水産・養殖業振興協議会(COMEPESCA)
理事長 シトラリ・ゴメス・レぺ
メキシコの非営利団体である水産・養殖業振興協議会 COMEPESCA(Consejo Mexicano de Promoción de los Productos Pesqueros y Acuícolas, A.C.、以下、コメペスカ)の理事長を務めるシトラリ・ゴメスさん。Part 1では、ゴメスさんの生い立ち、山間でニジマスの養殖を始めた経緯から、コメペスカの理事長としてメキシコ発のサステナブルシーフード運動「Pesca Con Futuro(未来を見据えた漁業)」を牽引してきた奮闘を伺いました。
Part 2では、メキシコ古来の魚食文化の復活に向けて日本から学びたいこと、国内消費を阻む価格の壁、IUU漁業に対抗するトレーサビリティの取り組み、そしてサステナブルシーフード主流化への戦略について伺います。
――メキシコの食文化について、もう少し教えてください。メキシコの人々は肉をよく食べるとのことでしたが、魚はどのように食べていたのでしょうか。
メキシコには1万1000キロメートル以上の海岸線があり、内陸にも多くの湖や川があります。何世代も、何百年も前から、人々は魚をもっと食べていましたし、昆虫もたくさん食べていました。
古来、メキシコの人々はもっと魚を食べていた。© Ignacio Urquiza――昆虫ですか?!
ええ。タンパク源としては、魚と昆虫がベースだったのです。それがメキシコ古来の食文化でした。でも、その後、ヨーロッパ人がやってきて、肉を持ち込んだという歴史的な背景があります。
――そうすると、もっと魚を食べることは、メキシコ古来の食文化に立ち返ることでもあるのですね。私たち日本人も魚をよく食べます。魚食文化を推進していく上で、メキシコとどのような協力の可能性があるとお考えですか?
メキシコで私たちが学ばなければならないことの一つは、魚介類への敬意、扱い方、漁獲や水揚げの仕方、調理法などの技術です。私たちはその全てを知りたいんです。協力の可能性がある分野だと思います。世界中で日本ほど魚介類を上手に調理する国はありませんから。
――それは、漁業者や料理人の方々が今日でも磨き続けている伝統的な技術で、日本の誇りです。
ええ。今回のシーフードレガシーとの連携の話を伝えたとき、私たちのシェフはみんな日本に行きたがっていました。今年か来年、必ず行きたいと。魚と魚介類を巡る文化、そして食材への敬意において、日本は世界一です。
――刺身や寿司などはメキシコでも知られているのでしょうか。
日本食のお店やレストランによって広められています。ここ数年で広まった新しい現象です。
――メキシコの人々がもっと魚を食べるようになって、国内消費が増えれば、ほとんどを輸出するのではなく、メキシコ産の水産物をもっと国内で売れるようになるのでしょうか。
いえいえ。確かに輸出されていますが、理由はそれではないんです。メキシコ産の水産物を他国で売る方が、自国で支払える価格よりもはるかに高く売れるからなんです。私たちは高付加価値の製品を生産しています。二枚貝類やクロマグロ、それからタコやハタも。これらは非常に付加価値の高い水産物なんです。アジアやヨーロッパ、アメリカで支払われる価格は、メキシコの人々には支払えないんです。
メキシコの市場の鮮魚売り場(写真提供:COMEPESCA)それでも私たちは、せめて少しでも国内で食べられるようにしようとしています。生産者たちも、コロナ禍で市場が閉鎖された時に、メキシコ国内でも売らなければならないことに気づきました。今ではメキシコ産のタコが、国内の市場にも出回るようになりました。ただ、シェフたちが売る相手はごく一部の富裕層に限られます。メキシコでは人口のほとんどが低所得層ですから。
――価格の問題と国内消費の拡大に、どのように取り組んでいくお考えですか?
