地の漁業地域にとっても、大きな示唆を与えるものだと感じました。

「現場視点」での思考とアクションを

毎年恒例の大懇親会。全国の生産者それぞれの自慢の魚たちを目の前に、会話が弾みます 毎年恒例の大懇親会。全国の生産者それぞれの自慢の魚たちを目の前に、会話が弾みます

全国から集まった漁業者を中心に、年代も立場もさまざまな人々が集い、会場全体が一体となるような高揚感に包まれていた水産未来サミット。水産に思いを寄せる人が多いからこそ、水産未来サミットではここでしかできない議論がたくさん生まれていたように思います。

総じて本サミットは、単なる危機意識の共有にとどまらず、「現場・科学・政策・市場」をつなぐ実践的なプラットフォームとして機能していることを強く印象づけました。震災からの復興という背景を背負う能登の地で、「魚を増やす」という共通目標に向け、多様な挑戦や知見が交差した意義は非常に大きいと感じます。

日本の水産業が再び持続可能な成長軌道に乗るためには、こうした現場発の連携と行動をいかに広げ、次の世代へつないでいけるかが問われているのではないでしょうか。

次回の開催は2027年1月、青森県で予定されています。水産業の活性化と持続可能性のために、ユニークな取り組みを続ける漁師たちの現場に触れながら、真冬の厳しい寒さとともに、その熱い挑戦を体感できる場になるはずです。

 

文/シーフードレガシー 広報 冨塚 由希乃、有川 真理子

 

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