【連載】第5回 自主管理を前に進めるために-これからの日本の水産資源管理を考える

【連載】第5回 自主管理を前に進めるために-これからの日本の水産資源管理を考える

【シリーズ これからの日本の水産資源管理を考える】
第5回は、東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科の渡部 礼音さんに寄稿いただきました。渡部さんは、大学院で環境変動下における漁業のあり方を研究しながら、Chefs for the Blueが主催する海と食のサステナビリティについて学ぶ学生向けプログラム「THE BLUE CAMP」の一期生として、資源管理に取り組む現場を視察しました。そして2026年3月に開催された水産未来サミットでは、有志で立ち上げたプロジェクトの一つである「資源管理事例集プロジェクト」の成果を発表しました。

よりよい自主管理を目指して

水産未来サミット」は、全国の水産関係者の有志が集まり、水産業に必要な変革を合宿形式で議論し、実践を目指す取り組みです。議論して終わるのではなく、参加者自身でプロジェクトを立ち上げ、具体的なアクションにつなげていく点に特徴があります。本コラムでは、サミットから生まれた「資源管理事例集プロジェクト」で作成した「資源管理事例集」についてご紹介します。

改正漁業法では、漁獲可能量(TAC)による資源管理が基本となりましたが、TACの対象でない魚種については、漁業者による自主的な資源管理の取り組みが求められています。沿岸漁業においては、TACの対象でない魚種の漁獲は、量で約6割、生産額で約8割を占めており、自主管理の実効性を高めていくことが重要です。そこで、資源管理にさらに力を入れたい地域を応援したいという想いから、資源管理の先行事例を集め、取り組みの内容や体制、実践の過程などをまとめた資源管理事例集を作成しました。

先行事例から見えてきた共通のパターン

プロジェクトで集めた先行事例には、共通のパターンがありました。まず、「最近魚が獲れなくなってきた」「このままでは漁業を続けられない」といった危機感を周りの漁業者や関係者で共有し、取り組みを主導する小さなチームをつくります。その上で、水産試験場や大学、行政などの外部の専門家の力を借りながら、導入しやすい小さなルールをつくり、実践します。そして、記録をもとに効果を検証し、ルールを見直します。このサイクルを繰り返しながら、資源の回復を目指していきます。

集めた事例から見えてきた「共通のパターン」の図解(資源管理事例集 3ページ) 集めた事例から見えてきた「共通のパターン」の図解(資源管理事例集 3ページ)

しかし、資源の回復には時間がかかるため、その間に漁業者の負担ばかりが大きくなると、取り組みを続けることは難しくなります。そのため、資源の回復という成果が現れるまでの間、漁業者が「もう少し取り組みを続けてみよう」と思える状態をつくることが重要です。例えば、資源管理の一環で操業日数を減らした場合、燃油代などの操業コストを削減できます。また、資源管理とあわせて、選別・出荷方法の見直しや品質向上に取り組むことで、単価を高め、減収を補うこともできます。こうした経営面でのメリットは、資源管理に伴う負担を和らげ、取り組みを継続する力になります。

納得できるまで話し合う

ここからは、事例集に掲載した取り組みを二つご紹介します。一つ目は、千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合の皆さんがおこなう、キンメダイの資源管理の取り組みです。組合には、御宿町、勝浦市、鴨川市の16船団が所属しており、操業時間の短縮や禁漁期間の設定、漁法や餌の制限、小型魚の再放流など、地域をまたいだ資源管理をおこなっています。

前述の「共通のパターン」に沿って整理した、千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合の取り組みの歩み (資源管理事例集 8ページ) 前述の「共通のパターン」に沿って整理した、千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合の取り組みの歩み
(資源管理事例集 8ページ)

50年以上にわたる取り組みですが、資源の状況に合わせてルールの見直しが続けられています。例えば、操業時間については、漁獲量が下がるたびに話し合いが実施され、1993~2013年の20年間で、1日8時間から、6.5時間、6時間、5時間、4時間へと短縮されました。

こうした取り組みを支えているのが、徹底した話し合いです。ルールを決める際、まず船団ごとに意見をまとめてから、各船団の代表者が集まって話し合います。その際、多数決で決めることはせず、1船団でも反対があれば、全船団が納得するまで話し合いを重ねます。自分たちで納得して決めたルールだからこそ、守られ続けているのです。

科学と現場をつなげる

二つ目は、三重県志摩市和具地区におけるイセエビの資源管理の取り組みです。和具地区では、イセエビ漁業者で構成される海老網同盟会が中心となり、1960年代以降、禁漁区の設定や漁具の制限、網数の削減などをおこなってきました。しかし、これらは漁業者の経験に基づくルールであり、科学的な根拠を持つものではありませんでした。

転機となったのは1990年代です。資源調査をおこなった県の行政と試験研究機関から、漁獲開始年齢の引き上げなど、より効果的な管理方法が提案されたのです。漁業者たちは話し合いを重ね、合意のできたものから導入していきました。例えば、漁獲制限サイズについては、1年に10gずつ、3年間かけて引き上げられました。こうして、科学的な知見が取り入れられていったのです。

科学者の提案が受け入れられた背景には、日頃のコミュニケーションがありました。科学者は勉強会を開くだけでなく、網さばきの手伝いや地域の伝統行事への参加を通じて、漁業者との関係を築いていきました。特に、若手漁業者との信頼関係は、合意形成を進める力となりました。若手漁業者の熱意が周囲に伝わり、新しいルールの導入に慎重だった漁業者も少しずつ理解を示すようになったといいます。科学的な知見を活かすには、科学と現場をつなぐための関係づくりが重要と言えます。

資源管理において大切なこと

資源管理は、ルールをつくって終わりではありません。関係者が納得し、取り組みを続けられる仕組みをどうつくるか。そして、科学的な知見をどう取り入れ、取り組みの実効性を高めていくか。この二つが重要です。今回紹介した事例からは、これらを実現するための工夫が数多く見えてきました。海洋環境が大きく変化している近年では、状況に応じてルールの見直しを続けていくことがより一層求められます。本事例集が、その歩みを支える一助となれば幸いです。

【資源管理事例集のダウンロードはこちら

参考文献
西村絵美(2013)「漁業者の集団的行動とその展開に関する一考察――三重県和具地区の海老網集団を事例として――」、『漁業経済研究』第57巻第1号、pp.107-122

 

文章/東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科
渡部 礼音(Reon Watanabe)

 


<過去の連載>
【連載】これからの日本の水産資源管理を考える
第1回:日本の水産資源減少の理由と必要な4つの施策
第2回-海のステークホルダーで議論を
第3回-食文化を未来につなぐために
第4回 国の一括管理で全体最適化を

 

 

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