多くの戦略に取り組まなければならないと思います。プロモーションや、各地域のコミュニティが自分たちの水産物を食べるようになるための施策。水産コミュニティのほとんどは、自分たちが漁獲した魚を丸ごと活用して食べることもしていないんです。みんな切り身ばかり欲しがって、脂肪酸や栄養分のほとんどが、頭や内臓にあることを理解していない。それを変えていくことも私たちの取り組みの一つです。
サステナブルシーフード運動「Pesca Con Futuro(未来を見据えた漁業)」の一環としてそれから、内陸部や河川などで、もっと養殖を推進するという方法もあります。漁業ではなく、養殖です。漁業者にはもっと良い値段で売って、漁獲量は減らしてほしいと考えていますから。メキシコの養殖業はかなり面白い段階に入っているんです。
メキシコのバハ・カリフォルニア州などではアワビの養殖が盛ん © Ignacio Urquiza――メキシコで生産されるシーフードの半分以上がIUU(違法・無報告・無規制)漁業由来であり、合法的に調達されたシーフードを提供する企業が、市場での価格競争に苦戦しているとのことでした。IUU漁業に対してどのように取り組んでいますか?
それは政府が解決しなければならない問題です。コメペスカはIUU漁業に直接対処する活動はしていません。私たちのビジネスは、持続可能性を推進すること、そして持続可能性に取り組む意欲を持って法律に従って生産する人たちと一緒に活動することです。ビジネス側からできることは、トレーサビリティに取り組むことだと考えています。
――政府にこの問題への対処を求めているのでしょうか?
はい。私たちは情報を提供し、アドボカシーとしてできることはやっています。
――トレーサビリティと透明性に取り組んでおられることは、IUU漁船と直接闘うのとは違った形で、市場とサプライチェーンを通じて問題に取り組むことになりますね。
はい。結局のところ、買い手と市場が道筋を作っていきます。彼らは違法な製品を自分たちの棚に並べたくないんです。なぜなら大きなレピュテーション・リスクですから。その意味で、小売店やホテルのパートナーは、メディアに訴えたりトラブルに巻き込まれたりしない形で、この問題に対処する上で、素晴らしい味方になってくれています。
メキシコのスーパーマーケットの鮮魚売り場。「#PescaConFuturo」の認定を受けたサステナブル水産物が並ぶ。――2024年の東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS2024)では、「2030年までにサステナブルシーフードを主流に」という目標を掲げました。サステナブルシーフードを主流化するためには何が必要でしょうか。
一つは持続可能性を経済的にも成り立つものにできるかどうかにかかっています。特に流通業者がそこから少しでも利益を得られるようになるということですね。
もう一つは、人々が業界の長期的なビジョンに目覚めるということです。持続可能な形で生産・漁獲をしなければ、これから先の数十年、私たちの子どもたちや次の世代のために十分な魚は残らないんです。すぐに利益を出したいだけだという企業の人たちにも納得してもらわなければなりません。他に選択肢はないのだと。
メキシコの海岸を出航する小型漁船 © Ignacio Urquizaそれから、これが国の政策にもなる必要があります。メキシコでは、国レベルのトレーサビリティシステムの法的枠組みが近々新設されようとしています。私たちは他の組織と共に取り組んできました。数ヶ月以内、できれば数週間以内にまとまることを期待しています。
――コメペスカも2030年に向けた独自の目標をお持ちですね。目標を達成するために、必要だと思われることは何でしょうか?
もっと積極的に動かなければなりません。Z世代やミレニアル世代を中心に巻き込んで、おそらくBtoC(消費者向け)キャンペーンに戦略を切り替える必要があります。大規模な国際キャンペーンです。これは必ずやらなければなりません。少なくとも今後3年以内に達成すべきことだと考えています。ただ、資金が足りないので、資金調達に取り組んでいるところです。なぜなら、BtoCキャンペーンの方がBtoB(企業向け)キャンペーンよりもずっとコストがかかるからです。
サステナブルシーフードの主流化には、国境を越えた連携が不可欠。2025年にフランスで開催された国連海洋会議の会場内、水産食料連携組織「Aquatic Blue Food Coalition」のブースにて。右から2人目がシトラリ・ゴメスさん。(写真提供:COMEPESCA)――サステナブルシーフードの主流化には、非常に多くの課題への取り組みが必要です。このように複雑な問題に向き合うには、どのようなアプローチが最も有効だと思いますか?
私はずっと自然保護論者でしたが、サステナブルシーフードについては何も知りませんでした。今もずっと学びながら進んでいるんです。財団や人々は、私たちに「5年戦略を教えてください」と言いますが、それは無理です。戦略は毎年変わります、その時により良いと思える方向へと進み続けているんです。
もちろん、サステナブルシーフードを推進し、人々にその重要性をより意識してもらうという同じ焦点はあります。でも、ずっと進みながら学び続けているんです。3年戦略を策定しましたが、また変えなければなりません。大きな変更ではないのですが、すべての目標を達成するために、いくつかのステップをもっと速く進める必要があります。
――メキシコの水産物について、本を出版されたそうですね。
はい。昨年の12月に出たばかりで、タイトルは『Getting to Know Mexico Through Its Fish and Seafood(魚と海産物を通じてメキシコを知る)』という本です。メキシコ産シーフードについて、市場、Pesca Con Futuro運動、その物語、持続可能性——本当に美しい本です。
メキシコの市場より © Ignacio Urquizaメキシコ各地の漁業者を訪ねて回り、我が国の最高の写真家の一人であるイグナシオ・ウルキサ(Ignacio Urquiza)が撮影してくれました。51人の執筆陣がそれぞれの専門分野を執筆し、マスの章は夫が書きました。シェフも何人か出てきて、シーフード料理の写真も載っています。

――精力的な活動に感銘を受けます。ご家族は、ずっと支えてくれたのでしょうね。
夫がいなければ、私はコメペスカの活動に関わることはできなかったでしょう。コメペスカに入る前は私が養殖場の経営に携わっていましたが、今では夫がほぼ全てやってくれています。息子が小さかった頃は、時々出張にも連れて行きましたが、その息子は今、大学に進学するところです。
メキシコ山中で一家が経営するニジマス養殖場にて、夫と幼かった息子と。家族はコメペスカのプロジェクトを信じてくれているのです。コメペスカにいる多くの生産者と私たちは長い付き合いがあります。長い時間をかけて培った信頼関係です。
「Pesca Con Futuro(未来を見据えた漁業)」キャンペーンを共に推進してきたコメペスカの仲間たちと。前列でしゃがんている女性の左がシトラリ・ゴメスさん――それはとても大切ですね。
ええ。それから、自分のしていること、言っていることが一致していることが大事だと思います。つまり、自分が推進していることと、自分が生計を立てている仕事との間に、非常に密接な関係がなければならないんです。自分がやっていないことを説教するようなものであってはならない。自分の言うことを実践し、その逆もまた然り、ということです。ひと言で言うと・・・英語だとcongruenceでしょうか。
――Congruenceというのは、実際の自分と理想の自分が一致して、調和していることですね?自分に嘘がないということでしょうか。
そう、それが言いたかった言葉です。一貫していることが大切だと思います。
海と共に生きる——夕暮れのメキシコの浜辺 © Ignacio Urquiza
シトラリ・ゴメス・レペ(Citlali Gómez Lepe)
メキシコの非営利業界団体であるコメペスカの理事長として、メキシコ発のサステナブルシーフード運動「Pesca Con Futuro(未来を見据えた漁業)」を主導。生物学者・養殖および農村開発の専門家。メキシコ国立自治大学(UNAM)で生物学を学ぶ。1992年に家族と共に多種養殖施設「Neminatura」を設立し、メキシコ中央部でニジマスの養殖や責任ある農業・養殖の小規模プロジェクトに30年以上にわたり従事。コメペスカの理事を経て2017年より理事長。ラテンアメリカのサステナブル漁業同盟「Alpescas」共同創設者。2025年よりグローバル・シーフード・アライアンス(GSA)理事も務める。
取材・執筆:井内千穂
主に科学技術と文化に関する記事を日本語と英語で執筆。中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2024年、法政大学大学院公共政策研究科サステイナビリティ学修士課程修了。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。
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